M&P Legal Note 2023 No.3-1
ステルスマーケティングに対する新たな規制
2023年4月13日
松田綜合法律事務所
弁護士 森田 岳人
1 はじめに
「ステルスマーケティング」(ステマ)とは、広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿することを指します。
例えば、広告主がインフルエンサーに対しSNS上で広告主の商品を紹介する動画の投稿を依頼し、当該インフルエンサーが広告であることを隠して動画投稿を行うことや、広告主が第三者に依頼し、ECサイトのレビュー欄に広告主の商品を賛辞する投稿をさせることです。
ステルスマーケティングは、デジタル広告市場の発展とともに現れ、消費者の判断を歪める不当な広告として認識されるようになり、米国やEUでは早くから規制されるようになりました。
しかし、日本では長らく規制が導入されず、OECD加盟主要国の中でステルスマーケティングに対する規制がないのは日本だけという状況となっていました
2017年2月16日には、日本弁護士連合会が「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」を公表し[1]、消費者庁でも2022年9月から「ステルスマーケティングに関する検討会」が開催され検討を重ね、同年12月28日付で報告書が公表されました[2]。
その後、消費者庁はステルスマーケティングを新たに不当表示として指定するための景品表示法第5条第3号に基づく告示案及び運用基準案を策定し、パブリックコメントを経て、2023年3月28日に指定告示及び運用基準が公表されました[3]。当該指定告示は、2023年10月1日から施行されます。
以下においては、その内容の概要について解説します。また、末尾にQ&Aも添付しましたので、ご参照ください。
2 ステルスマーケティングに関する指定告示及び運用基準の概要
(1)景品表示法・指定告示・運用基準の関係
景品表示法第5条は、事業者が、自己の供給する商品又は役務の取引につき、以下の行事を不当表示として禁止しています。
① 商品・サービスの品質、規格その他の内容についての不当表示(第5条第1号。「優良誤認表示」)
② 商品・サービスの価格その他の取引条件についての不当表示(第5条第2号。「有利誤認表示」)
③ 商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ内閣総理大臣が指定する不当表示(第5条第3号。「指定告示」)。
ステルスマーケティングのうち優良誤認(上記①)や有利誤認(上記②)に該当する内容であれば、現行法でも規制の対象となります。
しかし、単なるステルスマーケティング(広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿すること)では、優良誤認や有利誤認には当たりません。
また、現在6つの表示が内閣総理大臣から不当と指定されていますが(上記③)、ステルスマーケティングはいずれにも該当しません。
そこで、今回、ステルスマーケティングを対象とした指定告示を新たに追加することになりました。
その指定告示が「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)です[4]。
その内容は以下です。
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって(要件①)、
一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの(要件②)
しかし、この告示だけでは文言が抽象的であり、実務上、事業者が広告を行うときに判断に迷ってしまいます。
そこで、消費者庁は判断基準を明確化するために運用基準を定めました[5]。
運用基準は厳密には「法律」ではありませんが、今後、消費者庁は運用基準に従って法執行を行っていきますので、事業者としても、運用基準を参考にしながら慎重に広告を行う必要があります。
(2)指定告示の要件①の運用基準
まず、指定告示の要件①「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」(事業者の表示)となるのは、「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」です。具体的にいえば、事業者自身が行うもの、事業者自身が第三者に行わせるもの(例えば、SNSの投稿、ECサイトの不正レビュー、アフィリエイト広告)、事業者の従業員が第三者になりすまし、当該事業者に関して行うものがあります。
他方、事業者の表示とならないのは、第三者(一般消費者や著名人)が自らの嗜好等に基づいて行う表示であって、第三者の自主的な意思による表示であると客観的に認められるものが該当します。具体例として、SNS上のキャンペーンや懸賞に応募するための表示、ECサイトの自主的なレビュー、事業者から商品サンプル等を受け取った消費者が自主的にSNS等に投稿する表示が挙げられます。
(3)指定告示の要件②の運用基準
次に、指定告示の要件②「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」かどうかにあたっては、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになります。
具体例として、事業者の表示であることが全く記載されていないもの、又は、それが不明瞭に記載されているもの(例えば、小さな文字による表示、分かりにくい末尾における表示、他の文字より薄い表示、大量のハッシュタグに埋もれた表示等)が挙げられます。
他方、表示全体から一般消費者に事業者の表示であることが明瞭となっているもの、事業者の表示であることが社会通念上明らかであるものの具体例としては、「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」というような文言が付されているもの、テレビCMや新聞の広告欄、事業者の公式ウェブサイトや公式SNS等があります。
(4)違反した場合の制裁
事業者が指定告示・運用基準に反するステルスマーケティングを行った場合は、排除措置命令等の対象となります(景品表示法第7条)。ただし、課徴金の対象ではありません。
3 おわりに
今回の指定告示によりステルスマーケティングの規制がようやく日本でも導入されることになりました。
SNS、口コミサイト、アフィリエイトなどを利用して広告を行っている事業者としては、2023年10月1日の指定告示の施行に備えて、十分に準備をしていく必要があるでしょう。また、事業者がいくら注意をしていても、依頼先のインフルエンサー、レビュアー、アフィリエイターなどが適切な表示をせずに投稿を行った場合に、事業者がステルスマーケティングを行ったとして処分をされてしまうリスクがあります。事業者としては、自社のみならず、広告の依頼先(仲介業者を含む)をどのように指導・教育・管理していくかも重要となります。
Q&A
