M&P Legal Note 2021 No.6-1
食品事業者の法務(4)~HACCP義務化と営業許可制度見直し~
2021年6月25日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月泰頼
第1 はじめに
平成30年に、以下のとおり、食品衛生法の大きな改正がおこなわれました。
1.広域的な食中毒事案への対策強化
2.HACCP(ハサップ)[1]に沿った衛生管理の制度化
3.特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
4.国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備
5.営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
6.食品リコール情報の報告制度の創設
このうち、上記3の「HACCP義務化」と上記5の「営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設」は、経過措置期間を1年として令和2年6月1日に施行され、経過措置期間を経た令和3年6月1日から、完全施行となりました。
本稿では、食品事業者に影響の大きいHACCP義務化と営業許可制度の見直し等について概観します。
第2 HACCP義務化について
1 改正のポイント
① 全ての食品等事業者において、一般衛生管理に加えて、HACCPに沿った衛生管理が義務化された。
② 但し、小規模事業者や店舗での小売販売のみを目的とした製造・加工・調理事業者においては、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理で足りるとされた。 |
2 制度の概要
今回の改正食品衛生法においては、①「一般衛生管理」②「HACCPに沿った衛生管理」③「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という3つの衛生管理の方法が整理されました。
そして、今回の改正食品衛生法の施行により、原則として、すべての食品等事業者に、①「一般衛生管理」に加え、②「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」(以下、「HACCPに基づく衛生管理」という。)の実施が義務付けられました。(食品衛生法第51条第1項2号、第2項)
ただし、小規模な営業者など、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、①「一般衛生管理」のほか、③「取り扱う食品の特性等に応じた取組」(以下、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」)の実施で足りることとされました(食品衛生法第51条第1項2号、第2項)。具体的には、事業者団体が作成し、厚生労働省が確認する手引書を利用して、温度管理や手洗い等の手順を定め、簡便な記録を行うことを想定しており、比較的容易に取り組めるものとなりました。
※参考:厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」
食品衛生法第51条に規定する営業者が実施しなければならない①「一般衛生管理」(同法第1項第1号)と②「HACCPに沿った衛生管理」(同法第1項第2号)の詳細については、①「一般衛生管理」の基準を食品衛生法施行規則別表第17 に、②「HACCPに沿った衛生管理」の基準を同規則別表第18 に定められています(同規則第66条の2 第1項、第2項)。
また、比較的容易に取り組める③「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となる事業者については、その要件を政令で定めることとしており、具体的には以下のとおりとなります(食品衛生法第51条第1項2号、食品衛生法施行令第34 条の2、食品衛生法施行規則第66 条の3及び第66条の4関係)
ⅰ 食品を製造し、又は加工する営業者であって、食品を製造し、又は加工する施設に併設され、又は隣接した店舗においてその施設で製造し、又は加工した食品の全部又は大部分を小売販売するもの。
ⅱ 飲食店営業を行う者(法第68 条第3項に規定する学校、病院その他の施設における当該施設の設置者又は管理者を含む。)。 ⅲ 喫茶店営業を行う者。 ⅳ パン(概ね5 日程度の消費期限のもの。)を製造する営業を行う者。 ⅴ そうざい製造業を行う者。 ⅵ 調理機能を有する自動販売機により食品を調理し、調理された食品を販売する営業を行う者。 ⅶ 容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する営業者。 ⅷ 食品を分割し、容器包装に入れ、又は容器包装で包み販売する営業を行う者。 ⅸ 食品を製造し、加工し、貯蔵し、販売し、又は処理する営業を行う者のうち、食品の取扱いに従事する者の数が50 人未満である小規模事業場を有する営業者。ただし、当該営業者が、食品の取扱いに従事する者の数が50 人以上である大規模事業場を有するときは、当該営業者が有する小規模事業場についてのみHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の基準を適用し、当該営業者が有する大規模事業場については、HACCPに基づく衛生管理の基準を適用すること。 |
3 罰則
義務化された①「一般衛生管理」②「HACCPに沿った衛生管理」③「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に係る基準を遵守しなかった場合、食品衛生法では、罰則は設けられませんでした。しかし、改正食品衛生法では、都道府県の条例によって罰則を定めることができる余地を残しています(食品衛生法51条第3項)。
また、これらの義務に違反した場合には、営業「許可の取り消し、又は営業の全部若しくは一部を禁止し、若しくは期間を定めて停止することができる」(食品衛生法第60条第1項)として行政処分が定められていますので、留意が必要です。
第3 営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設
1 改正のポイント
① 実態に応じた営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。 |
2 制度の概要
営業許可及び営業の届出に関する事項が制定されました。
HACCPの制度化に伴い、営業許可の対象業種以外の事業者の所在等を把握するため、届出制度が創設されました(食品衛生法第57条、同法施行令第35条の2)。なお、公衆衛生に与える影響が少ない以下の営業については、届け出は必要ないとされています(同法施行令第35条の2)。
- 食品又は添加物の輸入をする営業
- 食品又は添加物の貯蔵のみをし、又は運搬のみをする営業(食品の冷凍又は冷蔵業を除く。)
- 容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品又は添加物のうち、冷凍又は冷蔵によらない方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化により食品衛生上の危害の発生のおそれがないものの販売をする営業
- 器具又は容器包装(第一条に規定する材質以外の原材料が使用された器具又は容器包装に限る。)の製造をする営業
- 器具又は容器包装の輸入をし、又は販売をする営業
併せて、営業許可について、実態に応じたものとするため、食中毒リスクを考慮しつつ、見直しを行うこととされました。今回の法律改正において、都道府県は、厚生労働省令を参酌して、営業許可の施設基準を定めることとされ(食品衛生法第54条)、政省令改正では、営業許可業種の区分や施設基準についての実態に応じた具体的な見直しを行うこととされました(食品衛生法施行令第35条)。
※施設基準を定める営業については「食品衛生法施行令改正レポート」を参照ください。
[1] ※「HACCP(ハサップ)」
事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法。
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