Legal Note

リーガルノート

2022.10.19

2022-4-1 閉じ込め・置き去り事故の原因と法的責任

M&P Legal Note 2022 No.4-1

閉じ込め・置き去り事故の原因と法的責任

2022年10月20日
松田綜合法律事務所
パートナー弁護士/名古屋大学未来社会創造機構客員准教授
岩月泰頼

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1 再発する送迎用バスの閉じ込め事故

2022年9月5日、静岡県内の認定こども園の送迎用バスに3歳女児が閉じ込められ熱射病で死亡するという痛ましい事故が起きました。しかし、このような死亡事故は、保育所、幼稚園において、過去、何度も発生しています。

リーディングケースは、2007年7月に北九州市内の保育園で発生した、園外保育の送迎用自動車に2歳男児を閉じ込めて熱射病で死亡させた事件です。これについては、関係者の刑事責任と民事責任の両方が問われています。

さらに、2021年7月にも、福岡県内の保育園での送迎用バスに5歳男児を閉じ込めて熱射病で死亡させる事件が起きており、警察の捜査により関係者4名が書類送検され、今年4月に園長と保育担当者が業務上過失致死罪で起訴されました(11月8日判決)。

 

2 「閉じ込め事故」の背景・原因と「置き去り事故」

これら閉じ込め事故の原因としては、当然、降車時の点呼漏れを指摘できますが、降車後でもすぐに気付けば死亡事故には至りません。いずれの事件も4~9時間という長時間、施設内で園児がいなくなったことに気付かない状態が継続しています。つまり、この種の事故の根本的な原因は、送迎用バスの降車時の点呼漏れに留まらず、園児を預かっているすべての時間帯でのずさんな点呼の在り方や園児を預かる施設としての点呼に対する意識の希薄さを指摘でき、これは保育所・幼稚園等における重要な問題が内在していると考えています。(なお、ずさんな点呼と記載しましたが、ここでの適切な点呼とは、80~95%の確実性を持った点呼ではなく、すべての点呼において100%の確実性を担保することを指します。)

このような背景・原因は、送迎用バスの置き去り事故を引き起こすだけでなく、特に園外保育などにおいて点呼漏れによる「置き去り事故」を誘発します。閉じ込め事故も置き去り事故も、その根本原因は、送迎用バスの降車時に留まらない「日常的な点呼に対する意識の甘さ」であり、そのような状態を改善できなかった施設長や法人代表の管理監督責任が問われる部分でもあります。

 

3 頻発する置き去り事故

たとえば、2022年2月13日の朝日新聞の報道によれば、2017年から2020年までの4年間、東京都内では94件の置き去り事故が報告されています。しかし現状、置き去り事故の報告義務はないことから、報告されていない置き去り事故が多数存在していることは想像に難くありません。かく言う筆者も、検事として北九州市内の上記閉じ込め事故の捜査をしていた当時、都内に帰省中、1歳半の息子を預かり保育に預けたところ、公道に面する公園で置き去りにされ、警察に保護された経験があります。このとき、全国の各所で(大事には至っていないものの)置き去り事故が頻発しているのではないかとの強い危機感を抱きました。

 

4 閉じ込め事故の法的責任

北九州市内の上記閉じ込め事故の場合、刑事事件では、保育関係者2名に対し、業務上過失致傷罪により、禁錮1年及び執行猶予3年の刑事罰が科されました。また、民事事件では、関与した保育担当者らに対し降車させる義務違反又は帰園後の所在確認義務違反を、代表取締役に対し安全管理対策義務違反を認定し、同人ら及び会社に対しての損害賠償請求が認められています。

このような閉じ込め事故では、刑事事件においても、民事事件においても、自動車の降車時に点呼ミスをした担当者のみを対象とすることはなく、降車後の点呼担当者や上位者である管理監督者も含めて責任対象として検討することになる点に特徴があります。

 

5 まとめ

現在、政府では、「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部におけるバス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する関係府省会議」を開き、本年10月内を目途に、「こどものバス送迎・安全徹底プラン」及び「こどものバス送迎・安全徹底マニュアル」の作成を急ピッチで行っています。

しかし、これまで述べてきたとおり、今回の事故の根本的な問題は、送迎用バス特有のものではありません。今回の政府の取組があくまで送迎用バスのマニュアル策定に留まるのであれば、近い将来、園外保育等の「置き去り事故」により深刻な被害が出ることが危惧されます。

 

弊所では、今回の事故を機に、以下の緊急セミナーを実施することにいたしました。今回、ニュースレターでご紹介した内容をより分析的に解説し、安全対策の在り方や事故が起きた場合の危機対応の在り方について解説いたします。

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◆日 時:11月7日(月)13:30~15:30

◆講 師: 松田綜合法律事務所 パートナー弁護士・元検事 岩月泰頼

      松田綜合法律事務所 弁護士 田中裕可

セミナー詳細・お申し込みはこちら:https://jmatsuda-law.com/nursery-school-seminar/

 

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