Legal Note

リーガルノート

2021.08.24

2021-9-3 中国の「反外国制裁法」について

M&P Legal Note 2021 No.9-3

中国の「反外国制裁法」について

2021年8月25日
松田綜合法律事務所
中国弁護士 徐 瑞静

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1 はじめに

第13期全国人民代表大会常務委員会第29回会議は、2021年6月10日、「中華人民共和国反外国制裁法」(以下「本法」という。)を可決し、即日施行されました。同法の制定の趣旨について、政府当局の責任者によれば、近年、一部の欧米諸国が、新疆ウイグル、チベット、香港、台湾、新型コロナウイルスなどを巡り、中国の関連国家機関、組織及び国家従業員に対して「制裁」を実施しているため、中国としても、国家の主権、尊厳及び重要な利益を守るため、外国からの「制裁」に対する報復措置を定めなければならず、「本法」は正当な自衛的性質を有する法律であると説明されています。中国外交部の報道官は、7月23日、本法に基づき、米トランプ前政権の商務長官を含む個人7人及び組織への制裁を決定したと発表し、今回の報復措置が、米国が7月16日に発表した「米国企業に対する香港での事業展開リスクの警告」の公布、及び、中国政府の香港出先機関幹部ら7人の資産凍結等の制裁に対し、報復措置を講じたものであると表明しています。

従前、中国における報復措置は行政手段によって行われ、また、商務部により、「信頼できないエンティティリスト規定」(2020年9月)や「外国の法律及び措置による不当な域外適用の阻止弁法」(2021年1月)が公布、施行されましたが、これらの規定は、行政規定に属し、民事裁判における適用の場合には、おのずから一定の制限を受けるものと考えられます。本法はこれまでの不備を補うものであり、それにより、必要な報復措置を講ずることができます(13条)。以下において、本法の主な内容について解説します。

2 本法の概容

(1)報復措置の適用状況

まず、本法は、報復措置を講ずることができる状況について、二つの場合を規定しています。一つは、差別的制限措置に対するものです。これは、外国国家が国際法及び国際関係の基本準則に違反し、上述のような一定の地区との関りにおいて、中国の内政に干渉する場合(3条)であり、もう一つは、外国の国家、組織若しくは個人による行為が、中国の主権、安全、利益発展に危害を及ぼすため、それに対する必要な報復措置を講じる必要がある場合(15条)です。

(2)報復措置の適用対象

本法の適用対象は広範にわたっています。国務院の関連部門は、本法3条に規定した差別的規定の制定や措置、決定、実施に直接的若しくは間接的に関与した国内外の個人、組織を報復リストに加えることを決定することができます(4条)。その他、報復リストに入れられた個人の配偶者及び直系親族、組織の高級管理職若しくは実質支配者、個人が高級管理職に就いている組織、個人と組織が実質的に支配若しくは設立や運営に関与している組織に対しても、報復措置を講じることができます(5条)。

(3)報復措置の決定機関及びメカニズムの設立

上記のとおり、報復リストの対象を決定するのは、国務院の関連部門ですが、当該関連部門は明確にされていません。本法においては、報復リスト及び報復措置の確定、一時停止、変更もしくは取消しは、外交部または国務院のその他の関連部門が命令を出して公布することが規定されています(9条)。国が確立した報復メカニズムのもとに、国務院の関連部門が連携し、情報共有を強化した上で、各自の職責及び分業に基づいて報復措置を確定し、実施します(10条)。従って、報復リストの作成及び報復措置を決定する国務院の関連部門は、一つの部門に止まらず、また、商務部、外交部、さらに、その他の部門にも及ぶ余地があります。

(4)報復措置の内容

具体的な報復措置としては、国務院の関連部門の職責と職務分業により、①査証の不発行、入国禁止、査証の取消し、若しくは国外追放、②中国国内に所在する動産、不動産及びその他各種の財産の差押え、押収、凍結、③中国国内の組織、個人との関連取引、提携等の活動の禁止若しくは制限、④その他の必要な措置があり、それらの中の一つまたは複数の措置が執られます(6条)。

(5)報復措置決定の性質

国務院の関連部門による報復リスト及び報復措置に関する決定は、最終決定であるとされています(7条)。従って、報復リストや報復措置をめぐり、人民法院へ行政訴訟を提起することはできません。但し、制裁措置を講じる根拠となっている実際の状況に変化が生じた場合には、国務院の関連部門は、関連する報復措置を一時停止、変更または取り消すことができます(8条)。

(6)関連組織及び個人の義務及び法的効力

中国国内の組織及び個人の義務として、第一に、それら組織及び個人は、国務院の関連部門が講じた報復措置を実行しなければなりません。それに違反した場合には、国務院の関連部門は、当該組織及び個人が関連活動に従事することを制限または禁止します(11条)。第二に、いかなる組織及び個人も、外国国家が中国の公民及び組織に対して講じた差別的な制限措置を実行、協力してはなりません。それに違反して、中国の公民及び組織の合法的権益を侵害した場合には、中国の公民及び組織は、人民法院に訴訟を提起し、侵害停止、損害賠償を要求することができます(12条)。そして、第三に、中国国内の組織及び個人が報復措置を実施しない場合には、法により法律責任を追及されることになります(14条)。

3 おわりに

国家が掲げた国策の推進のため、国家の行政機関が一定の権限を付与され、また、義務を課されることは、国家の存立のメカニズムにおいて当然のことであると言わねばなりません。今般、国務院の関連部門がその主要な役目を担っていると言うことができます。しかし、本法の場合、実際的な報復措置の実施の義務は広範囲な組織及び個人にまで及んでおり、しかも、その義務に違反した場合には責任を追及されることになることから、本法の実効性は相当に担保されていると言うことができます。このような挙国一致とも見られる政策の徹底した実現を目する本法の制定において、中国の強い国家意思が働いていることが看取されます。今後、報復措置の適用の対象とされる外国の組織や個人、そして、その関係者にとって、本法が非常な脅威となることは明らかですが、それとともに、報復措置の実施を義務付けられる中国国内の組織及び個人にとっても、相当に難渋な試練を課されていると考えられます。本法の施行によってもたらされる社会的効果の特徴として看過できない点は、まさに、そこにあるように思われます。

 

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