M&P Legal Note 2024 No.6-1
内部通報関連法務(2)~フリーランス保護法が内部通報制度に与える影響~
2024年10月28日
松田綜合法律事務所
弁護士 柴田 政樹
1 はじめに
2024年11月1日より、取引の適正化及び就業環境の整備を目的とする、いわゆるフリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されます。同法の就業環境の整備のひとつとして、相談窓口の設置などを含むフリーランスに対するハラスメント防止の措置義務が定められています。そのため、既存の内部通報制度に関して、フリーランスも利用することができるように改定するなどの対応が必要です。
そこで、今回は、フリーランス保護法が内部通報制度に与える影響についてご説明します。
(参考:M&P Legal Note 2024 No.4-1 内部通報関連法務(1)~改正公益通報者保護法を踏まえた内部通報窓口の見直し~)
2 フリーランス保護法におけるハラスメント防止の措置義務
フリーランス保護法に基づく指針[1]においては、フリーランスに対するハラスメントを以下の3つに分類しています。これらは、労働関係法令(男女雇用機会均等法、パワハラ防止法)に則した内容となっています。
・業務委託におけるセクシュアルハラスメント
・業務委託における妊娠、出産等に関するハラスメント ・業務委託におけるパワーハラスメント |
また、上記のような業務委託におけるハラスメントに関して講ずべき措置[2]として、①ハラスメント防止に関する方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、③業務委託におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応の3つが挙げられています。
②との関係では、フリーランス専用の新たな窓口を設置することだけではなく、既存の窓口(社内の従業員が利用する窓口)を業務委託におけるハラスメントに関しても活用可能とすることでも良いとされています。新たな窓口設置は手間もかかりますため、後者を選択する方が現実的であると存じます。後者を選択した場合、内部通報制度を全体的に見直すことをお勧めはしますが、最低限の対応ということであれば、内部通報規程において、以下のような規定を設けることが考えられます。
第●条(業務委託におけるハラスメント)
本規程に基づく相談窓口は、フリーランス保護法における特定受託事業者が業務委託におけるハラスメントの相談のためにも利用することができるものとする。当該相談がなされた場合、相談窓口の担当者は、本規程に則して処理を行う。 |
(※実際の規定ぶりは、その他の条項との兼ね合いもありますため、専門家にご相談されることをお勧めします。)
相談窓口の設置及び見直しをした後は、その旨をフリーランスに対して周知することも必要です。周知方法は、業務委託契約に係る書面に記載することのほか、別途、書面やメールにて相談窓口の連絡先等を連絡する、イントラネット等に掲載する方法も認められています。制度はあっても、それを知らない(周知が十分に行われていない)ということは、内部通報制度における問題点としてよく指摘される箇所でございますため、周知の徹底にはご注意ください。
3 最後に
業務委託におけるハラスメントに関しては、これまで放置されてきたということではなく、指針レベルでの望ましい取り組みとしては指摘がなされておりました。例えば、セクシュアルハラスメント防止の指針[3]では、「個人事業主…等の労働者以外の者に対する言動についても注意を払うよう配慮するとともに、事業主…自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望まし」く、これらの者からの相談に関しても、適切な対応を行うことが望ましいとされています。
企業によっては、既存のハラスメント相談窓口に関して、フリーランスを通報者に加えている、業務委託におけるハラスメント行為も通報対象に含めているなど、先進的な取り組みをしているケースもあるかもしれません。ただ、少数であるものと思います。今回のフリーランス保護法の施行に伴い、ハラスメント防止の措置が、まさに法令上の義務となりましたので、このタイミングで見直しを図っていただければと思います。
なお、今回は、フリーランス保護法が内部通報制度に与える影響に絞ってご説明をしましたが、就業規則の服務規律やハラスメント防止規程において業務委託におけるハラスメントも含めた内容に修正をするなどの対応も必要ですので、施行に向けて準備をすることをお勧めします。
以上
<註>
[1] 「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号)https://www.mhlw.go.jp/content/001259279.pdf
[2] フリーランス保護法では、当該措置義務の対象を「特定業務委託事業者」(個人であり従業員を使用するもの、及び法人であって2人以上の役員があるか又は従業員を使用する者)としています。
[3] 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf