Legal Note

リーガルノート

2021.10.20

2021-10-2 国土交通省公表「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」のご紹介

M&P Legal Note 2021 No.10-2

国土交通省公表「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」のご紹介

2021年10月20日
松田綜合法律事務所
弁護士 白井 潤一

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第1 はじめに

宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法上、宅地建物取引業者の相手方等に対して、取引対象や取引条件等に関する事項であって、当該相手方の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項について説明しなければならず、かかる事項について故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為は禁止されています(同法第47条1号ニ)。

そして、売買や賃貸借の対象となる不動産において、過去人が死亡した事実については、心理的瑕疵にあたる場合があるとされ、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼす事項として、宅地建物取引業者の説明(告知)義務に含まれる場合があると考えられています。

もっとも、不動産内部における人の死は避けられない(老衰や自然死は日常的に生じうる)一方、売買価格や賃料の決定に大きな影響を及ぼすことから、説明すべき範囲については取引双方(売主と買主、貸主と借主)の認識に大きなずれが生じており、これまでは死亡した事実について、具体的にどの範囲まで説明すればよいのか明確になっていませんでした。

こうしたところ、本年(2021年)5月に、国土交通省がこれまでの裁判例や取引実務を踏まえて、「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を開始し意見を募ったうえ、今般(2021年10月8日)、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し公表しました。

https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00029.html

「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)の詳細につきましては、国土交通省のプレスリリース(上記URL)及び公開された資料をご参照いただければと存じますが、本ガイドラインの概要及び実務に与える影響につきまして、以下ご説明申し上げます。宅地建物取引業者の皆様における、人の死に関する説明(告知)義務の範囲の理解の一助となれば幸いです。

第2 本ガイドラインのご紹介

1 本ガイドラインの位置づけ

本ガイドラインの位置づけは、ガイドラインに示されているとおり、「不動産において過去に人の死が生じた場合において、当該不動産の取引に際して宅地建物取引業者がとるべき対応に関し、宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈について、トラブルの未然防止の観点から、現時点において裁判例や取引実務に照らし、一般的に妥当と考えられるものを整理し、とりまとめたもの」となります。

宅地建物取引業者が本ガイドラインで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反とはならないとされていますが、宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルとなった際、国土交通省他行政庁における監督においては本ガイドラインが参考となるとされていますので、宅地建物取引業者の皆様は本ガイドラインに沿った対応が望まれます。

なお、媒介契約の依頼者である売主や貸主、あるいは買主や借主といった取引の相手方に対する宅地建物取引業者の民事上の責任については個別に判断されることから、宅地建物取引業者が本ガイドラインに沿った対応をした場合であっても必ずしも民事上の責任から解放されるわけでない(すなわち、本ガイドラインに沿った対応をしたとしても、民事上の責任=損害賠償責任を問われる可能性がある)ことにご注意が必要です。

2 本ガイドラインの対象

本ガイドラインについては、居住用不動産をその対象としており、オフィス等居住用以外の目的の不動産については対象外とされています。

3 人の死に関する調査義務について

宅地建物取引業者は、販売・媒介に伴う通常の情報収集を行うべき業務上の注意義務を負っていますが、通常の注意義務を尽くしても容易に知り得ない目的物の隠れた瑕疵の存否・内容に関する調査・確認義務までは負っていないとされています。

そのため、人の死の存在(人の死に関する事案が生じたこと)を疑わせる特段の事情がない限り、人の死に関する事案の発生について自発的に調査すべき義務までは宅地建物取引業法上は認められないと解されています。

これに対し、販売・媒介に伴う通常の情報収集過程において、人の死に関する事案の発生につき、売主や貸主、あるいは管理会社から知らされた場合や自ら認識した場合に、当該事情が取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるときは、宅地建物取引業者は、取引の相手方等に対してこれを告げなければなりません。

なお、本ガイドラインには、「媒介を行う宅地建物取引業者においては、売主・貸主に対して、告知書(物件状況等報告書)その他の書面に過去に生じた事案に関する記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする」と記されています。すなわち、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負う通常の情報収集を行うべき注意義務は、告知書(物件状況等報告書)に記載を求める方法で果たされることとなりますので、ぜひ当該方法をもって情報収集を尽くしていただければと考えます。

4 人の死に関する告知の範囲について

(1)宅地建物取引業者が告知しなくてよい場合

① 売買及び賃貸借取引の対象となる居住用不動産において、老衰、持病による病死などの自然死が発生することは当然に予想されるものであり、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いものと考えられることから、本ガイドラインにおいて、居住用不動産において過去に自然死が生じた場合には、原則として売買取引及び賃貸借取引いずれの場合もこれを告げなくてもよいとされました。

