Legal Note

リーガルノート

2025.11.07

2025-12-2 薬機法改正の概要と実務対応(②)

M&P Legal Note 2025 No.12-2

薬機法改正の概要と実務対応(②)

2025年11月10日
松田綜合法律事務所
ヘルスケアチーム
弁護士 徐  靖
弁護士 永木琢也

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1.はじめに

2025年5月21日、医薬品の品質・安定供給、創薬環境、薬局機能の強化を通じ、国民へのより安全で迅速な医薬品提供を実現することを目的とする改正薬機法が公布されました。本改正の要点を解説します。「薬機法改正の概要と実務対応(②)」では、「より活発な創薬が行われる環境の整備」(条件付き承認制度の適用拡大、小児用医薬品の開発計画の策定の努力義務化等)及び「国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等に関連する改正」(調剤業務の一部外部委託の法制化、薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売等)の観点で行われた改正について解説します。

なお、「薬機法改正の概要と実務対応(①)」では、「医薬品等の品質及び安全性の確保の強化」(医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者の設置義務化、GMP適合性調査の合理化と監督強化等)及び「医療用医薬品等の安定供給体制の強化等」(特定医薬品の製造販売業者における安定供給体制の整備等)の観点で行われた改正について解説しています。

 

この記事を読んでわかること

  • 薬機法の改正のポイント
  • 本改正を受けて関係企業が対応するべき事項

 

2.より活発な創薬が行われる環境の整備

(1)条件付き承認制度の適用拡大

 ア 改正の概要

厚生労働大臣は、申請に係る医薬品、医療機器等が、次のいずれにも該当する場合には、薬事審議会の意見を聴いて、当該医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性に関する調査の実施を条件とするほか、適正な使用の確保のために必要な措置の実施その他の必要な条件を付してその品目に係る承認を与えることができるようになります(14条の2の2第1項及び23条の2の6の2第1項関係)。

  1. 医療上特にその必要性が高いと認められること
  2. 申請に係る効能、効果等を有すると合理的に予測できるものであること
  3. 申請に係る効能又は効果に比して著しく有害な作用を有することにより医薬品として使用価値がないと合理的に予測できるものでないこと

ただし、厚生労働大臣は、条件を付した製造販売の承認を与えた医薬品、医療機器等が申請に係る効能、効果等を有すると合理的に予測できなくなった等のときは、薬事審議会の意見を聴いて、その承認を取り消さなければなりません(74条の2第1項関係)。

上記の改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

 イ 改正の趣旨・背景

現行の条件付き承認制度は、承認の取消し規定がないため、一定程度の効果が確認できた探索的試験の結果に基づく場合や、検証的試験の実施途中である場合の適用を想定したものとなっています。そのため、欧米の類似の仕組みと比べて、制度創設後の承認件数が少ない状況となっています。

そこで、重篤かつ代替する適切な治療法がない場合など、医療上の必要性が高い医薬品、医療機器または体外診断用医薬品に係る条件付き承認制度について、承認の取消し規定を設けた上で、探索的試験の段階で、臨床的有用性が合理的に予測可能な場合に承認を与えることができるように本改正が行われました(令和7年1月10日厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」(以下「とりまとめ報告」といいます。)15頁参照)。

 ウ 実務対応

本改正により、例えば、以下のような承認過程の短縮が可能となります。

通常の承認過程では、医薬品等の有効性、安全性を検討し、用法容量等を設定するため、少数の患者を対象に探索的臨床試験を実施した後に、安全性・有効性を検証するために多数の患者を対象に検証的臨床試験が行われます。本改正後では、探索的臨床試験のみで有効性・安全性について合理的に予測ができる場合、探索的臨床試験の後すぐに承認を行うといったことが可能となります。その場合でも、製造販売後に改めて、有効性の検証等を行うことが条件として設定されますので、製造販売後に有効性の検証等が確認できない場合、承認が取り消されることとなります。

 

(2)小児用医薬品の開発計画の策定の努力義務化

 ア 改正の概要

薬局医薬品の製造販売業者は、小児用の薬局医薬品の開発を促進するために必要な小児の疾病の診断、治療又は予防に使用する医薬品の品質、有効性及び安全性に関する資料の収集に関する計画を作成するとともに、当該計画に基づき、遅滞なく、必要な資料の収集を行うよう努めなければならないものとされました(14条の8の2)。また、小児用医薬品の開発計画が策定された医薬品の再審査の期間について、すでに上限(10年)で設定されている場合に、上限を2年延長できることとなります。

