Legal Note

リーガルノート

2021.08.24

2021-9-2 食品事業者の法務(5) ~食品リコール情報の報告制度~

M&P Legal Note 2021 No.9-2

食品事業者の法務(5) ~食品リコール情報の報告制度~

2021年8月25日
松田綜合法律事務所
弁護士 加藤 拓

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第1 はじめに

これまで、一部の地方公共団体において条例等に基づき食品の自主回収(リコール)情報(以下「食品リコール情報」)の届出をさせていたのを除いては、食品リコール情報を行政機関に届け出る仕組みはありませんでしたが、平成30年に食品衛生法及び食品表示法の改正(以下「本改正」)が行われたことにより、食品リコール情報の報告制度が創設されました。

本改正の効果として、消費者に対して食品リコール情報を一元的かつ速やかに提供することにより、対象食品の喫食を防止し、健康危害を未然に防ぐことが可能になることや、行政機関によるデータ分析・改善指導を通じ、食品衛生法や食品表示法違反の防止を図ることができることが期待されています。

本稿では、食品リコール情報の報告制度について概観します。

第2 改正食品衛生法の食品リコール情報の報告制度について

1 改正法の内容と制度の概要

食品衛生法第58条【新設】

1 営業者が、次の各号のいずれかに該当する場合であって、その採取し、製造し、輸入し、加工し、若しくは販売した食品若しくは添加物又はその製造し、輸入し、若しくは販売した器具若しくは容器包装を回収するとき(次条第1項又は第2項の規定による命令を受けて回収するとき、及び食品衛生上の危害が発生するおそれがない場合として厚生労働省令・内閣府令で定めるときを除く。)は、厚生労働省令・内閣府令で定めるところにより、遅滞なく、回収に着手した旨及び回収の状況を都道府県知事に届け出なければならない。

一 第6条、第10条から第12条まで、第13条第2項若しくは第3項、第16条、第18条第2項若しくは第3項又は第20条の規定に違反し、又は違反するおそれがある場合

二 第9条第1項又は第17条第1項の規定による禁止に違反し、又は違反するおそれがある場合

2 都道府県知事は、前項の規定による届出があつたときは、厚生労働省令・内閣府令で定めるところにより、当該届出に係る事項を厚生労働大臣又は内閣総理大臣に報告しなければならない。

新設された食品衛生法58条により、食品衛生法に違反する、又は違反するおそれのある食品の自主回収を行う場合、すなわち、人の健康を害する可能性のある食品の次週回収を行う場合には、行政機関への届出が義務付けられることになりました。食品衛生法に違反する、又は違反するおそれのある場合の具体例としては、以下のようなものが挙げられています[1]

  • 腸管出血性大腸菌に汚染された生食用野菜、ナチュラルチーズなど加熱せずに喫食する食品
  • シール不良等により、腐敗、変敗した食品
  • 硬質異物(ガラス片、プラスチック等)が混入した食品
  • 一般細菌数や大腸菌群などの成分規格不適合の食品
  • 添加物の使用基準に違反した食品

2 報告内容

営業者は、食品等の回収について同条第1項の規定による届出をしようとするときは、回収に着手した後、遅滞なく、次に掲げる事項を都道府県知事に届け出る必要があります(食品衛生法第五十八条第一項に規定する食品衛生上の危害が発生するおそれがない場合等を定める命令(令和元年内閣府令・厚生労働省令第11号。以下「共同命令」)第2条関係)。届け出された情報は公表されることになっています。

(1) 営業者の氏名及び住所(法人にあっては、その名称及び主たる事務所の所在地)

(2) 営業者が回収の事務を他の者に指示し、又は委託した場合には当該者の氏名及び住所(法人にあっては、その名称及び主たる事務所の所在地)

