Legal Note

リーガルノート

2020.09.11

2020-9-1 公益通報者保護法の改正 ~事業者側の義務を加重~

M&P Legal Note 2020 No.9-1

公益通報者保護法の改正
~事業者側の義務を加重~

2020年6月26日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月 泰頼

PDFダウンロード

第1 はじめに

2020年6月8日に、公益通報者保護法の改正法が成立し、同月12日に公布されました。

公益通報者保護法が制定されて以降も、社会問題化するような企業の不祥事が後を絶たないことから、事業者による早期是正の機会を確保し、被害の防止を図るため、公益通報者保護法を改正(以下、改正後の同法を「新法」といいます。)したものです。

以下のとおり、事業者にとって影響が大きい制度が含まれています。

  • 事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口の設定、調査、是正措置等)を義務付け
  • 上記①の実効性を確保するため、行政措置(助言、指導、勧告及び韓国に従わない場合の公表)を導入
  • 内部調査等に従事する者に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け、かつ違反者に対する刑事罰を導入

特に、上記③は、直接罰(行政指導などを経ずにいきなり刑事罰を科せられる)であることから、担当者の責任は極めて重いものになります。

その他、保護対象者を退職者や役員にまで拡大し、保護される通報として刑事罰だけでなく行政罰の対象行為まで拡大、通報に伴う損害賠償責任の免除制度なども設けられています。

以下、①~③を中心に、概説します。

なお、公益通報者保護法の改正は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

第2 ①内部通報に適切に対応するための体制の整備等の義務付け(法11条)

まず、事業者は、公益通報の窓口通報事実の調査及び必要な是正措置をする業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めることが義務化されました(新法11条1項)。

さらに、事業者は、これらに加えて、公益通報に応じて適切に対応するための必要な体制の整備をすることも義務化されました(新法11条2項)。

これらの具体的な内容は、今後指針が作成される予定ですが、通報窓口、通報事実の調査及び是正措置をとるための体制の整備が必要になります。

また、特に公益通報対応業務従事者は、後述のとおり、刑事罰も科されうる重い守秘義務を課されることになりますので、通報者の情報が漏れないような制度設計が必須になると考えられます(そうでなければ、公益通報対応業務従事者のなり手がいなくなってしまうことも想定されます。)。

なお、上記の義務については、従業員数300人以下の中小事業者においては、努力義務とされています。

第3 ②消費者庁による指導、勧告等

次に、前項の義務を実行化させるため、消費者庁(内閣総理大臣から権限移譲)は、前項の体制の整備(新法11条1項、2項)に関して必要があるときは、事業者に報告を求め(報告徴収)、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるようになりました(新法15条)。この報告徴収については、不報告又は虚偽報告については20万円以下の過料に処せられます(新法22条)。

さらに、事業者がこの勧告を受けて、その勧告に従わない場合には、消費者庁は、その旨を公表することもできるようになりました(新法16条)。

近年の企業不祥事では、当該企業において、自浄機能が働く企業であるか否かがステークホルダーの強い関心事になっており、その意味で、公表は、重い制裁となります。

第4 ③守秘義務と刑事罰

次に、公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由なく、公益通報者を特定させる情報(以下「特定情報」といいます。)を漏らしてはならないとして守秘義務が課されることになりました(新法12条)。

しかも、この守秘義務に違反して、公益通報者を特定させる情報を漏らした者に対しては、30万円以下の罰金という刑事罰が科されることになりました(新法21条)。

この罰則規定は、いわゆる直接罰といわれるもので、守秘義務違反をしたことについて、行政による指導や勧告を経ずに、直接的に刑事罰を科すことができるとした点で重い制裁といえます。

今年、日本郵便で内部通報者を特定しようとする行為が報道され問題となりましたが、内部通報者を特定する過程で特定情報が漏えいしますので、今回の改正により、今後、公益通報においてこのような行為がなされた場合には、刑事罰が科せられる可能性があります。

また、公益通報による調査でヒアリングを行う場合でも、公益通報者の特定につながる情報をヒアリング対象者に与えてしまう場合もあり、「正当な理由」があったか否かが問題となることから、慎重な対応が求められます。

その他、公益通報対応業務従事者及び役職員に対する守秘義務についての教育・啓蒙が必須であることは言うまでもありませんが、事業者において、公益通報者の特定情報の管理を適正に行わなければ、仮に当該情報が漏えいした場合に、公益通報対応業務従事者が漏洩させたとの疑義も生じかねません。特定情報の管理が不十分であることから特定情報が漏れた場合に、公益通報対応業務従事者が守秘義務違反として刑事告訴される可能性もあり、特定情報の管理が非常に重要になります。

第5 おわりに

企業の内部通報制度が機能せずに大きな不祥事に発展してしまった事例や内部通報者の不利益取扱いの事例が後を絶たないことから、内部統制の実効性を高めるとともに、事業者による公益通報者への不利益取扱いの禁止を徹底するため、今回の改正が行われました。

これから、守秘義務を負う公益通報対応業務従事者の範囲や守秘義務の対象外となる「正当な理由」の解釈など細かい指針が定まっていきますが、企業としては、内部統制と自浄作用を強化するため、実効性のある内部通報制度の構築が求められます。


この記事に関するお問い合わせ、ご照会は以下の連絡先までご連絡ください。

松田綜合法律事務所
危機管理チーム
弁護士 岩月泰頼
info@jmatsuda-law.com

〒100-0004 東京都千代田区大手町二丁目1番1号 大手町野村ビル10階
電話:03-3272-0101 FAX:03-3272-0102

この記事に記載されている情報は、依頼者及び関係当事者のための一般的な情報として作成されたものであり、教養及び参考情報の提供のみを目的とします。いかなる場合も当該情報について法律アドバイスとして依拠し又はそのように解釈されないよう、また、個別な事実関係に基づく日本法または現地法弁護士の具体的な法律アドバイスなしに行為されないようご留意下さい。