M&P Legal Note 2024 No.3-2
改正「合法伐採木材等流通及び利用の促進に関する法律
(クリーンウッド法)」の施行に向けて(第2回)
2024年9月10日
松田綜合法律事務所
弁護士 菅原清暁
*本ニュースレターは2024年9月1日現在の情報に基づいております。
1.はじめに
『改正「合法伐採木材等流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)の施行に向けて(第1回)』では、改正法の施行が迫りつつあるクリーンウッド法を理解して頂くため、現行のクリーンウッド法制度概要を概説致しました。
本ニュースレターでは、第1回で解説した現行制度を踏まえて、令和7年4月1日に施行される改正クリーンウッド法の改正内容及び各事業者において取り組むべき事項について解説します。
2.改正前のクリーンウッド法の課題・改正内容
(1)川上・水際の木材関連事業者に対する合法性の確認等義務づけ
現行法では、木材関連事業者においても、合法伐採木材等の利用を確保するための措置を講ずる努力義務が課されているに過ぎませんでした。
しかし、合法性が担保された環境を整備するためには国内市場における木材流通の最初の段階での対応が重要であることから、改正法においては、川上・水際の木材関連事業者に対して、「原材料情報の集取、合法性の確認」、「記録の作成・保存」、他の木材関連事業者に譲渡しをする際の「情報の伝達」が義務づけられました(改正法6条~8条)
具体的には、川上・水際の木材関連事業者が次の行為をする際に、これらの義務が課されます(改正法6条1項)。
- 素材生産販売事業者からの素材の譲受け又は譲渡しの受託(項1号)
- 外国において本邦に輸出される木材等の譲渡しをする事業を営むものからの木材等の譲受け又は譲渡しの受託(同項2号)
- 自ら所有する樹木又は樹木の所有者から委託を受けた伐採した樹木を材料として生産した素材の加工(同項3号)
(2)素材生産販売事業者による情報提供の義務づけ
国内市場における木材流通の最初の段階での合法性の確認を推進するという観点からは、自ら所有する樹木を伐採し生産した素材の販売等を行う素材生産販売事業者から、川上の木材関連事業者に、適切に情報が提供される必要があります。
そこで、改正案では、木材関連事業者による合法性の確認等が円滑に行われるよう、「素材生産販売事業者」が、木材関連事業者に対して素材の譲渡し(譲渡しの委託を含む)を行う際には、木材関連事業者の求めに応じ、「森林法」(昭和26年法律第249号)に基づく伐採造林届の写し等の合法性の確認に資する情報を提供することが義務づけられました(改正法9条)。
なお、「素材生産販売事業者」とは、素材の生産及び流通について、譲渡し先や譲渡しの方法を主体的に決定する者をいい、次の者がこれに該当します。
① 所有する樹木について、譲渡し先等を自ら決定する樹木の所有者
- 自ら伐採及び販売(販売の委託を含む)を行う自伐林家
- 伐採のみ委託し、販売(販売の委託を含む)を自ら行う樹木の所有者
② 樹木の所有者から、その樹木の譲渡し先等の決定を委ねられた事業者
- 伐採と販売(販売の再委託を含む)の両方を受託した素材生産事業者等
(3) 川上・水際の木材関連事業者及び素材尾生産販売事業者に対する罰則規定等の整備
合法性の確認の実施を木材関連事業社自身に委ね、木材関連事業者が判断する仕組みの場合、すべて合法性が確認された木材等と取扱われてしまうおそれがあります。このため、政府が木材関連事業者による合法性の確認の実施状況を把握し、必要に応じて改善を求めるなど適切な措置を執る必要があります。
そこで、義務づけの措置の対象である川上・水際の木材関連事業者による原材料情報の収集等や、素材生産販売事業者による情報提供の実施状況について、主務大臣による指導・助言、勧告、公表、命令に関する規定が設けられました。また、それらの実施状況に関し主務大臣による報告徴収や立入り検査の規定も設けられました。
加えて、現行法では、登録木材関連事業者を含め、木材関連事業者が合法性の確認等を怠った場合の罰則は規定されていませんでしたが、改正法では、主務大臣による命令に従わない木材関連事業者及び素材生産販売事業者に対する罰則規定が設けられることとなりました。
(4)小売事業者の木材関連事業者への追加
クリーンウッド法は、合法伐採木材等の流通及び利用を促進させるため、川上の木材関連事業者のみならず、川中・川下の木材関連事業者や消費者をも取り込んで、合法性が確認された木材等の流通市場を形成していく必要があります。
そこで、改正法では、合法性の確認等の情報が消費者まで伝わるように、消費者に木材を売るホームセンター等の小売事業者も「木材関連事業者」に追加されることとなりました(改正法2条4項)。
これにより、小売事業者についても、従前の木材関連事業者同様に、合法伐採木材等の利用を確保するための措置を適切かつ確実に講じ、登録木材関連事業者として登録を受けることで、消費者に対して、合法伐採木材のみを取扱うクリーンな企業であることのPR等も行えるようになりました。
