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リーガルノート

2023.01.16

2023-1-1 家賃滞納に伴う契約解除、住宅明け渡し条項に関する最高裁判例のご紹介

M&P Legal Note 2023 No.1-1

家賃滞納に伴う契約解除、住宅明け渡し条項に関する最高裁判例のご紹介

2023年1月16日
松田綜合法律事務所
不動産プラクティスグループ
弁護士 白井 潤一
弁護士 木舩 恵

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賃料等の不払等の事情が存するときに、保証会社が無催告で賃貸借契約を解除することができる旨を定める条項、及び保証会社が賃貸住宅の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定める条項が消費者契約法第10条に反し無効と判断した判例(最判令和4年12月12日 消費者契約法第12条に基づく差止等請求事件)

 

第1 事案の概要

賃貸住宅(以下「本件建物」といいます。)の賃貸人と賃借人との間で締結された賃貸借契約(以下、賃貸人賃借人間の賃貸借契約を「原契約」といいます。)に関し、賃借人が保証会社に対して賃料債務等を連帯保証することを委託し、これを受けて保証会社が賃貸人に対して当該賃料債務等を連帯保証すること等を内容とする保証契約(以下「本保証契約」といいます。)を締結しました。

本保証契約においては、以下の①、②の条項が設けられていました。

【本保証契約 条項①、条項②】

①保証会社は、賃借人が支払いを怠った賃料等および変動費の合計額が賃料3か月分以上に達したときは、無催告にて原契約を解除することができるものとする。

※賃料等とは、賃料、管理費・共益費、駐車場使用料その他の本件契約書固定費欄記載の定額の金員をいい、変動費とは、光熱費などの月々によって変動することが予定されている費用を指します。

②保証会社は、ア)賃借人が賃料等の支払を2か月以上怠り、イ)保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、ウ)電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当機関利用していないものと認められ、かつ、エ)本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときという4つの要件(以下「本件4要件」といいます。)を満たす場合は、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。

本裁判においては、上記①、②の条項が、以下の消費者契約法第10条に反するものとして、同法第12条3項本文に基づき差し止められるべきか否かが、問題となりました。なお、本裁判の原告は、適格消費者団体(消費者契約法第2条4項)です。

【消費者契約法第10条】

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 

第2 最高裁判所の判断

1 条項①について

(1)条項①の内容、適用範囲

まず条項①について、保証会社は賃借人による賃料等の滞納がある限り、賃貸人に対し連帯保証債務を履行する義務を負い、しかも連帯保証債務の履行を受けた賃貸人は原契約を解除する必要に迫られないために保証会社は無制限に連帯保証債務を履行し続けなければならない不利益を被るおそれがあることから、条項①はかかる保証会社の不利益を回避するため、賃料債務等の連帯保証人である保証会社に原契約の解除権を付与する趣旨である解しました。

また、条項①は、無催告で原契約を解除できる場合について、単に「賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達したとき」と定めるにとどまり、その文言上、このほかには何ら限定を加えておらず、賃料債務等につき連帯保証債務が履行されたか否かによる区別もされていないことを指摘しました。

以上を踏まえて最高裁は、条項①が定める内容は、「所定の賃料等の支払の遅滞が生じさえすれば、賃料債務等につき連帯保証債務が履行されていない場合だけでなく、その履行がされたことにより、賃貸人との関係において賃借人の賃料債務等が消滅した場合であっても、連帯保証人である保証会社が原契約につき無催告で解除権を行使することができる旨を定めた条項であると解される」としました。

(2)消費者契約法第10条の該当性

「一般に、賃借人に賃料等の支払の遅滞がある場合、原契約の解除権を行使することができるのは、その当事者である賃貸人であって、賃料債務等の連帯保証人ではない。」、「賃料債務等につき連帯保証債務の履行がないときは、賃貸人が上記遅滞を理由に原契約を解除するには賃料等の支払につき民法541条本文に規定する履行の催告を要し、無催告で原契約を解除するには同法542条1項5号に掲げる場合等に該当することを要する。」、「他方で、連帯保証債務の履行があるときは、賃貸人との関係においては賃借人の賃料債務等が消滅するため、賃貸人は、上記遅滞を理由に原契約を解除することはできず、賃借人にその義務に違反し信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるなどの特段の事情があるときに限り、無催告で原契約を解除することができるにとどまると解される」とし、条項①は、「賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達した場合、賃料債務等の連帯保証人である保証会社が何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるものとしている点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである」と判断しました。

