M&P Legal Note 2021 No.7-1
営農型太陽光発電に取り組む際の法的留意点①
(農地法等許認可に関する法的留意点)
2021年6月25日
松田綜合法律事務所
弁護士 菅原清暁
*本ニュースレターは2021年5月末日現在の情報に基づいております。
1.はじめに
2021年6月2日付ニュースレターでも触れたとおり、「営農型太陽光発電」という新たな農業・発電のスタイルに注目が集まっており実際にも、営農型太陽光発電の取組面積・設備設置のための農転用許可の件数は大幅に増加しています。[1]他方で、営農型太陽光発電導入に伴う留意点を理解しないまま導入が進められトラブルが発生してしまうケースや、不適切な業者による違反転用により市町村が苦慮するなど関連する問題も発生しているようです。
このため、営農型太陽光発電に取り組むにあたって、法的留意点を十分理解したうえで、適切に導入が進められることが期待されます。
農業法務とエネルギー法務が絡み合う領域であるため、留意点は多岐にわたりますが、(1)農地法等許認可に関する問題、(2)営農に関する問題、(3)電力関係に関する問題等が挙げられます。そこで、本ニュースレターでは(1)農地法等許認可に関する問題について、次回のニュースレターでは(2)営農や(3)電力関係に関する問題について、主要なポイントをご説明します。
2.農地法の観点からの法的留意点
(1)農地法上の転用許可
ア 転用許可の必要性
営農型太陽光発電がなされるのは農地上の空間ですが、農地制度に関する農地法においては、周辺農地の営農条件への支障を防止するなど、優良農地を確保することを目的として、農地を農地以外に転用したり、農地転用のために権利移転・設定をしたりすることを許可制としています。この「農地転用」は、農地に再生エネルギー設備等を設置するなど農地以外の用途に利用することをいい、一時的な利用の場合であっても農地転用に該当すると解されています。
この点につき、営農型太陽光発電は、農地の上部空間を利用するにとどまり営農を継続するものではあるものの、農地に支柱を立てて太陽光発電設備等を設置するということで、下部の農地における営農の適切な確保が必要なことから、平成30年5月15日30農振第78号「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」は原則として[2]農地の一時転用許可の対象として整理しています。また、これに基づき、以下のとおり一時転用許可の手続・要件・効果も規定されています。
イ 一時転用許可の手続
営農型発電設備を設置する目的で支柱部分について一時転用許可を申請する場合には、次に掲げる書類を農地転用許可申請書に添付して行う必要があります。[3]
(ア)営農型発電設備の設計図
(イ)下部の農地における営農計画書
(ウ)営農型発電設備の設置による下部の農地における営農への影響の見込み及びその根拠となる次に掲げるいずれかの書類
a 下部の農地で栽培する農作物の収穫量及び品質に関するデータ(例えば、試験研究機関による調査結果等)
b 必要な知見を有する者(例えば、普及指導員、試験研究機関、設備の製造業者等)の意見書
c 先行して営農型太陽光発電の設置に取り組んでいる者の事例
(エ)営農型発電設備を設置する者と下部の農地において営農する者が異なる場合には、支柱を含む営農型発電設備の撤去について、設置者が費用を負担することを基本として、当該費用の負担について合意されていることを証する書面
ウ 一時転用許可の要件
営農型太陽光発電は、営農が適切に継続されることを前提に、農地上部空間での発電事業を認めるものであり、この前提が崩れ、営農の継続が果たされなくなってしまう場合にまで許可を認めては、農地法の目的である優良農地の確保が困難になってしまいます。
そこで、営農型太陽光発電の場合の一時転用許可においては、通常の農地の転用許可の定めによるほか、以下の要件を満たす必要があるとされています。
(ア)申請に係る転用期間が所定の期間内であり、下部の農地における営農の適切な継続を前提として営農型発電設備の支柱を立てるものであること。
(イ)簡易な構造で容易に撤去できる支柱として、申請に係る面積が必要最小限で適正と認められること。
(ウ)下部の農地における営農の適切な継続(次に掲げる場合のいずれにも該当しないことをいう。)が確実と認められること。
a 営農が行われない場合
b 下部の農地における単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減少する場合(荒廃農地を再生利用する場合を除く。)