また、居室内の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死についても、居住用不動産においてかかる死が生ずることは当然に予想されるため、こちらも買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられ、自然死と同様に、原則として売買取引及び賃貸借取引いずれの場合もこれを告げなくてもよいとされました。

ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、取引の対象となる不動産において、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合においては、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられるため、告げる必要があるとされていますのでご注意が必要です。

② ①以外の死(自殺や殺人等)が発生している場合、又は①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合、賃貸借取引については、過去の裁判例等を踏まえ、特段の事情がない限り、①以外の死が発生又は特殊清掃等が行われることとなった①の死が発覚してから概ね3年間を経過した後は、原則として、借主に対してこれを告げなくてもよいとされました。

ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではなく、3年経過後も当該人の死について告げる必要があるとされましたのでご注意が必要です。

なお、借主が日常生活において通常使用する必要があり、借主の住み心地の良さに影響を与えると考えられる集合住宅の共用部分(ベランダや共用玄関、エレベーター、廊下等)は賃貸借取引の対象(居住部分)と同様に扱うとされたことから、共用部分において①以外の死が発生した場合や①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合も、3年経過により告げる必要がなくなります。

③ 売買取引及び賃貸借取引において、その取引対象ではない隣接住戸、又は買主若しくは借主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において、①以外の死が発生した場合又は①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合であっても、裁判例等を踏まえ、原則として売買取引及び賃貸借取引いずれの場合も告げなくてもよいとされました。

ただし、この場合についても事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではなく、告げる必要があるとされています。

(2)宅地建物取引業者が告知しなければならない場合

上記(1)①~③のケース以外の場合で、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるときは、宅地建物取引業者は、買主・借主に対してこれを告げなければなりません。

なお、告げる場合は、宅地建物取引業者は、上記「3 人の死に関する調査義務について」でご説明した調査を通じて判明した点について実施すれば足りるとされ、例えば事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因 (不明である場合にはその旨)及び特殊清掃等が行われた場合にはその旨を告げる必要があるとされています。

なお、本ガイドラインによると、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因及び特殊清掃等が行われた旨については、上記調査において売主や貸主、あるいは管理会社に照会した内容をそのまま告げるべきとされており、売主や貸主、管理会社から「不明である」と回答された場合、あるいは無回答の場合には、その旨を告げれば足りるとされていますので、実務においてぜひご参考にしていただければと考えます。

(3)告知の方法

本ガイドラインには、「告知の際には、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない。」とされています。亡くなったご本人やご家族に関する個人情報を不必要に告知し、あるいは公表した場合には、プライバシー権侵害や名誉棄損が成立する可能性がありますので、告知の方法(範囲、具体性)には十分ご注意する必要があります。

また、後日告知の有無について取引当事者で紛争となることを防止すべく、本ガイドラインにあるとおり、買主・借主に事案の存在を告げる際には書面を交付する方法によることが適切であると考えます。

5 売主や貸主の説明義務に与える影響

(1)これまでご説明したとおり、売買や賃貸借の対象となる不動産において、過去人が死亡した事実は心理的瑕疵にあたる場合があり、宅地建物取引業者の説明(告知)義務の対象となることがあります(本ガイドラインの適用場面です)。

(2)また、過去人が死亡した事実は心理的瑕疵にあたる場合があることから、売主や貸主の買主又は借主に対する説明義務の対象となることもあります。

すなわち、過去人が死亡した事実は契約内容の不適合(改正前民法における瑕疵)にあたるとして、売買取引及び賃貸借取引における契約解除の原因になったり、説明義務違反を理由とする損害賠償請求の根拠となったりすることがあります。

この点、対象となる不動産において過去人が死亡した事実につき、民事上、売主や貸主はどの範囲まで説明する義務を負うのかについては、過去の裁判例を踏まえても明確な基準が設けられているとはいえず、個別の判断とならざるを得ませんが、宅地建物取引業者の告知義務の範囲を示した本ガイドラインは、売主や貸主の説明義務の範囲を示す基準としてもとても有用であると考えられます。

第3 最後に

以上、近時(2021年10月)に国土交通省より公表された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」の概要をご説明いたしました。

本ガイドラインにより、告知すべき対象、範囲につき一定の基準が示されましたが、実務においてはなお、告知義務を負う事項あるのか、対象外の事項であるのか難しい判断を迫られる場面が生じるものと考えます。

告知の有無やその方法、範囲等、個別のご相談がございましたら、弊所不動産プラクティスグループまでご連絡いただければと存じます。

 

 

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弁護士 白井 潤一
info@jmatsuda-law.com

 

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