M&P Legal Note 2024 No.5-1
『エクソソーム試薬に係る監視指導について』(厚労省令和6年7月31日発出)と題する事務連絡について
2024年10月10日
松田綜合法律事務所
弁護士 永木 琢也
1 はじめに
厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課は、令和6年7月31日、「エクソソーム試薬に係る監視指導について」と題する事務連絡(以下「本事務連絡」といいます。)を公表しました(https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T240731I0040.pdf)。
これまで、エクソソーム試薬を用いた医療については、一般社団法人日本再生医療学会が2021年3月10日に公表した「エクソソーム調製・治療に対する考え方」や、同学会が2024年4月30日に公表した、「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第 1 版)」などにより、安全性・有効性の確保におけるリスクや法令上の規制の不足に関する懸念等が示されていました。
本事務連絡では、令和6年7月31日時点において、エクソソーム試薬について、薬機法上の医薬品としての承認を受けた製品は存在せず、疾病の治療等に用いた場合の品質、有効性及び安全性が確認されたものではないことを前提に、「エクソソーム試薬のうち医薬品と誤認させるものや医薬品的効果効能を標ぼうし、又は暗示するものについては」、「無承認無許可医薬品として貴管下販売業者等に対する薬機法に基づく指導及び取締りの徹底」を求めています。
以下では、エクソソームとは何か及び本事務連絡公表の背景についてご説明をしたうえで、薬機法の無承認無許可医薬品に関する規制を概観した後に、本事務連絡の具体的な内容について見ていきます。
2 本事務連絡公表の背景
エクソソームとは、「種々の細胞から分泌される脂質二重膜構造を持つ小胞。血液、唾液、尿、脳 脊髄液等の体液や細胞培養液中に存在する。細胞外小胞(extracellular vesicles;EV)の一種。」とされています(https://www.pmda.go.jp/files/000249829.pdf)。
エクソソームは、難治性疾患の新たな治療方法としての利用可能性や美容分野での利用可能性が期待されており、近時、多くの医院において、自由診療として、エクソソームを用いた医療が提供されています。
医院におけるこのようなエクソソームに関するニーズをとらえて、エクソソーム試薬を医院に対して販売する際に、当該エクソソーム試薬を治療に用いることができる旨を標ぼうして販売する事業者が存在することが問題視されていました。
このような背景のもと、エクソソーム試薬について一定の製品を対象に取り締まりの徹底を求める旨の本事務連絡が公表されたものとなります。
3 薬機法における無承認無許可医薬品に関する規制について
薬機法上、無承認無許可医薬品の販売及び広告は禁止されております(薬機法55条2項、68条)。そして、特定の製品が無承認無許可医薬品に該当するかについては、そもそも当該製品が「医薬品」(2条1項2号、3号)に該当するのかが問題となります。
ある製品が「医薬品」に該当するか否かは、当該製品が医薬品としての目的を有するか又は医薬品としての目的を有していると通常人が認識するかどうかを、その物の成分本質(原材料)、製品において表示された使用目的・効能効果・用法用量並びに販売方法、販売の際の演述等から総合的に判断するとされています(無承認無許可医薬品の監視指導について 参照)。
そして、
- 疾病の治療又は予防を目的とする効能効果、
- 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果、
- 医薬品的な効能効果の暗示については、医薬品的な効能効果を標ぼうしているものとみなすとされています。
本稿公表時点においては、エクソソームは医薬品成分として定められておりませんので、エクソソームを用いた製品が医薬品に該当するかについては、当該製品が医薬品的な効果効能等を標ぼうしているかによって、医薬品該当性が判断されることとなります。
4 本事務連絡の内容
本事務連絡において、指導を行うこととされた製品、すなわち、「医薬品」として取り扱うとされたものは、以下の6点です。
(1) 疾病の治療等の目的に使用できる旨が明示又は暗示されているもの
(2) 諸外国において、医薬品として承認等されている旨が説明されているもの
(3) 薬機法に基づく承認を受けた医薬品との比較等を用い、あたかも疾病の治療等が可能であるかのように誤認させるもの
(4) エクソソーム等を用いた疾病の治療等の研究が盛んであるなどの説明により、あたかも疾病の治療等が可能であるかのように誤認させるもの
(5) 製品の品質が医薬品と同等であるなどの表現により、医薬品と同様の目的で使用可能であるかのように誤認させるもの
(6) 以上のほか、試薬としての使用目的が明示されていないなど、「治療等以外の目的で使用するもの」であることが明らかでないものや、試薬と称しながらも次のように試薬の用途とは異なる方法で販売するもの
・医療機関に対し、疾病の治療等の目的のために使用できる旨説明して販売するもの
・インターネットサイト等において、使用者の口コミとして、疾病の治療等の目的で使用できる旨の口コミを掲載しているもの
また、これらに該当する場合の他にも、「医薬品と誤認させるものや医薬品的効果効能を標ぼうし、又は暗示する製品」についても指導を行うこととされています。
本事務連絡において指摘されている上記の内容は、結局のところ、疾病の治療が可能という医薬品的な効果効能を明示又は暗示しているものは、指導、取り締まりを行うという内容となります。このように、本事務連絡において、指導することとされた上記6点の内容は、新たな取り締まり対象を示したものというよりは、従前の医薬品該当性の判断要素である①から③の延長線上に位置づけられるものと評価できます。
そのため、本事務連絡の公表によって、エクソソーム試薬に関する医薬品該当性の判断が変わったわけではありません。本事務連絡に記載された内容は、これまでの医薬品該当性についての考え方からも、医薬品に該当するとして指導取り締まりの対象であったものと思われます。
なお、本事務連絡では、「エクソソーム等を称する製品に限らず、疾病の治療等に用いることを目的としていないにも関わらず、医薬品と誤認させるものや医薬品的効果効能を標ぼうし、又は暗示する製品についても同様である」とされており、エクソソーム試薬以外の製品に関する医薬品該当性の判断にあたっても、本事務連絡は参考になるものと思われます。
5 おわりに
以上のとおり、本事務連絡の位置づけとしては、新たに指導・取り締まり対象を拡充したものではなく、従来の医薬品該当性の考え方を踏襲したうえで、指導・取り締まりの対象を明示したものと考えられます。
他方で、本事務連絡により指導・取り締まりの対象が明示された効果として、今後、エクソソーム試薬に関する指導・取り締まりが強化されていくことが予想されます。そのため、エクソソームを用いた製品について、医薬品に該当すると評価されないよう、本事務連絡に記載された6点の内容のほか、従前の医薬品該当性の判断基準を参照して、適切な広告・販売を行っていくことが必要となります。
なお、薬機法上の取り締まりではないものの、エクソソームを用いた医療を提供していた医院について、エクソソームを用いた医療に関する事項も含む表示内容が景品表示法上の優良誤認表示に該当するとして、消費者団体からの訴訟提起もなされており、エクソソームに関する製品、医療について、今後も、法務面に関する動向を注視していく必要があります。
以上