M&P Legal Note 2023 No.2-1
改正景品表示法の閣議決定
2023年3月27日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月 泰頼
1 はじめに
2023年1月13日付けで景品表示法検討会が取り纏めた報告書[1]を踏まえ、政府は、同年2月28日、景品表示法の改正案を閣議決定しました。
この改正案における主な改正事項には、(1)違反行為に対する抑制力の強化、(2)事業者の自主的な取組みの促進、(3)円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等があります。本稿では、改正前ではありますが、これらの改正事項について概説します。
2 従来の景品表示法の運用上の問題点
これまでの景品表示法の運用において、以下のような諸問題がありました。
(1)端緒件数の増加・事件調査の長期化
景品表示法違反に係る年間の端緒件数が増加傾向にあり、また、それらの事件調査が長期化する傾向が見られます。
(2)課徴金調査に適切に対応できない事業者の存在
優良誤認表示・有利誤認表示を行った事業者に対しては、課徴金の計算の基礎となるべき事実の調査が行われますが、課徴金調査で適切に売上額を報告できない事業者がいます。
(3)繰り返し違反行為を行う事業者の存在
景品表示法違反を行ったとして措置命令又は課徴金納付命令の対象となった事業者の中には、繰り返し同法違反行為を行ったとして措置命令等の対象となる事業者がいます。
(4)悪質な違反行為を行う事業者の存在
表示内容について何ら根拠を有していないことを認識したまま表示を行うなど、表示と実際に乖離があることを認識・認容しつつ違反となる悪質な違反行為を行う事業者がいます。
3 違反行為に対する抑制力の強化
(1)直罰規定の創設
優良誤認表示・有利誤認表示を故意に行った事業者に対し、行政処分を経ることなく、100万円以下の罰金を科す直罰規定(第48条)が新設されます。
これは、表示内容に何らの根拠を有していない認識がありながら故意に違反行為を行う悪質な事業者を抑止する必要があるとの目的から創設されたものです。
(2)課徴金制度の見直し
課徴金額は、違反行為を行った商品の売上額を基礎として計算されます。課徴金の計算の基礎となる事実を把握することができない期間における売上額を推計することができる規定が整備されます(第8条第4項)。これは、課徴金の対象となる商品の品目別に売上額データを整理しておらず適切に売上額を報告できない事業者に対しても迅速に課徴金納付命令を行うことを目的とするものです。
また、違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、課徴金額を1.5倍に加算する規定(第8条第5項及び第6項)が新設されます。これは、一度措置命令や課徴金納付命令を受けたにもかかわらず繰り返し違反行為を行う事業者に対し十分な抑止力を働かせることを目的としています。
4 事業者の自主的な取組みの促進
(1)確約手続の導入
優良誤認表示等の疑いのある表示を行った事業者が自主的に是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、措置命令や課徴金納付命令の適用を受けないようにする制度(確約手続)が創設され(第26条~第33条)、これにより、迅速な問題の改善が図られています。
(2)課徴金制度における返金措置の弾力化
事業者が特定の消費者へ一定の返金を行った場合には、課徴金額から当該金額が減額される返金措置に関し、改正案においては、返金方法として、金銭による返金に加え、電子マネー等の第三者型前払式支払手段も認められ(第10条)、返金措置の利用が促進されています。
5 円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等
改正案におけるその他の注目される規定として、適格消費者団体が、「相当の理由」がある場合に、事業者に対し、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請することにより、事業者は当該要請に応ずるよう努力しなければならない義務を負う旨の規定(第35条)も新設されます。
また、外国に本社を置く事業者による問題のある表示がある場合の対策として、措置命令等における送達制度が整備・拡充され、さらに、外国執行当局に対する情報提供制度も創設されます(第41条~第44条)。これは、BtoC-ECの国際化へ対応するためです。
6 おわりに
優良誤認表示・有利誤認表示の事例の中には、表示内容について何ら根拠を有していないことを認識したまま表示を行うなど、表示と実際に乖離があることを認識しつつ、これを認容して違反行為を行うような悪質な事業者が存在しています。これに対して、ある程度の根拠がありながら、過度に誇張してしまい、結果的に景品表示法違反行為を行ってしまう事業者もいます。改正案においては、これら両者を区別し、事業者の自主的な取組みを促進する一方、一般消費者を誤認させることを認識しながら不当な表示をする事業者について、行政処分にとどまらず、刑事罰をもって抑止する必要があると考えられています。「飴と鞭」の両面から新しい制度を導入することにより、一般消費者の利益の一層の保護を図ることにより、今後におけるわが国の消費者保護立法の更なる充実が期待されるところです。
[1] 2023年1月13日付け景品表示法検討会作成に係る「報告書」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_004/assets/representation_cms212_230302_01.pdf
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