Legal Note

リーガルノート

2021.07.28

2021-8-3 薬機法改正 ~医薬品等の虚偽・誇大広告等による課徴金制度の創設~

M&P Legal Note 2021 No.8-3

薬機法改正
~医薬品等の虚偽・誇大広告等による課徴金制度の創設~

2021年7月29日
松田綜合法律事務所
弁護士  徐 靖

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第1 はじめに

令和元年に、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)の大きな改正が行われ、その中でも、信頼確保のための法令遵守体制等の整備をテーマに以下のような改正が行われました。

1 許可業者に対する法令遵守体制(業務監督体制の整備、経営陣と現場責任者の責任の明確化等)の整備の義務付け

2 虚偽・誇大広告等[1]による医薬品等[2]の販売に対する課徴金制度の創設

3 国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度(薬監証明制度)の法制化、麻薬取締官等による操作対象化

4 医薬品として用いる覚醒剤原料について、医薬品として用いる麻薬と同様、自己の治療目的の提携輸入等の許可制度を導入                  

                 等

このうち、上記2の「虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設」は、令和3年8月1日に施行されました。

本稿では、医薬品メーカーや薬局、医薬品販売業者に影響の大きい課徴金制度について概観します。

第2 課徴金制度の概要

1 改正のポイント

① 薬機法の課徴金納付命令の対象行為は、医薬品等の虚偽・誇大広告であり、未承認医薬品等の広告等はその対象に含められていません。したがって、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器等の広告が虚偽又は誇大であった場合には、課徴金納付命令の対象となりますが、健康食品や健康雑貨等について、医薬的効果を標ぼうした場合であっても、課徴金納付命令の対象とはなりません

② 課徴金の額は、原則、課徴金対象期間(第2の5を参照)に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額に4.5%を乗じた金額になるが、一定の減額措置もあります。

2 改正の背景

医薬品等は、適切な使用を行わない場合、期待された効果を得られないばかりか、使用方法を誤れば使用者の健康に悪影響を及ぼします。そのため、薬機法では、適切な医薬品等の流通を確保するため、医薬品等の虚偽・誇大広告を禁止しています(薬機法第66条1項)。

改正前薬機法でも、虚偽・誇大広告を行った事業者に対しての罰金制度がありましたが、罰金制度は、金額に上限があり、罰金の金額以上に売上を上げることができる可能性がある事業者に対しての経済的な抑止力は限定的なものとなっていました。

そこで、経済的利得の是正を通じた違法行為の抑止を目的に、今回の改正で、虚偽・誇大広告により事業者が得た利益を徴収する課徴金制度が創設されるに至りました(薬機法第75条の5の2)。

3 課徴金納付命令の対象行為

薬機法では、医薬品等の虚偽・誇大広告の禁止以外にも未承認医薬品等の広告(薬機法第68条)なども禁止しています。

しかし、今回の薬機法改正において課徴金の対象となる行為は、医薬品等の虚偽・誇大広告に限定されています。それは、未承認医薬品等に関しては、その販売行為自体が違法行為であり、その売上全てが違法行為により得られたものとなり、売上の一部を不正な利益とみなして徴収する課徴金制度とは馴染まないと考えられためでした。

したがって、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器等の広告が虚偽又は誇大であった場合には、課徴金納付命令の対象となりますが、健康食品や健康雑貨等については、その内容が虚偽又は誇大である場合や、医薬的効果を標ぼうした場合であっても、医薬品等の虚偽・誇大広告として課徴金納付命令の対象とはなりません[3]

なお、景品表示法における課徴金制度の場合、「(優良誤認表示等の)不当表示に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠っていないと認められるとき」は課徴金の対象から除外されています(景品表示法第8条第1項)が、薬機法の課徴金制度ではそのような除外規定はありません。虚偽・誇大広告に用いられる製造方法、効能、効果又は性能等は、医薬品の承認事項となっており、それらに関して虚偽又は誇大であることを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を行っていないと認められるような場合が原則無いと考えられたためです。

4 課徴金納付命令の対象者

薬機法の課徴金納付命令の対象者について説明する前に、まず、景品表示法の課徴金納付命令の対象者について説明いたします。景品表示法の課徴金納付命令に関しては、その対象者は、景品表示法第5条(不当表示規制)に違反する行為を行った事業者と定められています(景品表示法第8条第1項)。そして、景品表示法第5条で禁止する不当表示は、「自己の供給する商品又は役務の取引について」(景品表示法第5条柱書)行う表示と定められています。そのため、必然と、課徴金納付命令の対象者も、自己の「商品又は役務の取引」を提供する事業者に限定されることになります。