(3) 当該食品等の商品名及び一般的な名称、当該食品等に関する表示の内容その他の当該食品等を特定するために必要な事項

(4) 当該食品等が法第58条第1項各号のいずれかに該当すると判断した理由

(5) 当該食品等の回収に着手した時点において判明している販売先、販売先ごとの販売日及び販売数量

(6) 当該食品等の回収に着手した年月日

(7) 当該食品等の回収の方法

(8) 当該食品等が飲食の用に供されたことに起因する食品衛生上の危害の発生の有無

3 報告が不要な場合

食品衛生法58条1項本文括弧書は、同法59条に基づく命令を受けて回収をするとき、及び食品衛生上の危害が発生するおそれがない場合として厚生労働省令・内閣府令で定めるときにリコールを行う場合を同項の適用対象から除外していますので、これらに当たるような場合には報告をする必要がありません。食品衛生法第58条第1項に規定する食品衛生上の危害が発生するおそれがない場合として厚生労働省令・内閣府令で定めるときとは、次のいずれかに該当する場合であるとされています(共同命令第1条)。

(1) 当該食品等が不特定かつ多数の者に対して販売されたものでなく、容易に回収できることが明らかな場合(共同命令第1条第1号関係)

(2) 当該食品等を消費者が飲食の用に供しないことが明らかな場合(共同命令第1条第2号関係)

 

(1)の具体例として、以下のようなものが挙げられています[2]

(ⅰ) 地域の催事で販売された焼きそばについて、催事場内での告知等で容易に回収が可能な場合

(ⅱ) 部外者が利用しない企業内の売店で販売された弁当であって、館内放送等で容易に回収が可能な場合

(ⅲ) 通信販売により会員のみに限定販売されている食品であって、顧客に対して個別に連絡することで容易に回収が可能な場合

 

また、(2)の具体例として、以下のようなものが挙げられています[3]

(ⅰ) 食品等が営業者間の取引にとどまっており、卸売業者の倉庫に保管されている場合

(ⅱ) 食品等が消費期限又は賞味期限を超過している場合

4 違反者への罰則

食品表示法第第58条第1項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした場合には、50万円以下の罰金に処されることがあります(法85条3号)。

第3 改正食品表示法の食品リコール情報の報告制度について

1 改正法の内容と制度の概要

食品表示法第10条の2(食品の回収の届出等)【新設】

1 食品関連事業者等は、第6条第8項の内閣府令で定める事項について食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売をした場合において、当該食品を回収するとき(同項の規定による命令を受けて回収するとき、及び消費者の生命又は身体に対する危害が発生するおそれがない場合として内閣府令で定めるときを除く。)は、内閣府令で定めるところにより、遅滞なく、回収に着手した旨及び回収の状況を内閣総理大臣に届け出なければならない。

2 内閣総理大臣は、前項の規定による届出があったときは、その旨を公表しなければならない。

新設された食品表示法10条の2により、食品関連事業者等が食品の安全性に関する食品表示基準に従った表示がされていない食品の自主回収を行う場合、行政機関への届出が義務付けられることになりました。届出の対象は、法8条6項府令第1条に規定された事項について、食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売をした場合において、自ら当該食品を回収した場合とされており、具体例としては以下のようなものが挙げられています[4]

  • 小麦粉を使用しているにもかかわらず、小麦のアレルゲン表示が欠落した食品
  • 消費期限について、本来表示すべき期限より長い期限を表示した食品
  • 保存温度について、本来表示する温度よりも高い温度を表示した食品
  • アスパルテームを使用しているにもかかわらず、「L-フェニルアラニン化合物を含む旨」の表示が欠落した食品

2 報告内容

食品関連事業者等は、食品の自主回収に着手した後、遅滞なく、以下に掲げる事項を食品関連事業者等の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事に届け出る必要があります(食品表示法第六条第八項に規定するアレルゲン、消費期限、食品を安全に摂取するために加熱を要するかどうかの別その他の食品を摂取する際の安全性に重要な影響を及ぼす事項等を定める内閣府令(以下「法6条8項府令」)第5条第1項)。届出が行われたことは公表されることになっています(法10条の2第2項)。