c 下部の農地の全部又は一部が農地法第32条第1項各号に定める遊休農地に該当する場合(荒廃農地を再生利用する場合に限る。)
d 下部の農地において生産された農作物の品質に著しい劣化が生じていると認められる場合
(エ)パネルの角度、間隔等からみて農作物の生育に適した日照量を保つための設計となっており、支柱の高さ、間隔等からみて農作業に必要な農業機械等を効率的に利用して営農するための空間が確保されていると認められること。
なお、支柱の高さについては、当該農地の良好な営農条件が維持されるよう、農作物の栽培において、効率的な農業機械等の利用が可能な高さ(農業機械による作業を必要としない場合であっても、農業者が立って農作業を行うことができる高さ(最低地上高おおむね2メートル以上))を確保していると認められること。
ただし、農地に垂直に太陽光発電設備等を設置するものなど、当該設備等の構造上、支柱の高さが下部の農地の営農条件に影響しないことが明らかであり、当該設備等の設置間隔、規模及び立地条件等からみて、当該農地の良好な営農条件が維持される場合には、支柱の高さが最低地上高おおむね2メートルに達しなくても差し支えないこと。
(オ)位置等からみて、営農型発電設備の周辺の農地の効率的な利用、農業用用排水施設の機能等に支障を及ぼすおそれがないと認められること。
特に農用地区域内農地においては、農業振興地域整備計画の達成に支障を及ぼすおそれがないよう、以下の事項に留意すること。
a 農用地区域内における農用地の集団化、農作業の効率化その他土地の農業上の効率的かつ総合的な利用に支障を及ぼすおそれがないこと。
b 農業振興地域整備計画に位置付けられた土地改良事業等の施行や農業経営の規模の拡大等の施策の妨げとならないこと。
(カ)支柱を含め営農型発電設備を撤去するのに必要な資力及び信用があると認められること。
(キ)事業計画において、発電設備を電気事業者の電力系統に連系することとされている場合には、電気事業者と転用事業者が連系に係る契約を締結する見込みがあること。
(ク)当該申請に係る事業者が農地法第51条の規定による原状回復等の措置を現に命じられていないこと。
エ 一時転用許可の条件
営農型太陽光発電につき一時転用許可を得られた場合、農業経営者は、当該農地において営農型太陽光発電事業を実施することが可能になります。
ただし、許可要件にもなっている適切な営農が継続されていることを前提とているため、これが果たされない場合に許可を取り消すことができるよう、一時転用許可には以下の条件が付されることとされています。
(ア)下部の農地における営農の適切な継続が確保され、支柱がこれを前提として設置される当該設備を支えるためのものとして利用されること。
(イ)下部の農地において生産された農作物に係る状況を、毎年報告すること。また、報告内容について、必要な知見を有する者の確認を受けること。
(ウ)下部の農地において営農の適切な継続が確保されなくなった場合又は確保されないと見込まれる場合には、適切な日照量の確保等のために必要な改善措置を迅速に講ずること。
(エ)下部の農地において営農の適切な継続が確保されなくなった場合若しくは確保されないと見込まれる場合、営農型発電設備を改築する場合又は営農型発電設備による発電事業を廃止する場合には、遅滞なく、報告すること
(オ)下部の農地における営農が行われない場合又は営農型発電設備による発電事業が廃止される場合には、支柱を含む当該設備を速やかに撤去し、農地として利用することができる状態に回復すること。
中でも、営農の適切な継続の要件があることにより、営農を実施しなかった場合や、反収が2割以上減少したような場合には、改善命令・許可取消等(農地法第51条)により営農型太陽光発電の実施が困難になる可能性もあります。
これにつき、改善命令・許可取消等の判断に当たって農業者個人の事情を必ずしも勘案することとはされていないため、例えば、農業経営者・農作業者の健康上の問題等で自らによる営農ができなかったことにより反収が大幅に減少したとしても、一時転用許可の取消がされてしまい、営農型太陽光発電ができないおそれもあります。
こういった事態に備え、農業経営者としては、自らの営農ができなくなったときに備えた対応(農業法人化による従業員の拡充・第三者からの人員補助体制の確立等)を採っておくことが重要です。
オ 一時転用許可の期間
