Legal Note

リーガルノート

2023.05.11

2023-4-1 園児同士の衝突事故と園の責任の所在について(報道事例を参考として)

M&P Legal Note 2023 No.4-1

園児同士の衝突事故と園の責任の所在について(報道事例を参考として)

2023年5月16日
松田綜合法律事務所
弁護士 鈴木 みなみ

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1 近時の報道事例のご紹介

近時報道された、園児同士の衝突事故と園の損害賠償責任に関する事例について、注目すべきものがありましたのでご紹介いたします。岐阜市の幼稚園で、園児同士が園内でぶつかり、一方の園児が内斜視の後遺症を負った事案について、岐阜地裁は園の安全配慮義務違反を認め、約2000万円の損害賠償の支払いを命じました(2023年4月27日朝日新聞報道等。「本事案」といいます。)。

報道によれば、当時年中クラスの園児が遊戯室の外にある道具箱に遊具を片付け、遊戯室に戻ろうとした際、遊戯室から道具箱に向かって走ってきた別の園児と衝突し、園児は頭を強く打って内斜視となりました。また、相手の園児も前歯が折れました。現場には教諭はいませんでした。

裁判所は、遊戯室から道具箱が死角にあり見通しが悪かったことや園児がたびたび走り出すことがあったことを指摘し、また、園は園児を見守る教諭などを配置する義務を怠っていたとしました。また、事故と内斜視の因果関係も認め、上記のとおり園に損害賠償を命じました。

2 園内事故と園の責任

保育園、幼稚園において、園児がケガ等を負った場合に、すべての事故について園が損害賠償責任を負うわけではありません。その園がケガについて損害賠償責任を負うかどうかは、園がそのケガについて「過失」があるかによって決まります。

例えば、園庭で鬼ごっこをしていたときに転んだケガについては、偶発的に起きる避けられないものであり、また通常容認されていた遊びの範囲内での事故であれば、園に過失はなく、責任を負わないのが原則です。それに対して、転倒自体は偶発的事故であっても、転んだところに重大なケガにつながる危険物があれば、園の過失が認められることになります(鬼ごっこ中に転倒しレンガ製の玄関ポーチに頭を衝突し負傷したことについて、園の損害賠償責任が認められた事案(東京地八王子支判H10.12.7判自188号73頁)参照)。

また、プールや水遊びの場合、担当保育士や担当教諭は、園児がプールでおぼれる危険性等事故が発生しやすいことから、園は園児から目を離さないよう監視体制を構築する義務があり、それを怠れば過失が認められます。

保育園、幼稚園においては集団生活が基本である以上、保育士や教諭等の職員が園児1人1人をつきっきりで監視することは困難です。このことからもすべての事故について園が責任を負うわけではないことが言えますが、例えば施設が国や自治体の公表しているガイドラインに沿っていない等施設の安全管理に問題がある場合は、園の過失が認められることになります。

3 本事案を踏まえて

本事案は園児同士が衝突して負傷したというものであって、その点だけを見ればどの園でも起こりうるものであるといえ、一見すると園には過失がないようにも思われます。しかし、本事案では、衝突事故が起きた場所付近が死角だったことや、園児が遊戯室外の道具箱に片付けに行っているにもかかわらず、それを見守る教諭がいなかったことが重視されて、園の責任が認められています。園には、園児が立ち寄る道具箱は死角になるような場所に置かず、また死角になっているのであれば、その付近で職員が見守っている義務があったにもかかわらず、園はそれらを怠ったために事故が起きた、というのがこの判決の考え方です。園側が控訴したかなどは報道では明らかではなく、仮に控訴した場合に控訴審でこの結論が維持されるのかは分かりませんが、今回の事案は保育園、幼稚園の事業運営において踏まえておいた方が良いといえます。

保育園、幼稚園を運営の事業者様におかれましては、今一度施設の安全管理や職員の人員配置について見直しをお勧めいたします。弊所の保育チームでは、安全管理についての自主監査のお手伝い、安全管理委員会の運営についてのアドバイスも行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 

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