Legal Note

リーガルノート

2023.01.16

2023-1-3 法的観点から見た中国の宇宙ビジネス

M&P Legal Note 2022 No.1-3

法的観点から見た中国の宇宙ビジネス

2023年1月16日
松田綜合法律事務所
中国弁護士 徐 瑞静

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1 はじめに

中国の宇宙産業は多くの分野で、すでに商業化のプロセスに入っています。近年、中国が、世界の新たな工業革命を背景として、国防産業における軍民融合と「インターネット+宇宙」産業のグレードアップのための変革を強力に推進した結果、中国における宇宙ビジネスは顕著な進展を遂げました。2014年に、「重点分野の投融資制度の確認による民間投資奨励に関する国務院の指導意見」(以下、「国務院指導意見」として引用。)が発表され、民間資本をもって民間衛星インフラを推進する方針が示されました。これにより、民間資本の参入の促進の方針が打ち出された後、政府主導の下に、宇宙関連応用分野は社会全体に解放され、宇宙ビジネスは、現代及び未来のビジネスとして、より現実味を帯びた存在となっています。以下では、とくに法的観点から、現時点における中国の宇宙ビジネス市場への参入に関わる規範を整理してみたいと思います。

 

2 民間宇宙ビジネスに関する国家政策と法的規制

中国の宇宙ビジネスの民間企業への開放について、前記2014年の国務院指導意見により、政府調達拡大等による民間用衛星インフラ建設への民間参入促進の方針が発表された後、2015年、国務院は、「国家民用空間インフラ中長期発展計画(2015年―2025年)」を公布し、その中で、国家民用空間インフラ施設の市場化・商業化、及び、国家民用空間インフラ施設建設・応用開発への社会資本の参与の支持を表明しています。それに続いて、2016年、中国工業情報化部は、「情報通信業界発展計画(2016年―2020年)」において、比較的完備された商業衛星通信サービスシステムの構築の計画を打ち出しています。また、2017年、国務院は、「国防科学技術工業の軍民融合の高度発展の推進に関する意見」において、国家衛星リモートセンシングデータ政策を打ち出して、軍民衛星資源と衛星データとの共有の促進を決定しました。さらに、2019年、国防科技工業局は、「商業搭載ロケットの規範的秩序ある発展の促進に関する通知」(以下、「国防科技工業局通知」として引用。)を公布し、宇宙ビジネス規範の秩序ある発展、及び、商業ロケット技術の革新の促進を表明しています。そして、2020年、国家発展改革委員会も、衛星インターネットを新しいインフラ建設の範囲に組み入れることを表明しました。それらの流れを踏まえて、2021年3月の第13期全国人民代表大会第4回会議が採択した「第14次5か年計画」においては、世界をカバーし、効率的に運行する通信、ナビゲーション、リモートセンシング宇宙インフラシステムを構築し、商業宇宙発射場を建設し、商業宇宙の発展をさらに加速させることが、計画項目の1つとされるに至っています。このように、中国において、宇宙ビジネスは飛躍的な発展を遂げるための態勢が整えられています。

 

3 民間宇宙ビジネスにける主な産業項目及び市場参入基準

商業宇宙の扉が開かれ、それに参入する主体が多元化された結果、国家政策の公布後、一部の新興民営宇宙企業が次々と設立され、すでに開始されている宇宙ビジネス市場における競争からは、その発展に有用な新しい発展理念と商業モデルが発案されています。しかし、中国の宇宙活動の管理の現状について言えば、行政政策により主導されている段階にあることは否めず、その国家レベルにおける法的整備は、以下に述べるように、国家全体の法治発展レベルには達していないようです。

(1)産業項目

現在、民間宇宙ビジネス市場の顧客の需要としては、主に、通信、ナビゲーション、リモートセンシングデータの3種類があります。これらのほか、将来、宇宙ステーションの商業補給需要も宇宙ビジネスの大きな市場源になると見られています。海外で人気のある宇宙旅行は、短期的展望において現実的ではありませんが、政策の如何に大きく依存しながらも、今後における需要が有望視されているところです。なお、資源採掘のための探査計画も一定の商業価値がありますが、これも、国家計画の如何に依存しており、また、技術の面においても、今しばらく時間が掛かるように見られます。

