Legal Note

リーガルノート

2023.07.03

2023-6-2 区分所有法制の見直しの状況について

M&P Legal Note 2023 No.6-2

区分所有法制の見直しの状況について

2023年7月3日
松田綜合法律事務所
不動産プラクティスグループ
弁護士 佐藤 康之
弁護士 白井 潤一

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1 はじめに

高度経済成長期に都市部を中心として建てられたマンションや商業ビル等には既に築50年を超えて老朽化した建物も多数存在しており、今後、そのような高経年の建物が増加していくことが見込まれ、その中で区分所有建物についての維持、更新に関する問題の深刻化が予想されます。特に、居住用の区分所有マンションでは、区分所有者の高齢化に伴い、相続等を契機に、区分所有建物の所有者の不明化や区分所有者の非居住化も進行しています。所在不明の区分所有者等は、区分所有建物の管理の決議においては、賛成者として扱うことが出来ないため、決議に必要な賛成数を得るのが困難になり、結果として区分所有建物の管理不全を招くことになります。建替え等による区分所有建物の再生についての意思決定の要件は厳格なため、老朽化した区分所有建物の再生の難しさはより深刻になることが予想されます。また、老朽化した場合だけでなく、大規模な災害により被災した場合にも、区分所有建物の建替え等については、その要件が厳しく、それに必要な賛成を得るために多大な時間を要することになり、円滑な復興に支障が生じることも考えられます。

このような状況を背景として、区分所有建物の管理・再生の円滑化、被災建物の再生の円滑化に向けた区分所有法制の速やかな見直しが必要とされている状況を見据え、区分所有建物の所有者不明化、管理不全化に対応するため、令和4年10月から法制審議会区分所有法制部会による検討がなされ、令和5年6月8日開催の第9回会議において中間試案(案)が示されました。今夏に中間試案に対するパブリックコメントの手続を経て、令和6年通常国会へ「建物の区分所有等に関する法律」(以下、「区分所有法」といいます。)等の改正案が提出される予定で、中間試案(案)の内容は以下のとおりとなっています。

 

2 区分所有建物の管理の円滑化

区分所有建物の管理の円滑化を図る方策として検討されている事項には、次のようなことがあります。

(1)集会の決議の円滑化

所在等不明の区分所有者の存在が円滑な決議を阻害することから、裁判所の関与の下で、所在等不明区分所有者を決議に母数から除外する制度の創設が検討されています。また、決議に参加しない無関心な区分所有者の存在も円滑な決議を阻害することから、出席者の多数決による決議を可能とする制度の創設が検討されています。

(2)区分所有建物の管理に特化した財産管理制度

所在等不明区分所有者の専有部分が適切に管理されないことにより、建物の管理に支障をきたすため、所在等不明区分所有者の専有部分の管理に特化した新たな財産管理制度の創設が検討されています。また、専有部分や共用部分が適切に管理されないことによって危険な状態になることも考えられるため、管理不全状態にある専有部分や共用部分の管理に特化した新たな財産管理制度の創設が検討されています。

(3)専有部分の管理の円滑化

専有部分の工事を伴う配管の全面更新を多数決によって行えるかは、現行区分所有法上、不明確であるため、専有部分の工事を伴う配管の全面更新等を一定の多数決で行うことができる制度の創設が検討されています。また、区分所有者が国外に居住する場合には、専有部分の管理が困難になりがちであるため、国外居住の区分所有者が専有部分の管理のための国内管理人を選任する制度の創設が検討されています。

(4)共用部分の変更の円滑化

現行区分所有法上の共用部分の変更決議の多数決要件(4分の3)を満たすことは容易でなく、必要な工事等が迅速に行えないため、多数決割合を引き下げる案、客観的事由(権利侵害のおそれや築年数)がある場合には多数決割合を引き下げる案、多数決割合を維持しつつ出席者の多数決による決議を可能とする案等が検討されています。

(5)その他の管理の円滑化

以上の他、区分所有建物の管理に関して所有者が相互に負うべき義務、また、事務のデジタル化や、建物が全部滅失した場合の敷地等の管理の円滑化を図る制度の創設、更に、共用部分について損害賠償請求権等が発生した後に一部の区分所有権が転売されても、管理者が請求権を代理して行使できる制度の創設が検討されています。