上記の改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

 イ 改正の趣旨・背景

小児用医薬品の開発は、症例の集積や治験の実施が難しく、市場規模も小さいこと等から、開発が進みにくいという課題がありました。

これまで、特定用途医薬品指定制度の創設や再審査期間の延長に加え、成人用の医薬品の開発時に任意で策定された小児用医薬品の開発計画についてPMDAの確認を受けられる仕組みを導入するなど、小児用医薬品の開発環境の整備に取り組んできましたが、これらの取組に加えて、より一層小児用医薬品の開発を促進しドラッグ・ロスの解消につなげるため、本改正が行われました(とりまとめ報告15頁参照)。

 ウ 実務対応

小児用医薬品開発計画に関しては、PMDAにおいて、特化して相談制度があり、原則、書面による助言を受けることが出来ます。詳細は、以下のPMDAのWebサイトをご確認ください。

小児用医薬品開発計画確認相談 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

 

(3)革新的医薬品等実用化支援基金の創設

ア 「後発医薬品製造基盤整備基金」の設置

近年、ドラッグロス問題が顕著となっている反面、アカデミアやベンチャー企業等を含む他業種連携による創薬の一般化、リアルワールドデータの利活用への期待の高まりなど、創薬や医療機器等の開発に係る環境が変化しています。

官民連携して継続的に創薬基盤を強化するため、国庫と民間からの出えん金(寄付金)で「革新的医薬品等実用化支援基金」が造成されます(立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法20条)。

本改正は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

イ 基金による支援内容

基金事業では、創薬クラスターキャンパス整備事業者の取り組み等を支援し、より活発な創薬が行われる環境が整備されます。

 

3.国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等に関連する改正

(1)調剤業務の一部外部委託の法制化

ア 改正の概要

薬局開設者は薬局の所在地の都道府県知事の許可を得て(改正薬機法4条5項)、定型的な調剤業務を他の薬局開設者に委託できるようになります(改正薬機法9条の5)。

ただし、当面は同一都道府県内限定の運用とし、今後の検証を踏まえて範囲拡大を検討するとされています。定型的な業務は、具体的には今後政令において定められることになりますが、一包化(複数の薬剤を利用している患者に対して服用時点ごとに一包として投与すること)等の業務が想定されます。

本改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

イ 改正の趣旨・背景

高齢化と多様な医療ニーズの増加を踏まえ、薬剤師による対物業務の負担を減らすことで、本来の対人支援(服薬指導・健康相談)に専念できる体制を整えることが目的です。すなわち、薬局薬剤師の業務は処方箋への対応が中心ですが、処方箋受付時以外の対人業務、セルフケア・セルフメディケーションの支援といった健康サポート業務の充実が求められています。限られた医療資源・時間の中で、薬局薬剤師の対人業務を充実させるために、医療安全が確保されることを前提として対物業務を効率化して対人業務に注力できる環境の整備が目的となります(令和6年第7回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(以下「部会」といいます。)議事録大原薬事企画官発言)。

具体的には、施設対応のように大量の一包化が依頼されたケースも含めて、地域において、より高度な機能を有する機器を有している近隣薬局と連携した方が、、その分の時間を服薬指導に割くことができると期待されています(令和6年第7回部会議事録大原薬事企画官)。

なお、医薬品の一包化業務の外部委託に関しては、令和6年3月国家戦略特区の特例として創設された「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業」は、同年6月に内閣総理大臣から区域計画に認定を受けて大阪市において同年7月1日から事業受付が開始されていました。

ウ 実務対応

調剤業務の一部を外部委託する際には「厚生労働省令に定めるところにより、厚生労働省令で定める要件を備えている薬局の薬局開設者に委託する」必要があるため、具体的な実務対応方法については、今後の厚生労働省令を待つこととなります。もっとも、現時点で想定できる実務対応としては、以下の事項となります。

  • 許認可の取得(都道府県知事)
  • 信頼できる委託先の選定及びその選定基準の策定
  • 委託契約の締結
  • 業務手順書やマニュアル等の作成
  • 物流スキームの検討・配送業者との業務委託契約の締結
  • 委託先との情報連携のためのシステム構築・セキュリティ対策

 

(2)指定濫用防止医薬品

ア 改正の概要(主要な点のみ)

(1)指定濫用防止医薬品としての取扱い

従来、薬局製造販売医薬品や一般用医薬品のうち、濫用のおそれのある医薬品については、薬機法施行規則15条の2等に基づき「濫用等のおそれのある医薬品」として厚生労働大臣が指定していました。

本改正では、濫用をした場合に中枢神経系の興奮もしくは抑制又は幻覚を生ずるおそれがあり、その防止を図る必要がある医薬品について、厚生労働大臣は、「指定濫用防止医薬品」として指定することを法律上明記しました(改正薬機法36条の11第1項)。

