M&P Legal Note 2024 No.7-1
【速報】農業弁護士が種苗法違反ニュースを解説
『希少いちご「桃薫」の苗、フリマサイトで無許可販売』
2024年12月3日
松田綜合法律事務所
農林水産業法務チーム 弁護士 菅原 清暁
<事案概要>
12月3日、農業・食品技術総合研究機構が品種登録しているイチゴ「桃薫(とうくん)」の苗を、同機構の許諾を得ずにフリマサイトで販売したとして、被疑者2名が逮捕、被疑者10名が書類送検されました。
「種苗法違反等事件の被疑者の検挙について(情報提供)」(警視庁生活安全部生活環境課長令和6年12月3日環.環1第406号)によれば、被疑者らは、法定除外事由がないにもかかわらず、無許可で、業として、複数回、インターネット上で、いちごの登録品種「桃薫(とうくん)」の苗を販売したのとのことです。
<解説>
1 種苗法では、どんな行為が禁止されているのか?
種苗法とは、野菜、果樹、花、きのこ等について、新たな品種を開発した者(育成者)を保護するための法律です。
新しい品種を開発した人(育成者)は、農林水産省にその開発した新品種を登録し、「育成者権」という権利を取得することができます。また、このように登録された品種のことを「登録品種」といいます。
そして種苗法上、この登録品種については、育成者権を有する人(育成者権者)だけが、業として、その種苗の種苗、収穫物及び一定の加工品を生産したり、譲渡の申出をしたり、譲渡したり、輸出入をしたり、これらの行為をする目的で保管をすることができるとされています。
このため、育成者権を有しない人が、育成者権を有している人の許諾を得ないで、業として、上記のような行為をすれば、種苗法に違反する行為として罰せられることになります。
具体的には、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、又はその両方が課せられます。
今回の事件では、被疑者が、育成者権を有している農業・食品技術総合研究機構の許諾を得ないで、同機構が品種登録をしているイチゴ「桃薫(とうくん)」を販売したことから、種苗法に違反するものとして逮捕や書類送検されました。
2 登録品種の種苗の生産や譲渡は、「業として」行わなければ許されるのか
種苗法で禁止されている行為は、あくまでも、登録品種の種苗、収穫物及び一定の加工品を「業として」生産したり、譲渡したりする行為です。
このため、「業として」行わなければ、種苗法上、罰せられることはありません。
ただし、この「業として」とはとても広く解されており、個人的あるいは家庭的な利用を除くすべての行為を指します。有償か無償かは問われません。繰り返し行われている必要もなく、ただの1回の生産でも「業として」と判断されることがあります。
例えば、もっぱら自宅で行うガーデニングのために登録品種を増殖することは許容されますが、増殖した苗を隣人に渡すなどをした場合には、「業として」に該当する可能性があります。
3 正規のルートで購入した種苗をフリマサイトで転売した場合も処罰されるのか
種苗法では、育成者権を有する人が自分の意思に基づいて、登録品種の種苗、収穫物及び一定の加工品を譲渡した場合には、原則として、その後の登録品種の利用行為には育成者権は及ばないとされています。
ただし例外として、このような場合であっても、その種苗から新たな種苗を生産したり、品種の育成に関する保護が十分でない国に輸出等をすることは禁止されています。
つまり正規ルートで購入した登録品種の種苗等については、育成者権を有する者の許可を得ずに、購入者は、その登録品種をさらに転売等をすることはできます。
しかし仮に正規ルートで購入した場合であっても、その購入した種苗から新たな種苗を生産し、それを販売等することは許されません。
4 最後に
上記のとおり、無断で登録品種を生産、販売した場合、種苗法違反として懲役刑や罰金刑を科される可能性があるほか、民事上、育成者権を有する人から、損害賠償請求、侵害物の破棄の請求、業務上の信用を回復するのに必要な謝罪広告の掲載等、民事上の請求を受ける可能性があります。そのため種苗を生産、譲渡する場合には、種苗法に抵触することのないように十分留意する必要があります。
また、無断増殖された種苗を購入し、利用した人も、民事上の請求を受ける可能性があるため、フリマサイト等で販売されている種苗を購入する場合には、その種苗が正規の販売ルートに基づき提供されているものなのか、十分注意する必要があります。
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