(2)民間企業による市場参入

中国におけるロケット技術・商品は、商用及び軍用の両側面を有しており、その開発が、むしろ、軍民融合政策の主導による結果であるため、現在、商業ロケットの研究・開発・生産への従事には、前記2019年の国防科技工業局通知に基づく許認可が必要とされています。中国には、米国のような専門的な宇宙法(Space Act)のような立法はありませんが、宇宙開発ないし宇宙ビジネスに関する政策性を有した相当数の諸規定があり、中国国内においても、請負業者は、国外における発射業務にかかわらず、省レベルの国防科技工業局を通じて発射許可を申請しなければなりません。そのほか、総請負業者は、プロジェクトの状況に応じて、関連材料についても、国家軍事委員会装備発展部へ報告して特別審査を受け、許可を取得しなければならず、特別審査を通過した後、発射空間物体の第三者責任保険及びその他の関連保険に加入することにより、漸く、発射場の作業段階に入る必要前提条件を満たすことができるようになります。

近年、中国は、宇宙産業発展の支持の一環として、衛星産業において、衛星製造や衛星打上げとともに、衛星ナビゲーション、衛星通信、衛星リモートセンシングを中心とする衛星の運用にも注力していますが、これについても、産業としての規範化が必要とされています。例えば、衛星通信については、その具体的な業務モデルと応用場面に従い、衛星運営者は相応の法律に基づく資格を取得し、法令を遵守しなければなりません。

(3)外資参入の場合

宇宙ビジネスへの外資参入と関連すると思われる規範として、以下のような幾つかの規定を挙げることができます。例えば、ロケット産業については、「外商投資2022年版市場参入ネガティブリスト」第3項目「製造業」第30号が、国防科技工業局などの許可を得ることなく、航空機、航空製品の製造・使用と民用宇宙発射に関する業務に従事することを禁止しています。それに対して、「2020年版外商投資奨励目録」第20項目「鉄道、船舶、航空宇宙及びその他の輸送設置製造業」第280号ないし第283号によると、航空エンジン及び部品、航空宇宙用新材料の開発及び生産、民間航空機搭載設備の設計及び製造、ロケットの地上試験設備及び環境試験設備などの産業は、外商投資が奨励される産業に属しており、民用衛星産業との関連において、衛星の研究・開発、製造、発射を一環とする外資の参入については、現行の法律上、明確な制限を設けている規定は見られません。むしろ、上記「2020年版外商投資奨励目録」第20項目「鉄道、船舶、航空宇宙及びその他の輸送設置製造業」第284号ないし第286号によると、民間用衛星の設計及び製造、部品製造、衛生関連製品の検査測定設備の製造において、外資誘致のため、外商投資産業を奨励する項目が設けられています。しかし、衛星運営の過程において、電気通信業務、無線周波数管理などの異なるレベルの監督管理に関しては、上記「外商投資2022年版市場参入ネガティブリスト」第3項目「製造業」第34号は、工業及び情報化部などの許可を得ることなく、電気通信、無線などの設備の生産、輸入、経営に従事してはならないと規定しています。衛星については、その研究開発、製造、打上げから運営までの各段階に厳格で煩雑な法令による規制が存在しており、とくに武器装備については、厳格な監督管理の下にあると考えられます。このように全体として見れば、衛星インターネット業界への外商投資の参入においては、きめ細かな対応が求められているように思われます。

 

4 おわりに

 諸国における宇宙ビジネスへの関心は、近時、急速に深まっており、中国がその例外でないことは、前記全人代第14次5か年計画からも推して知ることができます。そして、その法的規制のための立法の整備は、同計画期間が終了する2025年までには、相当に達成されることが予想されます。もとより、宇宙ビジネスにおいては、地球レベルにおける公海の利用などの場合と同様、各国の国内立法のみによる規律に馴染まない問題点が多いことは言うまでもありません。中国が国際協調の立場から、外商投資による宇宙ビジネスの参入をいかに巧みに采配するか、その手腕が期待されるところです。今後も、この分野における中央政府の施策のみならず、地方政府の関与にも注目して、引き続き、中国の宇宙ビジネスに関する情報を発信したいと思います。

 

 


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