Legal Note

リーガルノート

2023.09.11

2023-8-2 《改正法解説》漁港及び漁場の整備等に関する法律 ~漁港における体験施設、直売所、食堂、宿泊施設等の整備が容易化~

M&P Legal Note 2023 No.8-2

《改正法解説》漁港及び漁場の整備等に関する法律
~漁港における体験施設、直売所、食堂、宿泊施設等の整備が容易化~

2023年9月11日
松田綜合法律事務所
農林水産法務担当 弁護士 菅原 清暁

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*本ニュースレターは2023年9月1日現在の情報に基づいております。

 

1.はじめに

近年、漁村では、全国平均を上回る速さで人口減少や高齢化が進行し深刻な問題となっています。また、日本の国民1人1年あたりの食用魚介類・食用肉類の消費量の推移をみると、農林水産省「食料需給表」によれば、2001年では、食用魚介類40.2kg/年、食用肉類27.8kg/年でしたが、2021年では食用魚介類23.2kg/年、食用肉類34.0kg/年となっており、20年間で食用肉類は22%増加しているのに対して、食用魚介類は42%も国内消費が減少しています。このため、水産物の消費の増進も重要な課題となっています。

このような事態に対処するため、令和4年3月に閣議決定された水産基本計画では、「水産資源管理の着実な実施」「水産業の成長産業化の実現」と並んで「漁村の活性化の推進」が今後の水産政策の柱とされ、その「漁村の活性化の推進」の一つの施策として、「海業(うみぎょう)」など漁業以外の産業を取り込むこととされました。また、同時期に策定された漁港漁場整備計画においても、「海業振興と多様な人材の活躍による漁村の魅力と所得の向上」が柱の1つとされました。

これらの計画を踏まえ、漁港の持つ価値や魅力を生かし、漁業利用との調和を図りつつ水産物の消費増進や交流促進に寄与するための仕組みを構築するため、第211回通常国会において「漁港漁場整備法及び水産業協同組合法の一部を改正する法律案」(令和5年法律第34号)が成立し、令和5年5月26日に公布されました。

本稿では、この改正法のうち、ご存じない方も多いと思われる「漁港漁場整備法」(以下「漁港法」という。なお、本改正法により、法律の題名が「漁港及び漁場の整備等に関する法律」とされた。)について、まず同法の枠組みを簡単に解説したうえで、主な改正内容について説明致します。

2.漁港漁場整備法の基礎

(1) 漁港の指定

漁港は、漁港漁場整備法上の指定を受けることにより本法が定める漁港漁場整備事業の対象となります。漁港の指定は、その利用範囲等により第1種から第4種までの4種類に分けられており(漁港法第5条)、原則として、第1種漁港は市町村長が、第2種漁港は都道府県知事が、第3種漁港及び第4種漁港は農林水産大臣が、その名称及び区域を定めて行うことができるものとされています(漁港法第6条第1項から第4項まで、第7条及び第9項)。

第1種漁港 その利用範囲が地元の漁業を主とするもの

第2種漁港 その利用範囲が第一種漁港よりも広く、第二種漁港に属しないもの

第3種漁港 その利用範囲が全国的なもの

第4種漁港 離島その他辺地にあって漁場の開発又は漁船の避難上特に必要なもの

(2) 漁港漁場整備事業

漁港漁場整備事業とは、漁港施設の新築等漁港の整備を図るための事業及びこれらの事業以外の事業で漁港における公害防止のための事業並びに漁礁の設置、水産動物の増殖及び養殖を推進するための事業並びに漁場の保全のための事業をいいます。

漁港整備の対象とする漁港施設は、漁港区域内にあるものをいい、基本施設と機能施設で構成されます。基本施設には防波堤、水門、堤防等の外郭施設、岸壁、桟橋等の係留施設、航路等の水域施設が含まれます。他方、機能施設には、道路、橋等の輸送施設、荷さばき所、製氷、冷凍及び冷蔵施設、加工場等の漁獲物の処理、保蔵及び加工施設等が含まれています(漁港法第3条)。

(3) 漁港漁場の維持管理

① 漁港管理者

漁港の維持、保全及び運営その他漁港の維持管理を適切に行うためには、漁港ごとに管理者を定め、その責任の主体を明確にする必要があります。そこで、漁港の種類ごとに、漁港管理者が次の通り定められています。

各漁港管理者は、条例により漁港管理規程を定めたうえで、これに従い、適正に漁港の維持、保全及び運営その他漁港の維持管理を行います(漁港法第26条)。

ア 第1種漁港であってその所在地が一の市町村にかぎられるもの

当該漁港の所在地の市町村

イ 第1種漁港以外の漁港であってその所在地が一の都道府県に限られるもの

当該漁港の所在地の都道府県

ウ ア及びイに掲げる漁港以外の漁港

農林水産大臣が水産政策審議会の議を経て定める基準に従い、かつ、関係地方公共団体の意見を徴し当該漁港の所在地の地方公共団体のうちから告示で指定する一の地方公共団体

 

