Legal Note

リーガルノート

2023.10.18

2023-10-1 日本版DBSの立法動向~こどもを性犯罪から守るために~

M&P Legal Note 2023 No.10-1

日本版DBSの立法動向~こどもを性犯罪から守るために~

2023年10月2日
松田綜合法律事務所
弁護士 鈴木 みなみ

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1 DBSとは

DBSとは、イギリスのDisclosure and Barring Service(前歴開示・前歴者就業制限機構)の略で、こどもに関わる仕事に就く人について、性犯罪歴がないかを確認する制度をいいます。

日本でも従前から日本版DBS導入について議論があり、令和5年9月12日、こども家庭庁は、「『こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議』報告書」(以下「日本版DBS報告書」といいます。)を公表しました。それと前後して、ニュースでは、芸能界や塾業界等における子どもへの性加害が連日取り上げられており、社会的関心も高まっている状況です。

日本版DBSについて、本年の秋の臨時国会への提出は見送られることとなりましたが、報道によれば政府として来年の国会で提出を目指す意向とのことであり、現時点から保育園・幼稚園や学校・塾などの保育・教育業界はその動向をつぶさに追いかける必要があります。

なお、以下の解説は日本版DBS報告書の内容をご紹介するもので、実際に立法化された場合、内容が変わる可能性がありますので、その点ご了承ください。

2 日本版DBSの仕組み

(1)事業者の責務

日本版DBS報告書によれば、教育、保育等を提供する事業者には、子どもに対する性犯罪、性暴力を防止する一般的な責務(安全確保措置の責務)があることを前提に、その責務を果たすために、事業者が従業員などについて性犯罪歴を有するか否かを確認することが求められることになります。

他方で、犯罪歴は個人情報保護法上の要配慮個人情報といわれる高度のプライバシー情報であり、漏えいすることによる影響は重大であることから、事業者は提供を受ける性犯罪歴情報を適切かつ安全に監理することが求められます。情報が漏えいした場合の罰則も設けられる予定です。

(2)対象事業者

具体的にはどの事業者が対象かについては、まず、学校、認定こども園、認可保育園、児童福祉施設等の、学校教育法や児童福祉法などの認可を受けている施設や事業者については法的義務として、従業員の性犯罪歴を有するか否かを確認する必要があります。

認可外保育園や学習塾、子ども向けのスポーツクラブ、子役向けの養成所などの技芸を身につけさせる養成所等については、認定制として、認定を受けた事業者は学校や認可保育園と同様の義務が課されることになります。ただ、認定を受けるかどうかは事業者の判断になることから、法令上の建前は認定によって義務が課されるということであっても、事業者側からすれば、積極的に認定を受けて性犯罪歴を確認することにより、安全な事業運営を提供していることをアピールできることになります。また、利用者側も事業者を選択する際に、認定を受けている事業者を積極的に選択したいという市場原理が働き、結果として子どもの性犯罪に対する安全確保措置を講じていない事業者が淘汰されていくことを促すことになると想定されます。

(3)性犯罪を確認すべき業務従事者の範囲について

事業者として、直接雇用する従業員について、性犯罪歴を確認すべきであるのはもちろんのこと、日本版DBS報告書では、派遣労働者や業務委託者であっても確認の対象にすべきとされています。ただ、最終的にどの程度の範囲まで確認すべきかについては、今後の動向を確認する必要があります。

(4)対象となる犯罪について

確認対象となる性犯罪歴については、犯罪被害者の年齢は考慮されません。これは言い換えれば、子どもが被害者である性犯罪に限らず、性犯罪歴全般が確認すべきことになります。

他方で痴漢などの迷惑防止条例違反などは、各地方自治体で罰則の定め方などが異なることから、日本版DBS報告書では対象外と整理されています。

(5)犯罪歴の確認の方法

犯罪歴の確認の方法として、本人同意のもと、事業者が申請の上で犯罪歴を確認する仕組みとなります。

3 今後の課題と実務対応に向けて

まだ、日本版DBS報告書だけでは不明な点も多く、例えば、確認できる犯罪歴について、どの程度の期間までさかのぼって確認できるかや、犯罪歴の回答内容もどのようなものになるのかなどは不明です。また、法施行時に、すでに業務に従事している者について全般的に確認が必要になってくるのか、新しく雇用する際にのみ確認が必要になってくるかなど、法施行時にどの程度の対応が必要になるかもわかっていません。

ただ、事業者としては、少なくとも個人情報の管理体制を強化することは必須であり、今から改めて整備・見直しをしておくことがスムーズな導入につながるものと考えます。

 

以上

 

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