M&P Legal Note 2021 No.9-1
営農型太陽光発電に取り組む際の法的留意点②
(営農及び電力関係に関する法的留意点)
2021年8月25日
松田綜合法律事務所
弁護士 菅原 清暁
*本ニュースレターは2021年7月末日現在の情報に基づいております。
1.はじめに
2021年6月2日付及び2021年6月25日付ニュースレターでは、ぞれぞれ、営農型太陽光発電の概要と、営農型太陽光発電に取り組む際に留意すべき法的注意点のうち、農地法等許認可に関する問題について、ご説明をいたしました。
本ニュースレターでは、前回のニュースレターに続き、営農と電力関係の2つの観点から、営農型太陽光発電に取り組む際の法的留意点をご説明いたします。
2.営農の観点からの法的留意点
(1)日照・雨水・排水・病害蔓延等をめぐる問題
営農型太陽光発電設備を農地の上部空間に設置した場合、当該設備による日影ができて十分な日照が得られなくなってしまったり、設備から雨水・排水が流れ出てしまったりすることが考えられます。また、これらの結果、土壌に病害虫・病害菌等が発生して農地の内外に病害が蔓延するおそれもあります。
このような事態が発生した場合には、農地における営農に悪影響が出て十分な収量・品質が確保できず、農作物販売による収益が低下する農業経営上のリスクが発生します。
さらに、自己の営農への影響にとどまらず、近隣地域にも日照・排水・病害蔓延等による被害が発生し、これが受忍限度を超える程度のものと評価されるような場合、営農型太陽光発電の設備設置・実施が不法行為であるとして、当該近隣住民等から営農型太陽光発電の差止めや損害賠償請求(民法709条)を受けるリスクもあります。[1]また、仮に受忍限度の範囲内で裁判上は違法と評価されない場合であっても、近隣住民の反発が強い場合には地域との調和が図れずクレームを受け続けることなども懸念され、大きなレピュテーションリスクになりかねません。
これらのリスクを避けるため、営農型太陽光発電設備を設置する場合、農地・営農に支障が生じないようにするとともに、周辺への悪影響を最小限にできるよう、営農型太陽光発電設備の仕様・配置を十二分に検討することのほか、周辺住民との協議・コンセンサスの取得に務め、地域との調和・調整を図る必要があります。[2]
(2)景観をめぐる問題
営農型太陽光発電設備を設置した場合、これまでに近隣地域で築かれてきた景観を乱してしまうことも考えられます。
裁判例上[3]、近隣住民が良好な景観の恵沢を享受する景観利益については法律上保護に値するものと解されており、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものである、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠く場合には不法行為に該当するとして損害賠償請求の対象とされています。(民法709条)
このため、特に近隣が景観の良い地域として知られているような場合には、前記不法行為責任のほかレピュテーションリスクの回避のためにも、営農型太陽光発電設備の仕様・配置の検討及び周辺住民との協議・コンセンサスの取得に一層努める必要があります。
(3)発電設備の配置等による営農への影響
通常の農地であれば、農地上には園芸資材や作物等以外に障壁等はないため、比較的見通しがよく、必ずしも農地内での移動・農業機械の使用に大きな支障が生じるわけではないと思われます。
しかし、営農型太陽光発電設備を導入した場合、農地上に支柱が立つことになるほか、上部にも発電設備が設置されることになり、上下・前後・左右と空間の使用が自ずと制限されることになります。
この結果、通常の農地に比べて移動が制限されてしまうほか、大きな農業機械を使いにくくなってしまい、作業効率が落ちて収量・品質に影響が出てしまうおそれがあります。
これにとどまらず、見通しが悪くなったうえで前記のように作業が制限されてしまう結果、営農型太陽光発電設備に身体や農業機械をぶつけるなどをしやすくなり、ここから派生して農作業者による農作業事故・労働災害の発生リスクが大きく増加しかねません。この結果、実際に農作業を行う農業経営者自身がケガをするだけでなく、雇用労働者がいる農業経営者にとっては、雇用労働者たる農作業者に対して不法行為責任・安全配慮義務違反に基づき損害を賠償しなければならなくなる事態のほか、労働安全衛生法違反による刑事罰や行政機関からの処分等も想定されます。
このような事態の発生を避けるため、農業経営者としては、従業員を安全かつ衛生的に働かせる安全配慮義務(労働契約法第5条)の一環として各種危険防止措置や安全衛生教育を実施するとともに、万一事故が発生した場合の損害についての賠償責任保険への加入等を準備することが重要です。
(4)農地の賃貸借・農作業の委託をした場合の対応
農地に関しては、自ら当該農地で農業経営を行っているわけではなく、これを第三者に賃貸して賃料収益を収得している場合や、第三者に農作業の委託をしているケースもしばしば見受けられます。
このような場合に、農地所有者として営農型太陽光発電を導入したときには、賃借人・委託先である農作業者が、農作業の過程で営農型太陽光発電設備に損傷を加え、発電に支障が生じ、売電による収益にも影響が出るおそれがあります。