他方、薬機法において、課徴金納付命令の対象者は、薬機法第66条第1項の規定に違反する行為を行った者(以下「課徴金対象行為者」といいます。)と定められています。薬機法第66条第1項は、「何人も」虚偽・誇大広告を行うこと禁止しているので、自己の「商品又は役務の取引」を提供する事業者以外の者(単に広告業務を請け負った者)も薬機法第66条第1項に違反する可能性があり、課徴金納付命令の対象者となる可能性があります。

そのため、薬機法においては、その文言上、単に広告業務を請け負ったアフィリエイター等の者も課徴金納付命令の対象者となり得ます。ただし、それらの者は、自らが医薬品等の販売を行っていない以上、「課徴金対象行為に係る医薬品等」による売上がなく、「対価の額の合計額」を観念することができるか否か問題となります。

5 課徴金の計算方法

課徴金の計算方法について、薬機法第75条の5の2第1項では、「課徴金対象期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額[4]……に百分の四・五を乗じて得た額に相当する額」と定められています。

課徴金対象期間については、同条第2項で、定義されており、以下のように整理されます。

①原則の考え方

課徴金制度は、虚偽・誇大広告により得られた利益を徴収する制度であるため、原則課徴金対象行為[5]を行っている期間が課徴金対象期間となります。

②課徴金対象行為をやめた後も取引を継続している場合

虚偽・誇大広告をやめた後にも同じ商品に関する取引を行っている場合には、(a)課徴金対象行為をやめた日から6ヶ月を経過する日、又は、(b)当該医薬品等の名称、製造方法、効能、又は性能に関して誤解を生ずるおそれを解消するための措置として厚生労働省令で定める措置のいずれか早い方の日までが課徴金対象期間となります。

③課徴金対象行為が長期間にわたり行われていた場合

上記のとおり、課徴金対象期間は、原則課徴金対象行為を開始した時から①又は②の遅い方(以下「課徴金対象期間の末日」といいます。)までですが、当該課徴金対象行為の期間が長期間である場合、課徴金対象期間の末日から遡って3年間が課徴金対象期間となります。

なお、上記計算式で計算された課徴金の額が225万円未満である場合、課徴金の納付を命じることはできないと定められています(薬機法75条の5の2第4項)。

第3 課徴金の額の減額

1 景品表示法上の課徴金制度との調整

薬機法上の虚偽・誇大広告に該当する広告は、景品表示法上の優良誤認表示又は有利誤認表示にも該当する場合があり得えます。そして、景品表示法上でも、課徴金制度があるため、一つの医薬品等の虚偽・誇大広告に関して、薬機法上の課徴金納付命令の対象となりつつ、景品表示法上の課徴金納付命令の対象ともなる可能性があります。

そこで、薬機法上の課徴金納付命令の対象となりつつ、景品表示法上の課徴金納付命令の対象ともなる場合、どのように課徴金が徴収されるのかが問題となります。

この点については、薬機法において調整規定が設けられています。具体的には、以下のとおり調整が行われることとなります。

①景品表示法上の課徴金納付命令が先に行われた場合(薬機法第75条の5の3)

薬機法の課徴金の額は、対価合計額に4.5%を乗じた金額から対価合計額に3%を乗じた金額を減じた金額を納付することとなります。すなわち、景品表示法上の課徴金に加えて、対価合計額に1.5%を乗じた金額を納付することとなります。

②薬機法上の課徴金納付命令が先に行われた場合(薬機法同75条の5の5第8項)

この場合、薬機法における課徴金の額を既に納付を命じた課徴金の額から、対価合計額に3%を乗じた額を減じなければならない(変更しなければならない)と定められています。すなわち、この場合も、薬機法上の課徴金の額は、対価合計額に1.5%を乗じた金額に調整されることとなります。

2 厚生労働大臣への事実報告による減額

薬機法第75条の5の4では、課徴金対象行為を行った者(以下「課徴金対象行為者」といいます。)が、厚生労働大臣に対し、課徴金対象行為に該当する事実を厚生労働省令で定めるところにより報告したときは、課徴金の額を50%減額することが定められています。

なお、課徴金対象行為者が、厚生労働大臣に対し課徴金対象行為の事実を報告する際には、所定の様式の報告書により、課徴金対象行為に外とする事実の内容を示す資料を添付して行わなければなりません(薬機法施行規則249条の3)。

 

<註>

[1] 「名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を公告し、記述し、又は流布」する行為を指します(薬機法第66条1項)。以下、単に「虚偽・誇大広告」といいます。

[2] 「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品」を指します(薬機法第66条1項)。以下、「医薬品等」といいます。

[3] ただし、景品表示法上の優良誤認と認定される可能性や、未承認医薬品等の広告(薬機法68条)として刑罰の対象になる可能性はあります。

[4] 「対価合計額」といいます。

[5] 虚偽・誇大広告のことを指します。

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