3.クリーンウッド法改正の影響を受ける事業者と検討事項
(1) 川上・水際の木材関連事業者の検討すべき事項
現行の登録制度では、川上の原木市場や製材工場等の事業者が約140、水際の輸入業者が約90、登録を受けていますが、この改正法施行によって合法性の確認等が義務付けられる事業者数は、川上が約4,500、水際が約600となることが見込まれています。
そして、合法性の確認等が適切に実施されていない場合には、指導・助言・勧告・公表・命令という段階的な措置によって是正が図られるとともに、極めて悪質な木材関連事業者に対しては罰則が課されることとされています。
このため、川上・水際の木材関連事業者においては、改正法施行日(令和7年4月1日)までに、必要な体制(合法伐採木材等の分別管理、責任者の設置)を整備するとともに、「原材料情報(樹種、伐採地域、政令で定める政府が関与した合法伐採証明書の写しなど)の収集又は整理し、当該原材料情報を踏まえ、主務省令で定めるところにより、当該木材等が違法伐採に係る木材等に該当しない蓋然性が高いかどうかについての確認」ができる体制を構築しておく必要があります。
また、一定規模以上の川上・水際の木材関連事業者に対しては、合法性の確認等の実施状況を適切に把握するため、取り扱う木材等の数量及び合法性が確認された木材等の数量を主務大臣に定期的に報告させるとともに、必要に応じて追加の報告徴収や立入検査等を実施することとしています。このため、対象事業者においては、改めて定期報告体制についても整備しておく必要があります。
(2)素材生産販売事業者の検討すべき事項
前述のとおり、素材生産販売事業者においては、木材関連事業者の求めに応じて合法性の確認に資する情報を提供することが義務づけられました。木材関連事業者からの求めを拒否した場合だけでなく、何も応じなかった場合も当然に応諾義務違反となるため、木材関連事業者から求めがあった場合には、迅速に的確な情報を提供できるように運用体制を整備しておく必要があります。
なお、提供すべき情報とは、「合法性の確認に資する情報」(譲渡す木材の原材料情報(樹種、伐採地域、証明書)であり、原材料情報のうち証明書が複数存在する場合、木材関連事業者からその複数の提供が求められれば、素材生産販売事業者は、その求めに応じる必要があります。
(3)小売事業者の検討すべき事項
前述のとおり、消費者に木材を売るホームセンター等の小売事業者も、木材関連事業者に追加されることとなりました。そこで、企業のブランド向上や地域社会や消費者・一般事業者への信頼確保等の観点から、積極的に、合法伐採木材等の利用を確保するための取り組むべき措置を講じ、登録制度を利用することが期待されます。
(4)木材関連事業者等に関連するM&A
クリーンウッド法の改正により、川上・水際の木材関連事業者においては、本稿で説明したとおり、合法性の確認等が義務づけられることとなりました。
このため、これらの事業者に対してはM&Aを実施する場合には、林業関連法の調査事項に、クリーンウッド法に関わる法令遵守状況も含めておく必要があります。
また、各国における違法伐採対策に対する法令の動向を踏まえれば、我が国においても、合法伐採木材の流通及び利用に関する規制は、拡大していくものと考えられます。このため、改正法において確認義務が課されていない第二種木材関連事業者等についても、M&Aを実施する場合には、クリーンウッド法の対応状況や経営者の対応方針について丁寧に確認をしておくことが有用です。
【クリーンウッド法関係法令】
- 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律
- 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律施行規則
- 木材関連事業者の合法伐採木材等の利用の確保に関する判断の基準となるべき事項を定める省令
- 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律第三章に規定する木材関連事業者による合法性の確認等の実施等に関する省令
- 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律第六条第二項第二号の情報を定める政令
【行政資料】
- 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の手引(林野庁)
- 合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律に係るQ&A(林野庁)
- 「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」に基づく合法木材の普及に向けた家具に関するガイドライン(林野庁)
以上
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弁護士 菅原清暁
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