ステルスマーケティングの規制に関し実務上問題となりそうな具体的事例について、消費者庁第7回ステルスマーケティングに関する検討会の「資料2 前回の御議論に対する考え方(事務局説明資料)」[6]を加工してQ&Aの形に整理しました。
A (検討会事務局)正常な商慣習における取材活動に基づく記事の配信、書評の掲載、番組放送等においては、通常、事業者が「表示内容の決定に関与した」とはいえないことから、事業者の表示とはならない。
ただし、正常な商慣習を超えた取材活動等である実態が認められる場合(対価の多寡ではなく、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体に対して、通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)であって、事業者が「表示内容の決定に関与した」とされる場合は、この限りではない。
A (検討会事務局)第三者(一般消費者や著名人)が自らの嗜好等に基づき、特定の商品又は役務について行う表示であって、第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められる場合は、通常、事業者が「表示内容の決定に関与した」とはいえないことから、事業者の表示とはならない。
ただし、事業者が第三者(著名人やインフルエンサー)に対して、当該事業者の商品又は役務について表示してもらうことを目的に当該商品又は当該役務を無償で提供するなどの結果として、当該第三者が当該事業者の目的に沿う表示を行うなどの場合は、当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められず、事業者の表示となる。
A (検討会事務局)第三者が事業者のSNS上のキャンペーンや懸賞に応募するための表示を行う際、当該第三者が事業者から表示内容について一切の関与を受けていない場合にあっては、第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められるため、事業者の表示とはならない。
ただし、第三者が行う特定の表示について、事業者から表示内容について一切の関与を受けていない場合であっても、その表示の前後において、事業者が第三者に対価を既に提供している、あるいは今後提供することが決まっているなど、当該事業者と当該第三者との間に当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない関係性がある場合は、当該特定の表示は、事業者が「表示内容の決定に関与した」といえることから、事業者の表示となる。
A (検討会事務局)ECサイトにおける事業者(出店者)の商品等の購入者である第三者が、ECサイトにおいてレビュー機能により当該事業者の商品等の表示を行う際、当該第三者が事業者から表示内容について一切の関与を受けていない場合にあっては、第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められるため、事業者の表示とはならない。
ただし、第三者が行う特定の表示について、事業者から表示内容について一切の関与を受けていないと判断されるかどうかは、その表示の前後において、事業者が第三者に対価を既に提供している、あるいは今後提供することが決まっているなど、当該事業者と当該第三者との間に当該第三者の自主的な意思による表示とは客観的に認められない関係性がある場合である。
A (検討会事務局)事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して表示をさせる場合は、事業者の表示となる。
ただし、アフィリエイターの表示であっても、事業者とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、事業者の表示とはならない。
A (検討会事務局)前述のとおり、アフィリエイトプログラムを利用した広告を用いる事業者が、アフィリエイター等に委託して「お友達紹介キャンペーン」と称して広告を作成させた場合には、事業者の表示となる。そのため、アフィリエイターが、インターネット上やSNS上に商品・サービスを勧めるメッセージ等を表示した場合も、事業者の表示となる。
ただし、家族等のごく一部の身近な人にのみに向けられたものであり、一般消費者に向けられたものとは認められない実態があれば、景品表示法上の問題とはならない。
A (検討会事務局)事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示(比較サイトやポイントサイトにおける表示等も含む)を行う際に、アフィリエイターに委託して、当該事業者の商品又は役務について、表示をさせる場合であっても、事業者の表示となる。
他方で、アフィリエイターの表示であっても、事業者とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、事業者の表示とはならない。
A (検討会事務局)事業者が仲介事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、当該事業者の競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した低い評価を表示させる場合は、事業者の表示となる。
A (検討会事務局)前述のとおり、正常な商慣習における取材活動に基づく記事の配信、書評の掲載、番組放送等においては、通常、事業者が「表示内容の決定に関与した」とはいえないことから、事業者の表示とはならない。
ただし、正常な商慣習を超えた取材活動等である実態が認められる場合(対価の多寡ではなく、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体に対して、通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)であって、事業者が「表示内容の決定に関与した」とされる場合は、この限りではない。
<注>
[1] 20170216 ステルスマーケティングの規制に関する意見書 (nichibenren.or.jp)
[2] ステルスマーケティングに関する検討会報告書 (caa.go.jp)
[3] 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について | 消費者庁 (caa.go.jp)
[4] 別紙1 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示 (caa.go.jp)
[5] 別紙2 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 (caa.go.jp)
[6] https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/assets/representation_cms216_221128_03.pdf
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