Legal Note

リーガルノート

2022.12.06

2022-5-1 ブロックチェーンゲームと賭博罪

M&P Legal Note 2022 No.5-1

ブロックチェーンゲームと賭博罪

2022年12月8日
松田綜合法律事務所
Web3プラクティスチーム
弁護士 木舩 恵

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1 はじめに

ブロックチェーンの技術を用いたブロックチェーンゲーム(本稿ではブロックチェーンの技術が関わるゲームを総称して「ブロックチェーンゲーム」といいます。)のサービスが開始されている。ブロックチェーンゲームは、従来のゲームとは異なり、Play to Earnの要素が組み込まれており、従来のオンラインゲームに比して射幸性が高いともいえる。そのため、賭博罪(刑法第185条)との関係が問題となり、またゲーム内でNFTを利用し、暗号資産をもって課金するなど資金決済法、金融商品取引法、景品表示法など各法令との関係にも注意が必要である。

本稿では、日本法を前提に、ブロックチェーンゲームと賭博罪の関係について検討する。

2 ブロックチェーンゲームの概要

多くのブロックチェーンゲームがローンチされている。ブロックチェーンゲームは、ユーザーがゲームをすることによりゲーム内通貨を稼ぐことができる仕様となっているものが多い。そして、ゲーム内で稼いだゲーム内通貨については、別の暗号資産と交換できる仕組みになっている。ゲーム運営会社においては、ゲーム内通貨やアイテムを暗号資産により販売し収益を上げるだけでなく、ゲーム内で使用できるアイテム(いわゆる強アイテムなど)をNFT[1]として発行することにより収益を上げることもある。発行されたNFTについては、NFTのマーケットプレイスにより二次流通が可能であり、NFTの保有者においては転売益を獲得でき、加えてNFTを発行したゲーム運営会社においてはNFTの二次流通のロイヤリティを設定することにより、転売益の一部を獲得することもできる。

3 ブロックチェーンゲームと賭博罪の関係

ブロックチェーンゲームにおいてNFTを発行する際、賭博罪が問題となる場面としては、大きく以下の2つの類型が考えられる。

①NFTをランダム型販売する場合

②ゲーム内イベントの上位入賞者に対してNFT(限定アイテムやキャラクターなど)を賞品として交付する場合

賭博罪が成立するには、「賭博」すなわち、A「偶然の勝敗によって」[2]、財物・財産上の利益のB「得喪を争う」ことが必要となる。そのため、上記2類型でNFTを販売等する場合であっても、A、Bの要件をそれぞれ満たしていない限りは、賭博罪が成立することはない。ブロックチェーンゲームでは、とりわけ財物・財産上の利益のB「得喪を争う」との要件が問題になることから、以下この点について検討する。

① ランダム型販売によりNFTを発行する場合

ランダム型販売によりNFTを発行する場合には、以下の各類型によって、B「得喪を争う」の該当性が異なる。

(1) 通常販売されていないNFTがランダム型販売により出現する場合

通常販売されていないNFTがランダム型販売によってのみ出現する場合、そのNFT自体は、ゲーム運営会社によって価値の初期設定が行われていないことになる[3]。この場合、ランダム型販売により出現するNFTについては、そのランダム型販売に参加するために要した費用分の価値があるNFTが出現したに過ぎないとし、ゲーム運営会社とユーザー間に、B「得喪を争う」関係が生じていないと形式的に判断することも考えられる[4]

しかしながら、ゲーム運営会社においては、次の点に留意する必要がある。ブロックチェーンゲームにおいてNFT化されるアイテムやキャラクターについては、それぞれアイテムの効果や能力が異なる[5]ものであり、効果や能力が高いNFTほど価値が高くなることは必然といえる。そして、ブロックチェーンゲームでは、NFTのマーケットプレイスにおいて、発行されたNFTアイテムの二次流通が当然に想定されている。そのため、以下の点でゲーム運営会社とユーザー間に、B「得喪を争う」関係が生じていないか、検討を要する。

まず、ゲーム運営会社とは全く関係のないNFTのマーケットプレイスにおいて、NFTアイテムの二次流通が行われる場合、二次流通の価格はゲーム運営会社ではなくユーザーが設定することから、レアNFTに高い価値がついたとしても、それはゲーム運営会社が関係しない価格設定であるといえなくもない。

しかしながら、上述のように、ゲーム運営会社において発行されるNFTについてはその効果や能力に差異があり、効果や能力が高いNFTほど高い価値がつくことは当然であるといえ、また二次流通のマーケットプレイスにおけるNFTの販売価格についてもユーザーが設定するとはいえ、ゲーム運営会社が初めに設定した効果や能力が一つの指標[6]になることは否定できない。

そして、二次流通が活発になればなるほど、ゲーム運営会社においては、この能力・効果設定であれば、二次流通のマーケットプレイスにおいて、ユーザーがどの程度の価値を設定するかというノウハウが蓄積されることになる。この場合、ゲーム運営会社において、二次流通での価値を想定可能な状態でNFTを発行することになるため、明らかに価値が低くなることが想定されるNFTを発行した場合には、ゲーム運営会社とユーザー間においてB「得喪を争う」関係になっている可能性が生じる。

例えば、ゲーム運営会社において、攻撃力10のNFTアイテムであれば二次流通価格は0.1コイン、攻撃力100のNFTアイテムであれば二次流通価格は10コインとのノウハウがある場合、5コインでNFTアイテムのランダム販売[7]を行ったときには、ゲーム運営会社とユーザー間に、B「得喪を争う」関係が生じていないと言い切れるかが問題となる。

もっとも、ゲーム運営会社において、NFT発行時にNFTの二次流通の価値を正確に把握することは困難である。そのため、ゲーム運営会社において、ある程度合理的に価値予測を行ったうえでランダム型販売の仕様設計[8]ができているのであれば、B「得喪を争う」関係にあるとまで判断される可能性は低い。

したがって、賭博罪との関係においてゲーム運営会社は、NFTをランダム型で販売する場合には、ランダム型販売の参加費と発行されるNFTの二次流通時の価値を比較し合理的な仕様とし、実質的に無価値や価値が著しく低くなるようなNFTの発行は避けるなどの対応を行うべきである。

(2) 通常販売されているNFTがランダム型販売でも出現する場合

ゲーム運営会社がゲーム内で販売しているNFTがランダム型販売でも出現する場合、ゲーム運営会社において事前に出現するNFTの価値を設定し、把握していることになる。

この場合に、ゲーム運営会社とユーザー間に、B「得喪を争う」関係が生じないといえるためには、ランダム型販売において出現するNFTで一番価値の低いNFTの価値[9]がランダム型販売の参加費以上でなければならないと考えられる。

② ゲーム内イベントにおいて限定NFTを配布する場合

2つめとしては、ゲーム内イベントにおいて成績上位プレイヤーに対して限定のNFTを配布する場合である。ここでの問題はブロックチェーンゲームにかかわらず、賞金があるeスポーツの大会においても生じる問題である。eスポーツの大会が開催されたとき、上位プレイヤーには賞金が与えられることが多々ある。賞金については、景品表示法上は報酬であると考えられているものの、大会の参加者から参加料を取得し、その集まった参加料を賞金として上位プレイヤーに支払った場合には、A「偶然の勝敗によって」財物・財産上の利益のB「得喪を争う」関係が認められることになるため、参加者においては賭博罪、大会の運営者においては賭博場開張等図利罪(刑法第186条2項)に該当する可能性が高くなる。

ブロックチェーンゲームは基本プレイは無料とされているものが多いが、他方でブロックチェーンゲーム内のイベントには参加料が生じるものがある。参加料自体はゲーム内通貨や暗号資産をもって支払われるものが多いが、暗号資産に財産的価値が認められることは当然のこと、ブロックチェーンゲーム内の通貨についても暗号資産との交換が可能となっているなど財産的価値が認められる可能性がある。そして、イベントにおいてゲームをプレイすることにより、上位プレイヤーには希少かつ価値のあるNFTが賞品として交付される場合には、A「偶然の勝敗によって」財物・財産上の利益のB「得喪を争う」関係性が認められるとも考えられる。しかしながら、eスポーツの賞金の場合と異なり、賞品としてNFTを交付する場合には、イベントの参加費が賞品のNFTになっているわけではないため、イベントに参加するため参加費を支払う行為と賞品としてNFTを交付する行為が社会通念上別個の行為であるといえ、B「得喪を争う」関係が否定され、賭博罪の成立が否定される可能性が高いといえる。

以上のとおり、ブロックチェーンゲーム内イベントにおいても賭博罪の成立を否定するためには、イベントの参加費と賞品としてのNFTの交付が社会通念上、別個の行為、すなわちB「得喪を争う」関係が否定できることが重要である。

4 まとめ

上述の2つの類型においてはいずれも賭博罪に該当してしまう可能性があるが、他方でそのブロックチェーンゲームの仕様次第では賭博罪の成立を否定することも十分に可能である。

賭博罪自体、ブロックチェーンゲームを想定して制定されたものではなく、現時点で賭博罪に該当するとして検挙された事例もない。既に国内でも利用できるブロックチェーンゲームではNFTなどの賞金を交付するゲーム内イベントにおいてイベント参加料を徴収している事例もある。

このような事例の全てが賭博罪に該当し、賭博罪として検挙されるわけではない。

ブロックチェーンゲームの運営会社においては、オンラインゲームにおける賭博罪の議論や各団体等の声明なども踏まえ、賭博罪の成立が否定されるブロックチェーンゲームの仕様を設計することが求められる。

 

<注釈>

[1] Non-Fungible Tokenの略称であり、ブロックチェーン技術を用いて発行される非代替性トークン

[2] ブロックチェーンゲームにかかわらず、ランダム型販売やゲーム内イベントの上位入賞者にアイテムを配布する場合には、勝敗に左右されることが前提となることからA「偶然の勝敗」の要件については原則該当するものと考えられる。

[3] 少なくともゲーム運営会社は当該NFTの価値を公に公表・設定していないことになる。

[4] 例えば、ランダム型販売によって、レアNFTとノーマルNFTがそれぞれ出現する場合であっても、ランダム型販売の参加費(有料ガチャ、パッケージ販売などの費用)が1コインと定められていたら、レアNFTであれ、ノーマルNFTであれ、ゲーム運営会社が設定した価値は、どちらも1コインと考える見解もある。

[5] NFTアイテムの効果や能力などの設定は、ゲーム運営会社においてランダム型販売の実行前に行われる。また、ブロックチェーンゲームについては、強アイテムを入手すればするほど、ゲーム内通貨を稼ぎやすくなる仕様になっていることから、NFTアイテムの効果や能力に差異がなければ、ランダム型販売を行う意味がないともいえる。

[6] 当然ではあるが、NFTの絵柄など効果や能力とは異なる要素によってもそのNFTの価値は左右されることになる。また、ゲームの人気によっても価値は変動することも考えらえる。

[7] 攻撃力10と100のNFTアイテムいずれかが出現するランダム販売

[8] ランダム型販売の参加費も考慮し、実質無価値又は著しく低価と評価できるようなNFTが発行されていないことなどが求められる。

[9] ゲーム運営会社においてゲーム内で販売されている価値をいい、二次流通のマーケットプレイスでの価値ではない。

 

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