また、営農型太陽光発電においては、前回のニュースレターでご説明したとおり適切な営農の継続が農地の一時転用許可の要件となっているところ、賃借人・委託先である農作業者が適切な営農を行わず、これにより農地の一時転用許可に関して改善命令・許可取消等(農地法第51条)がなされ、発電をしてはならなくなってしまうことも懸念されます。
こういったケースに対応できるよう、農地に関する賃貸借契約や農作業に関する業務委託契約の締結に際しては、農作業時の発電設備への損傷が発生した場合や不適切な営農の実施がされた場合等の損害賠償額の予定・違約金について定めておくなどして賃借人・委託先に対し適正な農地利用を強く義務付けることが肝要です。
(5)太陽光発電設備の撤去・処分時の対応
営農型太陽光発電事業は未知数なところも多いため、将来的には収益化が難しいとして、太陽光発電は取りやめて通常の農地耕作に一本化することも考えられます。
この際、留意しなければならないのが、太陽光発電設備の撤去・処分です。これらについては、相当な額の費用が掛かるため、農地上に放置されることがある状況のようです。[4]
しかし、費用が掛かるからといってこれを自己所有の農地に放置した場合、残置物の腐敗等による農地・近隣地域への影響が懸念され、周囲に大きな環境リスクをもたらすことにつながりかねません。これについて当該環境リスク・被害に関する不法行為責任として、近隣から損害賠償請求(民法709条)を受けるおそれもあります。
さらに、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(いわゆる廃棄物処理法)では、第16条において「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」とされ、第25条第14号において刑罰(5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金。併科・法人に対する両罰規定(3億円以下の罰金。第32条第1項第1号)あり)が定められています。このうち、「廃棄物を捨てる」行為には、自己の所有地において野積みにするなど、廃棄物を不要物として管理を放棄することも含まれると解されています。また、自己の所有地への廃棄であっても、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし、社会的に許容されるものとみる余地がない場合には「みだりに」との構成要件が否定されないと考えられています。[5]このような解釈からして、営農型太陽光発電事業を廃業した際に残置物を放置することは、同法に違反して刑事罰を科されるリスクもあり得るといえます。
以上のような事態を避け、廃業時に適切な残置物処理を行うため、設備の撤去・処分にかかる費用を想定のうえで積立を実施することがリスク回避に極めて重要です。なお、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「FIT法」といいます。)の事業計画の認定においては、計画的な廃棄等費用の確保として積立の実施計画を策定し、積立を行うことが認定基準とされています。[6]
2.電力関係の法的留意点
(1)電力会社との接続契約・工事手続
営農型太陽光発電設備を設置するとしても、その設備から発電した電力の販売について接続契約を締結し、接続工事をしなければ、電力については自家使用するほかなく、前々回のニュースレターご説明したFIT法に基づく固定価格での電力販売を行うことはできません。
また、FIT法に基づく事業計画の認定には、電力会社と接続契約を締結したことを前提とする認定要件があり、接続契約の締結なくして経済産業大臣からの事業計画の認定を受け電力の固定価格買取を受けることはできません。[7]
したがって、営農型太陽光発電の設置やFIT法に基づく事業計画の認定の前の早期の段階から、電力会社との間で売電に関する接続契約及び送電のための接続工事について確認しておく必要があります。
(2)発電設備施工業者との施工・保守体制
営農型太陽光発電設備の設置工事は、非常に専門性が高く、農業経営者自身で行うことは困難です。したがって、通常は当該工事を発電設備施工業者に対して依頼することになります。
しかし、一方で発電設備の施工業者も、発電設備の工事自体の専門家ではあっても、営農や土壌への影響等に関するプロフェッショナルというわけではありません。また、通常の太陽光発電設備の技術基準への適合義務[8]を超えて、営農型太陽光発電設備に特化した特別の技術基準・適合義務等は定められていない状況です。
このような現在の法制下において、十分な協議・契約での詳細な規定をしないまま発電設備施工業者に対し営農型太陽光発電設備の設置工事を依頼した場合、設備が営農の継続に適さない形となる危険性が高いです。具体的には、太陽光発電の設置場所等の問題で農地の日照が十分に確保できなくなってしまったり、雨水が隣接地に排水される形になってしまったりすることで、自己の営農や近隣住民との関係に支障が生じることが懸念されます。さらに、太陽光発電設備に使用された薬剤・金属に、営農には適さない有害物質が含まれていた場合、土壌・農作物への悪影響も生じ得ます。
以上の事態が発生した場合、前回のニュースレターで触れたような農地の一時転用許可要件である適切な営農の継続を果たせなくなってしまい、一時転用許可の取消がなされる懸念があるほか、万一販売した農作物に太陽光発電設備に起因する有害物質が含まれていた場合、その生産・販売に関する責任を販売先・消費者から問われることにもなりかねません。また、これらにより近隣に被害が及べば、4.(1)で述べてきたような近隣住民からの損害賠償請求・レピュテーションリスクの発生につながってしまうケースも出てしまいます。