(1)食品関連事業者等の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)

(2)食品関連事業者等が回収の事務を他の者に指示し、又は委託した場合には当該者の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)

(3)当該食品の商品名及び名称、当該食品に関する表示の内容その他の当該食品を特定するために必要な事項

(4)当該食品が法第 10 条の2第1項に該当すると判断した理由

(5)当該食品の回収に着手した時点において判明している販売先、販売先ごとの販売日及び販売数量

(6)当該食品の回収に着手した年月日

(7)当該食品の回収の方法

(8)当該食品が摂取されたことに起因する消費者の生命又は身体に対する危害の発生の有無

3 報告が不要な場合

食品の自主回収を行う場合であっても、法6条8項の規定による命令を受けて回収する場合や、法6条8項府令第4条で規定する「食品の販売の相手方(消費者を含む。)が特定されている場合であって、当該食品の販売をした食品関連事業者等が当該販売の相手方に直ちに連絡することにより、当該食品が摂取されていないこと及び摂取されるおそれがないことが確認されたとき」に該当する場合には、届出をする必要はありません(第 10 条の2第1項)。後者の具体的な事案としては以下のようなものが想定されています[5]

 

(1)地域の食品製造事業者が、同一地区の個人経営の小売店に消費期限を付していない食品を販売したが、当該製造事業者から当該小売店に連絡を行い、当該小売店が消費者への販売前に販売を取りやめた場合であって、かつ、当該小売店の職員の摂取についても想定されないとき。

(2)地域の個人経営の小売店が連絡先を知っている消費者に消費期限を付していない食品を販売したが、直ちに当該消費者に連絡し、当該消費者が当該食品を返品するなどして摂取が想定されないとき。

また、以下のような、そもそも法6条8項府令で定める事項に係る違反に該当しない場合にも届出をする必要はありません[6]

(1)生食用と表示する予定であった魚介類等の食品に加熱加工用と表示 した場合

(2)保存温度を本来表示する温度よりも低く表示した場合

(3)期限表示を本来表示する期限よりも短く表示した場合

(4)その他食品表示基準第9条、第14条、第17条、第23条、第28条、第31条、第36条又は第39条の規定に抵触する可能性はあるものの、法6条8項府令で定める事項の違反とはならない場合

4 違反者への罰則

食品表示法第10条の2第1項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした場合には、50万円以下の罰金に処されることがあります(法21条3号)。また、法人を同じ法定刑で処罰できる両罰規定も規定されています(法第22条3号)。

第4 経過措置

本改正は、2021(令和3)年6月1日以降に着手される食品の自主回収に適用されるため、施行日前に既に着手している食品の自主回収は、届出義務の対象ではありません。

もっとも、営業者に対して電子申請システム等を利用した情報提供を促し、消費者に対して安全情報として提供することが推奨されており、消費者庁は、各都道府県の知事に対し、施工日前から自主回収を行っている食品関連事業者についても、電子申請システム等を通じた情報提供を促し、消費者へ安全情報が提供されるよう努めることを求めていますので、施行日以前に着手している自主回収につき事業者自ら届出を申し出ることは可能です。

 

[1] 東京都福祉保健局 食品衛生の窓 「食品等のリコール情報届出制度」
<https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kaisei/recall.html>

[2] 消費者庁次長・厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 「食品衛生法第五十八条第一項に規定する食品衛生上の危害が発生するおそれがない場合等を定める命令の制定について」(令和元年12月27日付け消表対第1201号、生食発1227第1号)
<https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000582013.pdf>

[3] 消費者庁次長・厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官・前掲注ii

[4] 東京都福祉保健局 食品衛生の窓・前掲注i

[5] 消費者庁次長 「食品表示法第10条の2第1項の規定に基づく食品の自主回収の届出について」(令和3年2月26日付け消食表第80号)

[6] 消費者庁次長・前掲注v

 

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