② 漁港漁場の維持管理のための規制

ア 漁港施設の処分制限(漁港法37条)

漁港は、一定の区域と限られた範囲の施設によって構成され、それらが一体として機能するものです。そして、漁港の機能を保全するためには、漁港全般について適切な維持管理が行わる必要があります。

そこで、漁港施設については、一定の場合を除き、漁協管理者の許可を受けなければ、漁港施設の所有者または占有者が、その施設の形質若しくは所在場所の変更、譲渡、賃貸、収去その他の処分をしてはならないとされています(漁港法37条)。

 

イ 漁港施設の利用規制(漁港法38条)

漁港の区域内では、漁港管理者が漁港管理規程を定めて、その管理する漁港施設を利用者に利用させ、利用の対価を徴収していますが、漁港管理者以外の者が同一漁港の区域内で同様な行為を行う場合、その利用方法又は使用料が著しく異なるとすると、利用が著しく偏り、また利用者等を混乱させるおそれがあります。

そこで、漁港の利用の秩序を維持するため、国及び漁港管理者以外の者が、基本施設である漁港施設を他人に利用させ、または使用料を徴収するときは、利用方法及び料率を定めた漁港管理者の認可を受けなければならないとされています(漁港法38条)。

 

ウ 漁港の保全のための行為制限(漁港法39条)

漁港は漁港区域と漁港施設の総合体であるため、漁港の円滑な利用の確保その他漁港の保全を図るため、漁港の区域内の水域及び公共空地において一定の行為を行う場合は、漁港管理者の許可が必要とされています(漁港法39条1項)。

 

3.改正漁法で認められた制度

(1) 漁港施設等活用事業制度の創設

近年、消費者のニーズが従来の物やサービスを購入する物消費から、それを使ってどのような体験をするかという「コト消費」へと変化してきています。そして、漁村・漁港は、市場流通の少ない水産物や高い鮮度の水産物、漁業体験、独自の風景や歴史など、「コト消費」(体験に対する消費行為)のための大きなポテンシャルを有していると考えられます。

そこで、水産業界が現在抱える課題を解決するため、「コト消費」としてのポテンシャルを有している漁港において、海や漁村の価値・魅力を生かす「海業(うみぎょう)」の推進を図り、水産物の消費拡大や漁業地域の所得向上をはかることで、もって、水産業の発展・漁村地域の活性化を図ることとされました。

このような経緯から、漁港の持つ価値や魅力を活かし、漁業利用との調和を図りつつ水産物の消費増進や交流促進に寄与する取組を推進する仕組みとして、「漁業施設等活用事業」が創設されました。

 

ア 漁港施設等活用事業制度の枠組み

漁港施設等活用事業とは、漁港の漁業上の利用の確保に配慮しつつ、漁港施設、漁港区域内の水域、公共空地を有効活用し、当該漁港にかかる水産業の健全な発展及び水産物の供給の安定に寄与する次の事業とされています(漁港法4条の2)。

  • 当該漁港において取り扱う水産物の販売、又は当該水産物を材料とする料理の提供を行う事業その他当該水産物の消費の増進に関する事業
  • 遊漁、漁業体験活動又は海洋環境に関する体験活動若しくは学習の機会の提供を行う事業その他当該漁港の存する地域と他の地域との間の交流の促進に関する事業
  • 前記に付帯する事業

そして、この制度の主な枠組みは、次の通りです。

① 農林水産大臣は、漁港施設等活用事業の推進に関する基本方針(以下「漁港施設等活用基本方針」という)を定める(漁港法40条)。

② 漁港管理者は、漁港施設等活用基本方針に基づき、漁港施設等活用事業の推進に関する計画(以下「活用推進計画」という。)を定めることができる(漁港法41条。なお、事業実施期間は30年以内)。

③ 活用推進計画が定められた漁港において、漁港施設等活用事業を実施しようとする事業者は、実施計画を作成し、漁港管理者の認定を受ける(漁港法42条)。

 

イ 漁港法における規制の特例

改正前の制度の下では、漁港施設など活用事業の実施に当たり、実施計画の認定を受けた事業者(3(1)ア③)が、漁港施設を活用して新たな施設を設置するために漁港施設の形質変更等の処分を行ったり、漁港施設等活用事業の一環として当漁港施設を顧客に利用させたり、漁港区域内の水域又は公共空地を占用して漁港施設等活用事業を実施したりする場合には、前記2(3)②に記載したとおり、漁港法37~39条に定められた各許可を受ける必要があります。

しかし、改正法では、一定の事項が記載された実施計画の認定を受けて漁港施設等活用事業を実施する場合、漁港法第37~39条にかかる漁港管理者の許可は不要とされました。

