Legal Note

リーガルノート

2024.09.19

2024-4-1 森林経営管理法の概要について

M&P Legal Note 2024 No.4-1

森林経営管理法の概要について

2024年9月20日
松田綜合法律事務所
農林水産関連法務チーム
弁護士 菅原 清暁
弁護士 小野 渡

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*本ニュースレターは2024年9月1日現在の情報に基づいております。

1.はじめに

我が国の人工林は6割が50年生を超え、利用期を迎えていますが、所有者の分散、働き手の減少・高齢化による手入れ不足等の理由により、森林を適切に管理できていないことが課題として指摘されています。また、林業事業者の経営規模拡大のニーズは大きいものの、事業地確保や基盤整備の問題がボトルネックとなっています。

そこで、経営管理が不十分な森林の経営を民間事業者に委ね、林業経営の効率化及び森林の管理の適正化の一体的な促進をはかるべく、平成30年6月1日に森林経営管理法が公布され、平成31年4月1日に施行されました。本ニュースレターでは、経営規模を拡大させたい林業事業者にとって重要な法律である、森林経営管理法の内容を俯瞰します。

 

2.森林経営管理法の概要

森林経営管理法は、市町村が森林所有者から森林の経営管理を受託したうえで、林業経営に向いている森林は民間事業者に経営管理を再委託し、林業経営に向いていない森林は市町村が管理するという制度(森林経営管理制度)について定めている法律です。同制度は、市町村が森林を管理することで森林の機能の健全に保ち、災害を防止することを狙いとするとともに、事業地確保を課題とする民間事業者の事業集約化・拡大化を後押しすることが期待されています。

森林経営管理制度に基づく経営管理の再委託は、①市町村への経営管理権の集積、②民間事業者への経営管理実施権の配分、という二段階のプロセスを経て行われます。

 

3.市町村への経営管理権の集積

市町村はまず、森林所有者に対して、これまでどのように森林を管理してきたか、今後どのように管理していくか等、森林の経営管理についての意向調査(経営管理意向調査)を行います(法5条)。意向調査の結果、森林所有者が市町村へ経営管理の委託を希望した場合、市町村は経営管理権集積計画を作成し(法4条)、森林所有者から経営管理権(森林所有者の委託を受けて、立木の伐採及び木材の販売、造林並びに保育(伐採等)を実施するための権利をいいます。法2条4項)の設定を受けたうえで、森林の経営管理を実施します(法33条)。

 

4.民間事業者への経営管理実施権の配分

(1) 都道府県による民間事業者の公募・公表

都道府県は、毎年一回以上定期的に、経営管理実施権(市町村の委託を受けて伐採等を実施するための権利をいいます。法2条5項)の設定を希望する民間事業者を公募したうえで、応募した民間事業者のうち以下の要件に該当する者を公表します(法36条1項、2項、法施行規則31条)。

  • 経営管理を効率的かつ安定的に行う能力を有すると認められること(法36条2項1号)
  • 経営管理を確実に行うに足りる経理的な基礎を有すると認められること(同項2号)

上記要件の該当性を判断するにあたっては、

  • 素材生産の生産量又は生産性の増加
  • 主伐後の再造林の確保
  • 素材生産や造林・保育を実施するための実行体制の確保
  • 伐採・造林に関する行動規範の策定

等が考慮され、経営規模の大小は問わないこととされています(2020年4月林野庁『森林経営管理法(森林経営管理制度)について』)。

 

(2) 市町村による民間事業者の選定

市町村は、上記(1)で都道府県が公表した民間事業者に対し、経営管理実施権の存続期間や経営管理の内容、伐採にかかる経費及び販売収益の見積額等を提案させ、同提案を審査したうえで、経営管理を再委託する民間事業者を選定します(法36条3項、法施行規則33条1項、2項)。その後、市町村は選定された民間事業者の同意のもと、経営管理実施権配分計画を作成し、当該事業者に経営管理実施権を設定します(法25条1項)。

 

(3) 林業経営者による経営管理

市町村から経営管理実施権の設定を受けた民間事業者(林業経営者)は、経営管理を再委託された森林の立木を伐採し、木材を販売することができるようになります。

林業経営者は、木材の販売収益のうち伐採等に要する経費(林業経営者の利益を含みます)を差し引いた額を、森林所有者等に支払うことになります。また、林業経営者は、販売収益について伐採後の植栽及び保育に要すると見込まれる額を適切に留保し、これらに要する経費に充てることにより、計画的かつ確実な伐採後の植栽及び保育を実施しなければなりません(法38条)。

 

5.所有者不明森林等に係る特例措置

市町村が経営管理権集積計画を定めるためには、森林所有者などの関係者全員の同意が必要となりますが、度重なる相続で所有者が分散したり、相続登記がなされないことで、所有者の特定や同意の取得が困難になっている森林は数多く存在します。そこで、森林経営管理法は、森林所有者の一部または全部が不明だったり、計画作成に同意しない場合において、一定の要件を満たすことで計画に同意したものとみなす特例を設けています(法10条~32条)。

 

6.おわりに

森林経営管理制度を上手く活用できれば、林業事業者は、多数の所有者と長期かつ一括したて契約が可能となり、集約化による経営規模の安定・拡大を図ることができます。林野庁によると、2022年度末までに、制度の活用が必要な市町村のほぼ全て(1,221市町村)で森林経営管理制度に係る取組が実施されていますので、同取組を行っている市町村に事業地を有している事業者や、新規参入を考えている事業者は、同制度の活用を検討されると良いでしょう。

以上

 

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