Legal Note

リーガルノート

2024.02.19

2024-2-1 《2024年4月1日施行》労働条件明示ルールの改正について~労働条件通知書の見直しを!~

M&P Legal Note 2024 No.2-1

《2024年4月1日施行》労働条件明示ルールの改正について~労働条件通知書の見直しを!~

2024年2月24日
松田綜合法律事務所
弁護士 田川 瑛久

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1 はじめに

2023年3月30日、労働条件明示ルールの改正に関する省令・告示が公布され、2024年4月1日に施行されることになりました(以下「本改正」といいます。)。本改正は、同一労働・同一賃金や無期転換ルール等との関係で実務上重要な意味をもつため、企業担当者の皆様はその変更点を理解し、自社の労働条件通知書や労働契約書(以下、あわせて「労働条件通知書等」といいます。)を見直す必要があります。

本記事では、労働条件明示ルールの主な変更点について説明します。

2 2024年3月31日まで(現在)の労働条件明示ルール

労働基準法は、使用者と労働者との間の労働条件の取り決めが不明確であることが原因で労使間の紛争が生じることを防ぐ趣旨で、下記(1)~(6)の事項について、労働契約締結時や契約更新時に書面交付によって労働条件を明示しなければならないとしています(労働基準法第15条第1項後段、同施行規則第5条第3項、同施行規則第5条1第項第1号~第4号)。

下記事項の他、労働基準法上、書面交付による明示までは求められていないものの、労働契約締結時や契約更新時に労働者へ明示しておかなければならないとされている事項もあります。(同施行規則第5条第1項第4号の2~第11号)。また、短時間・有期雇用労働者に対しては、下記事項に加え、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆる「パート・有期法」)により、ⅰ昇給の有無、ⅱ退職手当の有無、ⅲ賞与の有無、ⅳパート・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口の4点も、書面交付による明示事項となっているので、注意しましょう。

 

(1) 労働契約の期間に関する事項
契約期間の定めの有無(有期雇用か無期雇用か)や具体的な契約期間を示します。

(2) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
「契約の更新の有無」として、「自動的に更新する」「更新する場合がある」「契約の更新はない」等と示したり、「更新の判断基準」として「契約期間満了時の業務量により判断」「労働者の勤務成績、態度等により判断」等と示したりします。

(3) 就業の場所及び従事すべき業務の内容
雇い入れ直後の就業場所や従事すべき業務の内容を示せば足り、就業場所や業務に限定がない場合には「会社の定める営業所」等と示せば足ります。

(4) 始業・終業時刻、所定時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇及び就業時転換[1]に関する事項

(5) 賃金(退職手当や賞与を除く)の決定、計算方法、支払方法、締切り及び支払の時期に関する事項

(6) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 

上記(1)~(6)の事項について、全ての情報を詳細に労働条件通知書等に記載する義務まではなく、当該労働者に適用する部分を明確にした上で、就業規則を労働契約締結時に交付することとしても問題ないとされています。また、労働者の希望に応じ、書面に代えて、電子メールの添付ファイル等によって交付することも可能とされています(同施行規則第5条第4項。以下、書面と書面に変わる交付手段をあわせて「書面等」という。)。

3 2024年4月1日以降の変更点

本改正では、下記3点の事項が、書面等交付によって明示されなければならない事項として追加されました。

①有期労働契約の更新回数や通算契約期間の上限(上記2(2)に関する変更
②有期契約労働者が無期転換申込権を有していること及び無期転換後の労働条件(同施行規則第5条第5~6項)
③労働者の就業場所・業務の変更の範囲(上記2(3)に関する変更

また、法令上、書面等交付までは求められていないものの、労働者に対する説明義務がある事項として下記2点が追加されました。

④上記①の更新上限を新設・短縮する場合の理由(有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準(厚労省告示)第1条)
⑤無期転換後の労働条件について、他の通常の労働者との均衡を考慮した事項(同基準第5条)

なお、上記④⑤とも、厚労省の見解では、文書交付をして個々の労働者ごとに面談を行うことが基本とされていますので[2]、実務上は、上記④、⑤についても労働条件通知書とともに労働者に対して書面等を交付するのが望ましいといえます。また、上記⑤は、同告示上、努力義務にとどまるものとされております。

以下、労働条件通知書等への記載義務があるとされる①~③を取り上げて説明します。

 

(1) ①有期労働契約の更新回数や通算契約期間の上限

ア 変更の概要

有期労働契約の更新上限を定める場合、2024年3月31日までは、更新上限の具体的内容まで明示する必要はありませんでしたが、2024年4月1日以降に新たに有期労働契約を締結又は更新する労働者の労働条件通知書等には、「契約期間は通算5年を上限とする」「契約の更新回数は3回までとする」等、更新上限の具体的内容を明示しなければなりません。なお、有期労働契約にとくに更新上限を設けない場合には、引き続き「更新する場合がある」等の記載で足りるものと考えられます。

また、複数回契約更新が行われる場合には、更新の都度毎回更新上限を明示する必要があります。

イ 実務上の影響

労働契約締結時及び更新時において契約の更新可能性について労働者に説明された内容は、雇止めとの関係で重要な意味をもちます。労働契約法19条は、「当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」場合(同条2号)、使用者が契約更新の申込を拒絶することについて「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない」ときは、労働者による有期労働契約締結の申込みに対し、使用者は従前と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされるとしています(同条本文。以下「雇止め法理」という。)。労働契約締結時及び更新時に労働者に説明された内容は、この「労働者の契約更新への期待」を裏付ける有力な事情となります。

使用者は、有期労働契約の更新上限を設ける運用をとっていく場合には、労働者から雇止め法理を主張されるリスクを小さくするため、更新の都度明確に更新の上限を定めておかなければなりません。