(2)指定濫用防止医薬品販売時の情報提供・確認義務

薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、指定濫用防止医薬品を販売する際に、薬剤師又は登録販売者に、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を用いて必要な情報(他の薬局等での購入状況、氏名・年齢、多量購入の場合の購入理由等)を提供させ(同項)、厚生労働省令で定める事項を確認させる(同条2項)義務が法律上で明記されました。この情報提供ができない場合には、指定濫用防止医薬品の販売は禁止となります(同条4項)。

(3)多数販売や若年者に対する販売の制限

厚生労働省令で定める数量を超える数の指定濫用防止医薬品を販売する場合や、若年者(厚生労働省令で定める年齢未満の者)に対して販売をする場合には、対面等により、(2)で記載した情報提供をすることが必須となります(同条3項)。また、若年者に対する大容量製品又は複数個の販売は、禁止となります。

本改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

イ 改正の趣旨・背景

近年、若年者による一般用医薬品の濫用が社会問題となっており、令和元年度厚労科研や公益財団法人日本中毒情報センターによる報告で、咳止め薬や総合感冒薬の乱用による依存・急性中毒事例が確認されました。その後も日々のニュースやSNS等を介して、若年層による一般用医薬品の濫用について報じられてきました。

このような事態を受けて、元々薬機法施行規則15条の2等で「濫用等のおそれのある医薬品」の販売方法の規制は設けられていましたが、本改正では、それを法律上で明記することとなりました。

ウ 実務対応

今後の施行規則の改正に伴い、運用面の変更を余儀なくされる場面も出てくると思われますので、その場合、以下のような実務対応が考えられます。

  • 情報提供を受けるための書面の整備
  • 必要な社内規定やマニュアルの改定
  • 社員研修等

もっとも、従来も薬機法施行規則15条の2等に基づき「濫用等のおそれのある医薬品」を販売する際には、情報提供等が求められてきました。そのため、本改正により、実務上の対応が抜本的に変更になることはないと想定されます。

(3)薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売

ア 改正の概要

委託元の薬剤師等による遠隔での管理の下、薬剤師等が常駐しない、あらかじめ登録された店舗(登録受渡店舗)において医薬品を保管し、購入者へ受け渡すことを可能とします(改正薬機法29条の5)。具体的には、利用者のスマートフォンや店頭に置かれた端末にて、オンライン服薬指導を経たうえで、コンビニエンスストア等の店舗で医薬品の受け渡しすることを可能とします。

もっとも、登録受渡店舗では、あくまで医薬品を受け渡すことのみが行われ、販売は委託元の薬局や店舗販売業者が行い、販売に関する責任は原則として委託元の薬局や店舗販売業者が有するものとなります。

当面の間は、委託元の薬局等と委託先の登録受渡店舗は、同一都道府県内とし、制度導入後に課題等を検証の上、より広範囲での連携について検討されることとなります。

上記の改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

イ 改正の趣旨・背景

近年、映像及び音声によるリアルタイムのコミュニケーションツールが普及していることから、人材の有効活用を図り、また、利用者としてもアクセスがしやすいように本改正に至りました。

部会での意見の中には、「同一都道府県内のみしかオンライン展開ができないとするのは、オンラインが可能と言っておきながら事実上骨抜きにしている。地理的範囲に限る、同一都道府県内に限るということは合理性がない。」といったものもありましたが、監視指導を適切に行うためには委託元薬局等と登録受渡店舗を所管する自治体間での緊密な連携が必要となるため、当面の間は、監視指導の観点から、同一都道府県内での実施から開始することとなりました(令和6年第7回部会資料「【資料4】テーマ④(少子高齢化やデジタル化の進展等に対応した薬局・医薬品販売制度の見直し)について(薬局の機能等・調剤業務の一部外部委託)」15頁参照)。

ウ 実務対応

(1)委託元薬局等側の対応事項

委託元薬局等側での主な対応事項は、以下のとおりです。

  • 信頼できる登録受渡業者の選定及びその選定基準の策定
  • 登録受渡業者との委託契約の締結
  • オンライン服薬指導に対応するための設備の整備
  • 顧客情報を安全に登録受渡業者と連携できるシステムの構築
  • 登録受渡業者における業務フローや手順書の策定

(2)登録受渡業者側の対応事項

登録受渡業者側での対応事項は、今後、薬機法施行規則等で詳しく定められることとなりますが(改正薬機法29条の10等参照)、現時点では、主に以下の対応事項が考えられます。

  • 医薬品の受渡業務のための設備及び体制の構築
  • 受渡業務を管理できる従業員の配置
  • オンライン服薬指導等のための店頭端末の設置
  • 委託元薬局等との委託契約の締結

 

 

← 薬機法改正の概要と実務対応(①)

 

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