また、「原契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約」であり、「その解除は、賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招来し得るものであるから、契約関係の解消に先立ち、賃借人に賃料債務等の履行について最終的な考慮の機会を与えるため、その催告を行う必要性が大きい」ところ、「原契約の当事者でもない保証会社がその一存で何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがある」と判断しました。

以上により、条項①は「消費者である賃借人と事業者である保証会社の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである」とし、消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に該当し、無効である旨判示しました。

2 条項②について

(1)条項②の内容、適用範囲

最高裁は、条項②について、原契約が終了している場合に限定して適用される条項であることを示す文言はないこと、保証会社が、原契約が終了していない本件において条項②の適用がある旨を主張していること等に鑑み、「原契約が終了している場合だけでなく、原契約が終了していない場合においても、本件4要件を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であると解される」とし、一方原契約を終了させる権限を保証会社に付与する趣旨を含むことをうかがわせる文言は存しないことを理由に、原審である大阪高判の判断(※1)を採用することはできないと判断しました。

※1 条項②は、本件4要件を満たすことにより、賃借人が本件建物の使用を終了してその占有権が消滅しているものと認められる場合に、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定めた条項であり、原契約が継続している場合は、これを終了させる権限を保証会社に付与する趣旨の条項であると解する。

(2)消費者契約法第10条の該当性

「保証会社が、原契約が終了していない場合において、条項②に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が消滅していないのに、原契約の当事者でもない保証会社の一存で、その使用収益権が制限されること」から、条項②は「任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。そして、このようなときには、賃借人は、本件建物に対する使用収益権が一方的に制限されることになる上、本件建物の明渡義務を負っていないにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して本件建物の明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれるのであって、著しく不当というべきである。」、「また、本件4要件のうち、本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存することという要件は、その内容が一義的に明らかでないため、賃借人は、いかなる場合に条項②の適用があるのかを的確に判断することができず、不利益を被るおそれがある」と判断しました。

以上により、条項②についても「消費者である賃借人と事業者である保証会社の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」として、消費者契約法10条に規定する消費者契約に該当し、無効である旨判示しました。

第3 考察

本判決において一定の判断が下された以上、今後賃貸人及び保証人におきましては、条項①②と同内容の条項が認められないこと(無効と判断されること)に留意し、賃貸借契約及び保証契約を締結する必要があります。

もっとも、本判決は保証人による無催告解除条項の有効性の一切をすべて否定したわけではなく、「賃借人の賃料等の滞納が3か月分以上であり、保証人による保証債務の履行もなされておらず(賃借人の賃料支払債務が不履行)、賃貸借契約を解除するにあたり賃借人に催告をしなくても不合理とは認められないような事情が存する場合」等、解除できる場合が限定され、且つ当該条件が明確に契約書に設定されているときには有効とされる場合もあり得ると考えられます。

なお、本裁判の原告は適格消費者団体であり、消費者契約法第12条3項に基づく差止請求訴訟であることから契約条項の限定解釈が否定されたという点も本判決の判断に大きく影響している可能性があると考えられます。実際、本判決においても、「(消費者契約)法12条3項本文に基づく差止請求の制度は、消費者と事業者との間の取引における同種の紛争の発生又は拡散を未然に防止し、もって消費者の利益を擁護することを目的とするものである」として「信義則、条理等を考慮して規範的な観点から契約の条項の文言を補う限定解釈をした場合には、解釈について疑義の生ずる不明確な条項が有効なものとして引き続き使用され、かえって消費者の利益を損なうおそれがある」と判示されています。

そこで、仮に本件の原告が賃借人個人であり、保証人からの無催告解除の有効性を争った場合には、当該事案に即して最高裁昭和43年判決の判例法理(※2)と同様の限定解釈が行われることにより、原審大阪高判のように有効とされていた可能性もないとはいえません。

※2最判昭和43年11月21日(民集22巻12号2741頁)は、1か月でも賃料未払いが生じた場合に、賃貸人が無催告での解除を許容した特約条項(無催告解除条項)の有効性が争われた事案で、最高裁は「賃借人が賃料を一箇月分でも遅滞したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である」として、限定解釈を行い無催告解除条項の有効性を肯定しました。

 

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