 

(2) ②有期契約労働者に無期転換申込権が発生すること及び無期転換後の労働条件

ア 変更の概要

同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間[3]が5年を超える労働者が、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約の締結の申込みをしたとき、使用者は、当該申込みに承諾したものとみなされます(労働契約法第18条第1項。これを無期転換と言います。)。他方で、従来は、使用者から労働者に対し積極的に当該申込みの機会を指摘する義務まではありませんでした。

2024年4月1日以降、更新後に無期転換申込権が発生する契約更新があるときは、その更新の都度、労働者に対し、当該労働者に無期転換申込権が発生することを明示しなければならず、また、当該労働者が無期転換をした場合に適用される労働条件も明示しなければならなくなります。さらに、無期転換をした場合に適用される労働条件は、実際に当該労働者が無期転換申込権を行使したときにも、通常の無期労働契約を締結する場合と同様、当該労働者に明示しなければなりません。

無期転換をした場合に適用される労働条件のうち、書面等への明示義務がある事項は、上記2(1)、(3)~(6)と同様です。

イ 実務上の影響

従来は、使用者から労働者に対し積極的に無期転換申込権を指摘する必要がなかったため、労働者が無期転換申込権を保有していることに気付かないことがありました。今後は、使用者が無期転換申込権を指摘することになるため、労働者が使用者に対し無期転換申込みを行うケースが増えることが想定されます。

使用者としては、有期契約労働者の通算契約期間の管理をより慎重に行う必要があるといえます。

 

(3) ③労働者の就業場所・業務の変更の範囲

ア 変更の概要

2024年3月31日までは、就業直後の就業場所や業務内容のみ記載されていれば足りましたが、2024年4月1日以降に新たに労働契約を締結又は更新する労働者の労働条件通知書等には、当該労働者がその後に配置転換や在籍型出向を命じられた場合に就業する見込みのある場所や業務内容についても明示しなければいけません。ただし、いわゆる総合職など、就業場所や業務に限定がない場合には、全ての就業場所を記載することは困難であるため、「本店及び全ての支店、営業所」「会社内での全ての業務」等と記載すれば足りるとされています。また、他部門への応援業務や出張等における一時的な就業場所・業務内容の変更までは記載する必要はありません。

業務の性質上、通常テレワークを行うことが想定されている場合には、「○○支社及び労働者の自宅」等、テレワークを実施することが可能な場所まで明示するべきであるとされています。

イ 実務上の影響

裁判例上、就業規則上の根拠規定や配置転換が行われてきた実態が存在し、就業場所や業務内容を限定する特段の合意がない場合には、使用者側の裁量によってある程度柔軟な配置転換が認められるものと解されています。他方で、近年は若年層の確保等の観点から、全国転勤等を廃止する企業も増えつつあるため、使用者としては労働者のニーズに応えながらも一定の配転命令権を確保することが重要になってきました。今後、「契約締結時に就業場所や業務内容の変更の範囲について適切な説明がなされなかったと認定されたことが原因で、裁判所に配転命令が無効と判断されてしまった」というようなケースが増えてくる可能性も考えられますので、本改正についても適切な対応が必要といえます。

また、本改正は、同一労働・同一賃金(パートタイマー・有期契約労働者と無期契約労働者との間で、不合理な待遇差や差別的取り扱いを禁止すること)との関係でも重要です。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート・有期法」といいます。)第8条は、待遇差の合理性の判断要素として「職務の内容及び配置の変更の範囲」を考慮するとしており、同法第9条でも、パートタイマーや有期雇用労働者との比較対象となる「通常の労働者」の判断要素として、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を考慮するとしています。本改正後は、労働条件通知書等の記載内容が、パート・有期法違反の有無の判断に際し、より重要な意味を持ってくる可能性があります。

 

4 企業担当者に求められる対応

本改正は、単なる形式面の制度変更にとどまらず[4]、上記で指摘したような実務上の影響が想定される制度変更になりますので、企業担当者の皆様はぜひこの機会に自社の労働条件通知書等を確認し、法令に即した記載となっているか今一度確認してみてはいかがでしょうか。

厚労省HP[5]では、本改正に対応した労働条件通知書のひな形が公開されておりますので、自社ひな形を改訂する際の参考になるかと思います。

個々の労働者や企業固有の事情に応じて労働条件通知書等の記載内容を工夫したいという場合には、弊所にご相談いただければ対応させていただきます。

 

5 その他注意点

本改正後のルールの対象者は、労働契約の締結日又は更新日が2024年4月1日以降の労働者に限られるため、2024年3月31日までに労働契約を締結したものの、契約の始期が2024年4月1日以降となっている労働者については、本改正の対象にはなりません。したがって、例えば、在学中に内定を出し、今年4月に新卒で入社する労働者は、本改正後のルールの対象外になります。

また、本改正に伴い、職業安定法施行規則第4条の2第3項も改正され、求人企業や職業紹介事業者が求人を出す際に明示されなければならない事項に、上記①及び③が追加されています。求人募集を行う企業については、こちらの改正にも対応する必要があります。

 

<注>

[1] いわゆるシフト制を指します。

[2] 厚生労働省パンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」7頁、11頁参照

[3] ある有期労働契約の契約期間の満了日とその次の有期労働契約の契約期間の初日の間の期間(空白期間)が、一定期間以上である場合には、当該空白期間以前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しません(労働契約法第18条第2項、労働契約法第18条第1項の通算契約期間に関する基準を定める省令参照)。

[4] 労働条件明示義務違反は、刑事罰の対象となっており、使用者に対し30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第120条第1号)。

[5] 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります ー 厚生労働省|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

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