営農型太陽光発電の一時転用許可については、許可要件となっている適切な営農の継続が果たされているかを定期的に確認するため、一時転用許可の期間が以下のとおり制限されています。
(ア)認定農業者・認定新規就農者等の担い手が実施する場合や、荒廃農地、第2種又は第3種農地を再生利用する場合:10年以内
(イ)その他の場合:3年以内
ただし、転用期間における営農状況を勘案し、適切な営農の継続に問題がなければ再許可を受けることも可能とされています。
カ その他留意点
農地に関する法律の中には、農業振興地域に必要な施策を計画的に推進し、農業の発展・国土資源の合理的な利用に寄与することを目的とした、「農業振興地域の整備に関する法律」(農振法)というものがあります。
この法律では、農業の振興のために指針や方針、計画が作成されることとされており、これに基づき特定の地域が農用地等として利用すべき土地区域(農用地区域)として定められた場合、同区域において開発行為(宅地の造成、土石の採取その他の土地の形質の変更又は建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築)をするには許可が必要とされています。(15条の2第1項柱書)
しかし、農地法に基づく許可がある場合、農振法に基づく許可は不要とされている(15条の2第1項第3号)ため、営農型太陽光発電につき農地の一時転用許可を取得していたときに農振法に基づく許可を別途取得する必要はありません。
(2)建築基準法に基づく規制
建築基準法においては、建築の最低基準を定めて国民の生命・身体・財産の保護を図り公共の福祉の増進に資することを目的として、建築物の建築にあたって様々な基準を定めて適正な建築物の建築を図っているほか、建築に当たって許認可を必要としている場合もあるなどの規制があります。
このうち、「建築物」とは「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。」と定められており(第2条第1号)、営農型太陽光発電設備がこれに該当するかは一義的に明らかではありません。
この点に関し、国土交通省の通達である国住指第3762号「農地に支柱を立てて設置する太陽光発電設備の建築基準法上の取扱いについて(技術的助言)」においては、以下の要件を満たした場合には営農型太陽光発電設備が建築物に該当しないものとしています。
・農地法上の一時転用許可等を受けていること
・特定の者が使用する営農を継続する農地に設けるものであること。
・支柱及び太陽光発電設備からなる空間には壁を設けず、かつ、太陽光発電設備のパネルの角度、間隔等からみて農作物の生育に適した日照量を保つための設計となっていること。
これらの要件は、前記農地の一時転用許可を受けるうえで通常は満たすことになるものと考えられるため、農地の一時転用許可を受けた営農型太陽光発電設備については、基本的には建築物に該当せず、建築基準法上の規制は適用されないことになります。
(3)都市計画法に基づく開発許可
都市計画法においては、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため、都市計画区域又は準都市計画区域内における建築物の建築を含む開発行為(第4条第12項)については許可が必要とされています。(第29条)
もし営農型太陽光発電設備が建築物に該当した場合、都市計画区域内等の建設には前記農地法上の一時転用許可に加え、都市計画法上の許可も必要ということになります。
しかし、同法にいう「建築物」とは建築基準法第2条第1号に定める建築物を指し、「建築」も同条第13号の建築を指すものとされており、前記国住指第3762号「農地に支柱を立てて設置する太陽光発電設備の建築基準法上の取扱いについて(技術的助言)」の内容からして、農地の一時転用許可を受けている場合には、営農型太陽光発電設備は基本的には都市計画法上の建築物に該当せず、同法に基づく開発許可を受ける必要はないということになります。
[1] 農林水産省「令和元年度 食料・農業・農村の動向」によると、平成30年時点での累計の営農型太陽光発電の取組面積は560ha、設備を設置するための農地転用許可件数は1992件と、平成28年の2倍弱にまで上っている。
[2] 例外として、市街化区域内にある農地について農業委員会への届出をした場合(農地法第4条第1項第8号)等がある。
[3] 農地法施行規則第30条第7号又は第57条の2第2項第5号
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