以上の事態の発生を避けるため、営農型太陽光発電設備の設置工事にあたっては、施工業者との間で前記懸念点について十分協議・情報共有を行い、具体的な設備の設計・仕様が太陽光発電の技術基準だけでなく営農にも適した形になるようにすることが必要不可欠です。また、万一前記のような事態が発生した場合や太陽光発電が不調になった場合に備え、施工業者との間で保守契約を締結し、可能な限り迅速な対応を求めることができるようにすることも有益です。
なお、営農型太陽光発電設備は事業用電気工作物[9]に該当するため、着工・竣工にあたっては、電気事業法第42条及びこれに基づく保安規程により、発電設備の規模に応じ、電気主任技術者の選任や届出手続、点検等が必要になるほか、竣工後の定期的な運転報告等が必要になる場合もあります。
(3)電気事業法に基づく義務遵守
農業経営者が売電目的で営農型太陽光発電を自ら実施した場合、農業経営者は自らが運用する発電用の電気工作物を用い売電するための電気を発電する事業を行ったということで、基本的には電気事業法第2条第1項第14号に規定する発電事業を行っているということになります。また、これを電力の小売等を行う電力会社等に売電することは、同項第12号の特定送配電事業に該当します。
この結果、農業経営者には電気事業法に基づく規制が及ぶことになり、許可を受ける必要まではありませんが、発電事業・特定送配電事業に関する届出(第27条の13第1項及び第27条の27第1項)を行い、発電事業者(第2条第1項第15号)・特定送配電事業者(第2条第1項第12号)となる必要があります。
また、発電事業者・特定送配電事業者として、電気事業法に基づく各義務を負うことになります。中でも、令和2年の同法改正により、事故により発電・送配電に支障が生じる場合に備えての必要な対策の策定・実際に事故が発生した場合の修理等の措置の実施といった安全対策が義務として追加されており(第27条の26及び第27条の29が準用する第26条の2)、農業経営者としても事故発生時に備えた適切な安全対策の策定が必要なことには留意が必要です。
3.まとめ
以上、営農型太陽光発電については、3つのニュースレターに分けて、その概要と法的留意点についてご説明をさせて頂きました。営農型太陽光発電は、様々な助成・メリット等があるものの、様々な法律関係が絡み合う領域のため、法的留意点は多く存在します。
営農型太陽光発電の実施に当たっては、農林水産省の「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」及び「農業者のための営農型太陽光発電導入チェックリスト」並びに経済産業省の「再生可能エネルギー固定価格買取制度等ガイドブック2021年度版」及び「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」等を参照しつつ、前記法的留意点に配慮しながら関係当局・関係企業・地域住民等との間で十二分な調整を行うことが肝要です。
最後に、営農型太陽光発電は農業者の収入拡大による農業経営の更なる規模拡大を目指したものでしたが、残念ながら悪上によるトラブルも少なからず発生しているようです。農業法務にかかわる弁護士として、本制度が悪用されることなく、「農業者の収入拡大による農業経営の更なる規模拡大」という本来の目的に叶う導入が進められることを強く期待したいと思います。
[1] 近隣地域の生活環境への影響が受忍限度を超えるか否かの裁判例として、最判昭和47年6月27日等。
[2] 関連して、環境省「太陽光発電の環境配慮ガイドライン」参照。
また、通常想定される営農型太陽光発電の場合には該当しないケースが多いと思われるが、大規模のメガソーラーの設置の場合、環境影響評価法及び同法施行令に基づき、発電設備の規模が30MW以上40MW未満のときは個別に評価の要否が判定される第二種事業、40MW以上のときは必ず評価が必要な第一種事業として、環境アセスメントの実施が必要となる。
[3] 最判平成18年3月30日
[4] 農林水産省「2020年度版 営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」及び資源エネルギー庁「事業計画認定ガイドライン(太陽光発電)」参照
[5] 最判平成18年2月20日参照
[6] 資源エネルギー庁「事業計画認定ガイドライン(太陽光発電)」参照
[7] 資源エネルギー庁「事業計画認定ガイドライン(太陽光発電)」参照
[8] 電気事業法第39条第1項及び第56条第1項並びに発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令(経済産業省令第29号)参照
[9] 電気事業法第38条第2項。同条第1項も参照。
<農業関連法務:営農型太陽光発電に関連するリーガルノート>
- 2021-9-1 営農型太陽光発電に取り組む際の法的留意点② (営農及び電力関係に関する法的留意点)
- 2021-7-1 営農型太陽光発電に取り組む際の法的留意点① (農地法等許認可に関する法的留意点)
- 2021-5-2 営農型太陽光発電の概要
このリーガルノートに関連する法務
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