これにより、漁港施設等活用事業を実施する事業者は、実施計画の申請手続とは別に、漁港法第37~39条にかかる各許可を受ける必要がなくなったため、複数の事務手続を要することなく円滑に漁港施設等活用事業を進めることができるようになりました。

 

エ 漁港水面施設運営権の創設

漁港施設等活用事業の実施に当たり、事業者が漁港区域内の一定の水域における水面固有の資源を利用して遊漁や漁場体験等の活動を長期安定的に運営することができるように、本改正では、新たに「漁港水面施設運営権」が創設されました(漁港法4条の3、48条~60条)。

「漁港水面施設運営権」とは、漁港管理者より設定を受けて、漁港の区域内の一定の水域における水面固有の資源を利用する漁港施設等活用事業(遊漁、漁業体験活動又は海洋環境に関する体験活動若しくは学習の機会の提供を行う事業に限る。)を実施するために、当該水面を占用して必要な施設を設置し、運営する権利と定義されています。

なお、この漁港水面施設運営権は物権とみなされ、妨害排除を含めて強い保護が与えられるため(同法53条)、漁港水面施設運営権の設定に関しては欠格事由が設けられています。

(2) 漁港協力団体指定制度の創設(漁港法61条~65条)

本改正では、ボランティアの民間団体等の協力による漁港の維持管理や、民間団体等の視点で漁港の魅力発信や水産物の消費拡大等の取組を推進するため、漁港管理者と協力して漁港の維持管理等を行う団体を指定する「漁港協力団体制度」を創設されました。

漁港管理者によって指定され漁港協力団体は、指定した漁港管理者が管理する漁港について、次の業務等を行うものとされています(漁港法62条)。

  • 漁協管理者に協力して、漁港環境整備施設その他の漁港施設の維持若しくは保全又は漁港の区域内の水域若しくは公共空地の漂流物の除去その他の保全を行うこと
  • 漁港の維持管理若しくはその活用の促進又は漁港の発展に関する情報又は資料を収集し、及び提供すること。
  • 漁港の維持管理等又は漁港の発展に関する調査研究を行うこと。
  • 漁港の維持管理等又は漁港の発展に関する知識の普及及び啓発を行うこと。

また、漁港協力団体が行う活動については、漁港施設の点検や補修のための資材置き場の公共空地への設置など、漁港法第39条1項に基づく占用許可を要する行為も想定されるため、漁港協力団体が漁港法61条に掲げる業務を行うために必要となる水域又は公共空地の占用については、漁港協力団体と漁港管理者との協議が成立することをもって、漁港法39条1項の許可があったものとみなすとの規定が設けられました(漁港法65条)

これにより、漁港協力団体が実施する業務に関して、同法第39条第1項に基づく占用許可にかかる手続が不要となるため、漁港協力団体による円滑な業務の実施が可能となり、漁港管理者と協力した漁港施設の清掃や、漁港・漁村に関する知識の普及・啓発等を適切かつ確実に行うことが期待されます。

4.最後に

海・漁業・漁村における利用者のニーズが、水産物という食料資源にとどまらず、レジャー資源、文化資源等にも多様化してきていることも踏まえれば、この「海業」の振興は、漁港・漁村が現在抱える問題の解決に一定程度資するものと考えられます。

しかし、漁港・漁村が抱える漁港の活性化・所得向上・雇用の確保という課題を抜本的に解決するためには、長期的かつ安定的に一定の売上規模が見込まれ事業計画が慎重に策定されるべきであり、必要に応じて経験豊かな事業経営者やアドバイザーを巻き込みながら、当該地域における「海業(うみぎょう)」という現実的なビジネスの検討を進めていく必要があると考えます。

また、全国には数千にも及ぶ漁港が存在するところ、他の地域との差別を図ったり、当該漁港ならではの付加価値をつけたりするためには、知的財産権などを駆使したブランド戦略についても事業計画策定時点から検討しておくべきでしょう。他方で、差別化を図ろうとしたばかりに、不適切な宣伝・広告を行いトラブルに発展するケースも少なくないため、サービスのアピールに際しては景品表示法等の広告にかかわる法律にも十分配慮しておかなければなりません。

その他、「海業(うみぎょう)」においては、遊漁、水産物の直売、漁家民宿、漁家レストラン等の開設が想定されますが、これらの事業にかかわる業法規制も存在することから、事前に規制調査をしておく必要があります。加えて、漁港施設で働く労働者が増えれば、労務トラブルリスクも高まるため、いままで以上に労働関連法規を踏まえた労務管理にも十分配慮する必要がでてくるでしょう。

上記のような新事業展開に伴う様々な法的課題にも配慮しながら、本法律の改正を機に、全国の漁港・漁村において、各漁港の持つ価値や魅力を生かした「海業(うみぎょう)」が活発に展開され、水産業界の抱える問題が着実に解決されていくことが期待されます。

以上

 

 

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