Legal Note

リーガルノート

2023.09.11

2023-8-1 令和5年著作権法改正がコンテンツクリエイターに与える影響について ~著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設~

M&P Legal Note 2023 No.8-1

令和5年著作権法改正がコンテンツクリエイターに与える影響について
~著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設~

2023年7月28日
松田綜合法律事務所
弁護士 梅澤 隼

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1 はじめに

令和5年5月17日、「著作権法の一部を改正する法律」が第211回通常国会において成立し、同月26日に公布されました。今般の改正内容は、①著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設、②立法・行政における著作物等の公衆送信等の権利制限規定の見直し及び③海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法見直しの3つの項目にわたっています。

このうち、①著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設は、いわゆるUGCのようなコンテンツを創作するクリエイターにとって、自己のコンテンツが他者に利用される場面や、他者のコンテンツを利用して自らコンテンツを新たに創作する場面において影響を与える場合があります。

当職は、令和5年6月30日まで経済産業省に出向しており、かかる法改正に関係省庁の立場から携わっていましたので、①著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設の内容やコンテンツクリエイターに与える影響について解説いたします。

2 現行の著作権者不明等の場合の裁定制度について

他者の著作物、実演、レコード、放送、有線放送(以下、総称して「著作物等」といいます。)を利用する場合、原則として著作権者や著作隣接権者(以下、併せて「権利者」といいます。)の許諾が必要になります。

もっとも、権利者から許諾を得ようと相当な努力を払っても「権利者が誰か分からない」、「(権利者が誰か分かったとしても)権利者がどこにいるのか分からない」、「権利者は亡くなりその相続人が誰でどこにいるのか分からない」などの理由で権利者と連絡がとれず、許諾を得ることができない場合があります。このような場合に、権利者からの許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより、著作物等を適法に利用することができます(著作権法67条1項、103条)。

著作権法

(著作権者不明等の場合における著作物の利用)

第六十七条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合は、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。

2~4 (略)

 

3 改正の内容

現行の裁定制度は、権利者が不明な場合等で連絡を取ることができない場合に利用できる制度でした。

令和5年著作権法改正では、さらにJASRACやNexToneなどの著作権等管理事業者による集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等(以下「未管理公表著作物等」といいます。)についても文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、3年を上限とする時限的な利用が可能となります(改正後著作権法67条の3第1項、同条2項)。

すなわち、集中管理がされておらず、利用可否や条件等が明示されていない著作物等について、権利者に利用を申請する手段が明らかでなかったり、連絡しても返答がなかったりする場合にも新たな裁定制度を利用することで一定期間、著作物等を利用することができることになります。

改正後の著作権法

(未管理公表著作物等の利用)

第六十七条の三 未管理公表著作物等を利用しようとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、当該裁定の定めるところにより、当該未管理公表著作物等を利用することができる。

一 当該未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとつたにもかかわらず、その意思の確認ができなかつたこと。

二 著作者が当該未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと。

2 前項に規定する未管理公表著作物等とは、公表著作物等のうち、次の各号のいずれにも該当しないものをいう。

一 当該公表著作物等に関する著作権について、著作権等管理事業者による管理が行われているもの

二 文化庁長官が定める方法により、当該公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であつて文化庁長官が定めるものの公表がされているもの

新たな裁定制度により他者に自己の著作物等を利用された権利者は、利用者が供託した補償金を受け取ることができます。また、当該著作物等の権利の管理を著作権等管理事業者に委託したり、当該著作物等の利用に関する協議の求めを受け付けるための連絡先等の情報を公表した場合、裁定の取消しを請求することができます。なお、裁定が取り消された場合でも、権利者はそれまでの利用期間に応じた補償金を受け取ることができます。

同条

7 裁定に係る著作物の著作権者が、当該著作物の著作権の管理を著作権等管理事業者に委託すること、当該著作物の利用に関する協議の求めを受け付けるための連絡先その他の情報を公表することその他の当該著作物の利用に関し当該裁定を受けた者からの協議の求めを受け付けるために必要な措置を講じた場合には、文化庁長官は、当該著作権者の請求により、当該裁定を取り消すことができる。この場合において、文化庁長官は、あらかじめ当該裁定を受けた者にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

8 文化庁長官は、前項の規定により裁定を取り消したときは、その旨及び次項に規定する取消時補償金相当額その他の文部科学省令で定める事項を当該裁定を受けた者及び前項の著作権者に通知しなければならない。

9 前項に規定する場合においては、著作権者は、第一項の補償金を受ける権利に関し同項の規定により供託された補償金の額のうち、当該裁定のあつた日からその取消しの処分のあつた日の前日までの期間に対応する額(以下この条において「取消時補償金相当額」という。)について弁済を受けることができる。

なお、新たな裁定制度の創設にあたっては、手続の迅速化・簡素化及び適正な手続きを実現するために、文化庁長官による指定・登録を受けた民間機関が利用者の窓口となって手続を担うことが可能となっているため、現行の裁定制度よりも簡便に新たな裁定制度が利用できることが期待されます。

また、集中管理の有無や著作権者の探索を容易にするために新たな裁定制度導入に合わせて、著作物等の分野(音楽、書籍、アニメ、映画、ゲーム等)を横断した分野横断権利情報データベース(分野横断権利情報検索システム)を構築するための議論も進められています。

 

4 コンテンツクリエイターに与える影響

(1) 他者の著作物等を利用する場面

クリエイター等が他者の著作物等を利用して新たなコンテンツを作る場合、多くの場合は、権利者が明らかとなっている著作物等を利用したり、そもそも、著作権フリーの素材を利用したりすることが多いと思いますが、インターネット上にアップロードされているUGCなどを自らの創作活動でも利用したいというケースもあるかと思います。

このような場合に、当該UGCの権利者に利用の可否について連絡をしても返答がないといった場合、引用(著作権法32条)などの著作権制限規定が適用される場合を除き、利用を諦めざるを得ませんでしたが、上記の新たな裁定制度を利用することで、著作権者の許諾を得ることなく著作物を利用することができることとなります。

(2) 自己の著作物等が利用される場面

新たな裁定制度が施行された場合、クリエイターが著作物の利用条件等を公表しておらず、利用したいと考えている者からの問合せ等に応答しなかった場合には、許諾を与えていないにもかかわらず、新たな裁定制度により自己の著作物等が他者に利用されてしまう可能性があります。この場合には、権利者であるクリエイターは補償金を受け取ることはできますが、そもそも自己の著作物等を他者に利用されたくないと考える場合は、予め権利者として意思表示をしておく必要があります。この意思の公表の方法等については、今後具体的に明らかになるとされていますが、文化庁は、一例として、「著作物やその周辺、著作権者やプラットフォームの公式ウェブサイト、SNSのプロフィール等において、「利用の禁止」、「複製・公衆送信禁止」等の記載があること、利用条件を示したガイドライン・利用規約が公開されていること」をあげています(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r05_hokaisei/)。

このように、新たな裁定制度が施行された場合、クリエイターとして自己の著作物等の利用方法等について予め公表等をしておくことが、今後のコンテンツビジネスにおける著作権管理の重要な方法の一つになることが予想されます。

5 おわりに

新たな裁定制度の導入は、著作権者の意思の確認が取れなかった場合に時限的な利用を裁定により認めるという新たな制度であり、実務的な影響も大きいことから、施行日は公布(令和5年5月26日)から3年以内で政令で定める日とされています。制度導入までの間に著作権者の意思確認の方法等について議論がされるため、今後の議論の集積が待たれます。

 

 

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