M&P Legal Note 2021 No.2-2
中国における外商投資安全審査弁法の施行
2021年3月16日
松田綜合法律事務所
中国弁護士 徐 瑞静
1、はじめに
2020年1月1日から同時施行された「外商投資法」及び「外商投資法実施条例」は、かつての「中外合資経営企業法」、「外資企業法」、「中外合作経営企業法」に取って代わり、外商投資に対して、(1)参入前の国民待遇とネガティブリスト、(2)外商投資プロジェクトの審査承認と届出、(3)外商投資情報の報告、(4)外商投資の安全審査制度という4つの方面から外商投資管理を強化するようになりました。
中国の全面的な対外開放において、重要な課題とされたのは、外資投資経済と国家安全保障のバランスを図ることですが、ここ数年来、諸国が自国への投資規制を強化する傾向が見られることを契機として、中国においても、国際的に許容された一定の範囲での外資規制の基準に従い、2021年1月18日から、「外商投資安全審査弁法」(2020年法律第37 号、以下、「弁法」という)を施行しています。以下において、「弁法」における安全審査制度について解説することとします。
2、「弁法」の概容
(1)投資形態
安全審査範囲に属する外商投資とは、外国投資家が直接または間接的に中国域内で行う新規プロジェクトと企業の設立、M&Aによる国内企業の株式と資産の取得、その他の方式の投資という3つの投資活動を指します。
それらの外商投資のうち、取り分け、その他の方式の投資の内容については、先例規定として、上海・広東・天津・福建の4つの自由貿易区域において実施されている「自由貿易試験区外商投資国家安全審査試行弁法」の規定に鑑み、VIEスキーム、持分の代理保有、信託、再投資、海外取引、賃貸、転換社債の引受などの方式による投資が、安全審査範囲内に組み入れられるものと見られます。
また、香港、マカオ、台湾からの投資についても、「弁法」の射程範囲に入ります。なお、証券領域に関わる安全審査の取扱方については、別途、制定することになると見られます。
(2)審査対象の業種
「弁法」は、特定の業種に関わる投資を規制することとしており、具体的には、国防軍事の安全と国家の安全の2つ領域に区分することできます。前者に関係する分野に対する投資には、軍事産業等の軍事施設、及び、その周辺地域における投資をも含みます。
投資先企業の実質支配権を取得した外国投資家が、国家安全審査に関係する重要農産品、重要エネルギー・資源、重大設備製造、重要インフラ、重要運輸サービス、重要文化製品・サービス、重要情報技術とインターネット製品・サービス、重要金融サービス、重要技術、その他の重要分野に対する投資を行うについては、外国投資家が企業の50%以上の持分を取得する場合、外国投資家の取得した持分は50%未満であっても、その保有する表決権が取締役会、株主会ないし株主総会の決議に対して重大な影響を与える場合、外国投資家が企業の経営意思決定、人事、財務、技術その他に対して重大な影響を与える場合には、実際の支配権を取得したことになります。
3、審査主体
外商投資を申告する前には、関連問題につき、業務メカニズム弁公室に相談したり、また、予定されている投資事項が安全審査の対象となるか否かを確認することができます。業務メカニズム弁公室は、国家発展改革委員会に設置されています。
4、審査過程
審査は、以下の3つの過程を経て行われます。
第一段階は予備審査です。これは、申告のための要件に適合する書類が受け取られた日から15営業日以内に、安全審査を開始するか否かを決定します。
第二段階は一般審査です。これは、審査開始日から30営業日以内に、審査通過の決定をするか、または、手順に従い、次の段階に進んで審査を行います。
第三段階は60営業日の特別審査です。この審査は、各項目を審査対象とする手続ではなく、一般審査を通過していない項目のみが審査の対象となります。特殊な場合には、審査期間を延長することができます。特別審査が終われば、審査決定を下します。
なお、審査期間中における補足資料提出のための時間は、審査期間に算入されません。審査期間中は、当事者は投資活動をすることができません。
5、審査決定
安全審査を通過した場合には、投資活動を開始することができます。付加条件をもって審査を通過した場合には、付加条件に従い投資を実施しなければなりません。投資が禁止された場合には、一切の投資をすることができません。
申告拒否、虚偽記載、付加条件の不遵守などの違反行為があった場合には、期限を定めたうえで、当事者に対し、株式または資産を処分するよう命じることができます。その場合には、当該違反行為は、不正信用記録として、国家信用情報システムに組み入れられ、関連規定に従い懲戒されることとなります。
6、終わりに
1978年、鄧小平の指導の下に打ち出された「改革開放政策」は、その後における中国社会の急速な経済的発展をもたらし、中国を世界第2位の経済大国へと成長させましたが、当該政策は、今なお、進展の途上にあります。「弁法」は、上記外商投資法による外資導入の一層の促進を踏まえながら、国家安全の保障に配慮する立法です。中国が、経済大国として、また、法治国家として、更なる発展を遂げようとする過程において、規制の緩和と緩和の制限との間における均衡の問題が、常に浮上することは明らかです。「弁法」は、正に、このような問題の存在と重要性を如実に物語っていると言うことができます。
松田綜合法律事務所
弁護士 髙橋 梨紗
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