 

3 区分所有建物の再生の円滑化

区分所有建物の再生の円滑化を図る方策として検討されている事項には、次のようなことがあります。

(1)現行区分所有法上の建替え決議の多数決要件(5分の4)を満たすことは容易ではなく、必要な建替えが迅速に行えないため、所在等不明区分所有者を決議の母数から除外することに加え、多数決割合の緩和について検討されています。

(2)建替え決議がされても専有部分の賃借権等は消滅せず、建替え工事の円滑な実施を阻害するため、建替え決議がされた場合に、一定の手続や金銭補償により賃借権を消滅させる制度の創設が検討されています。

因みに、建替え決議の多数決割合の緩和に関しては、法定の多数決割合を緩和する案、及び、区分所有者全員の合意により引き下げることを認める案があります。また、前者の案として、多数決割合が引き下げられる客観的事由がある場合として、①耐震性の不足、②火災に対する安全性の不足、③外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ、④給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、⑤バリア―フリー基準への不適合、⑥建築完了時から50年、60年、70年経過等の場合が想定されています。

 

4 団地の再生の円滑化

団地の再生の円滑化を図る方策として検討されている事項には、次のような事項があります。

(1)   一括建替え決議の要件緩和

団地内建物の一括建替えの全体要件(団地全体の5分の4)・各棟要件(棟ごとの3分の2)を満たすことが容易でなく、必要な一括建替えが迅速に行えないため、全体要件の緩和及び各棟要件の緩和に関する各案が検討されています。因みに、前者に関しては、法定の多数決割合を緩和する案、及び、区分所有者全員の合意により引き下げることを認める案があり、また、後者に関しては、多数決割合を単純に引き下げる案、前述のような客観的事由がある場合には多数決割合を引き下げる案、反対者が一定割合に達しない限り一括建替えができるとする案等があります。

(2)一部建替え承認決議の要件緩和

団地内の一部建物の建替えの際の敷地共有者による建替え承認決議の要件(4分の3)を満たすことは容易でなく、必要な建替えが迅速に行えないため、要件緩和に関する各案が検討されています。それらの案として、多数決割合を単純に引き下げる案、客観的事由がある場合には多数決割合を引き下げる案、多数決割合を維持しつつ出席者の多数決による決議を可能とする案、反対者による建替え不承認決議がない限り特定建物の建替えができるとする案等があります。

(3)団地内建物・敷地の一括売却

団地内建物・敷地の一括売却のためには、団地内の区分所有者全員の同意が必要で、事実上困難であるため、一括建替えと同等の多数決による団地内建物・敷地の一括売却を可能とする制度の創設が検討されています。

5 被災区分所有建物の再生の円滑化

被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策として検討されている事項には、次のような事項があります。

(1)建替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和

被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下、「被災区分所有法」という。)においては、被災した区分所有建物の建替え決議等の多数決要件は5分の4、変更決議等の多数決要件は4分の3とされており、必要な行為を迅速に行うことができず、早期の復興を阻害するおそれがあるため、それらについて、多数決割合をいずれも3分の2とする案を軸に検討されています。

(2)被災区分所有法に基づく決議可能期間の延長

被災区分所有法において被災した区分所有建物の建物敷地売却決議等の決議可能期間が1年とされているのは短すぎて、準備が困難なため、決議可能期間を3年に延長する案を軸に検討されています。

 

6 おわりに

老朽化した建物や所有者不明の土地の増加に伴う利用・管理に関する社会問題への対応として、本年4月に施行された改正民法においては、共有制度や財産管理制度等の見直しが盛り込まれています。相続登記を義務づけるための不動産登記法の改正も行われており、来年4月から施行されます。

本稿でご紹介した区分所有法等の改正も、老朽化建物や所有者不明の物件への対応施策の一環として見ることができますが、一連の制度改正とその適切な運用が、不動産の健全な有効活用に結び付けるための一つの大きな契機となることが期待されます。

 

 

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