Legal Note

リーガルノート

2020.09.11

2020-7-1 食品事業者の法務(3) ~食品販売の規制と留意点~

M&P Legal Note 2020 No.7-1

食品事業者の法務(3)
~食品販売の規制と留意点~

2020年5月15日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月 泰頼

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*本ニュースレターは2020年5月14日現在の情報に基づいております。

第1 はじめに

2020年4月7日に新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言が発出され、地方自治体から、外出の自粛要請や飲食店の営業時間の短縮要請などが出ました。全国的にも休校や在宅勤務なども進み、国民の在宅時間が増えたことから、新たな消費である「巣篭り消費」が注目されています。

特に、食品の分野では、自宅で飲食する機会が大きく増えたことで、飲食店による料理のテイクアウトやデリバリー、食料品の小売り、宅配、通信販売、食品ECサイトなどが売り上げを大きく伸ばしています。今後も、これらの食品事業に進出する企業が増えることが予想されます。

本稿では、食品販売事業に新たに進出することを考えている企業向けに、基本的な食品事業における法務を概観します。

第2 食品衛生法について

1 第6

食品を扱う事業者にとって、食品衛生法において最も重要な規制の一つが第6条[1](販売等を禁止される食品及び添加物)です。食料品の小売り、宅配、通信販売、ECサイト、飲食店のいずれであっても、販売事業者である以上、健康を損なうおそれのあるものを販売することが禁止され、これに反した場合の措置として、営業許可の取消し、営業の禁止又は停止(第55条1項)、さらには罰則(第71条1項1号)などが定められています。このように、食品販売事業者は、健康を損なうおそれのある食品を販売できないように、安全面から規制がされています。

なお、食品を製造・販売する事業者であれば、当該規制の対象となりますが、直接的に食品を製造・販売(転売)等をしないスキームで食品販売に関与する事業者は、食品衛生法の規制対象になるか否かでリスクが大きく異なりますので、十分な検討の上で事業を進める必要があります。

2 改正食品衛生法

平成30年6月に食品衛生法の大きな改正があり、新たな制度などが創設されていますが、その中でも、食品を製造する事業者に影響の大きい制度が、令和2年6月1日から施行される「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」の義務化です。

原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」(HACCPに基づく衛生管理)の実施を求めるものです。

ただし、全事業者を対象とするとあまりに負担が大きいことから、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、「取り扱う食品の特性等に応じた取組」(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)として、負担を軽減しています。具体的には、事業者団体が作成し、厚生労働省が確認する手引書を利用して、温度管理や手洗い等の手順を定め、簡便な記録を行うことを想定しており、比較的容易に取り組めるものとなる予定です。

食品販売事業者としては、このような食品衛生法上の義務を遵守している製造業者から食品を仕入れることが重要となります。

第3 食品表示法

次に、食品を扱う事業者として、留意しなければならない規制が、食品表示法になります。

1 食品表示基準

食品の製造業者、加工業者、輸入業者、販売業者は、食品表示法第5条[2]により食品表示基準を順守することが定められています。食品表示基準には、原材料名、添加物、保存方法、消費・賞味期限及び栄養成分等の細かい表示の基準が定めてあり、これに違反した場合には、行政による措置命令(第6条)や公表(第7条)などの制裁があります(アレルギー表示違反の場合は、後述のとおり罰則があります)。

ただし、食品表示基準は、食品の容器包装の表示に関する規制であり、基本的には、調理した料理を包装せずにそのまま提供する飲食店は対象外とされています。

この点で問題となるのが、飲食店営業の許可を受けた飲食店が調理した料理のテイクアウトやデリバリーにおける食品表示です。

お客の注文に合わせて調理した料理で、受け取った客がそのまま食べる場合には、食品表示基準は適用されませんが、作り置きした料理を容器包装に入れて販売する場合には、食品表示基準の対象となりますので留意が必要です。なお、この作り置きした料理を販売する場合、食肉製品であれば食肉製品製造業の許可が必要になるなど、作るものに応じた製造等の許可が必要になるので、必ず保健所に相談してください。

2 アレルギー表示

食品表示の中で、最も重要な表示の一つがアレルギー表示です。

近年、子どもも含めて食物アレルギーを持つ人が増えています。食物アレルギーは、場合によっては重篤な症状を呈し、最悪、命も落としかねないことから、アレルギー表示は、最も重要な表示の一つとされています。

食品表示基準第3条2項(別表第14)では、重篤なアレルギーになりやすい特定原材料として、乳、そば、たまご、エビ、カニ、落花生、小麦の7品目を指定し、容器包装への表示義務を課しています。そして、これに違反した食品を販売した事業者に対しては、罰則を科すことができます(第18条)。

なお、これまで説明したように、飲食店で提供する料理に食品表示法は適用されませんが、作り置きした料理を容器包装に入れて販売する場合には、食品表示法が適用されることになります。したがって、仮に飲食店が作り置きした料理を容器包装に入れて、アレルギー表示をせずに販売した場合には、食品表示法違反として、罰則の対象となりますので、十分に留意が必要となります。

第3 食品の通信販売やECサイト

食品を通信販売する場合や、ECサイトで販売する場合には、これまで説明してきた食品衛生法や食品表示法の規制対象事業になります。

したがって、健康を損なうおそれのある食品を販売する場合や、食品表示基準に違反した食品を販売した場合には、上記のとおり、行政命令、公表、罰則の対象になる場合があります。

特に、通信販売やECサイトの販売では、販売する食品が多種類で、販売地域も広域に及び、かつ不特定多数の人に大量に販売するところに特徴があります。

ひとたび食品衛生法や食品表示法に違反した食品を販売した場合には、購入者が不特定多数で広域に及び、かつ国民の関心も高いことから、公表の問題、回収の問題など、様々な問題が顕在化します。

食品に関係する事故は、過去の事例から、ある程度想定が可能であることから、法的に十分な準備をした上で事業を進めることが望まれます。

第4 その他の関係法令

本稿では、食品衛生法と食品表示法の特に重要な規制について概観を解説しましたが、その他にも様々な関係法令があります。

例えば、食品広告については薬機法や景品表示法、産地偽装については食品表示法の他に不正競争防止法が規制しています。その他、事業によっては、廃棄物処理法や製造物責任法等が関係する場合もあります。

これらの関係法令を遵守して事業を進めることが必要になります。

 

[1] 第六条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し…、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。

二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、(略)

三 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。

四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

 

[2] 第五条 食品関連事業者等は、食品表示基準に従った表示がされていない食品の販売をしてはならない。

 


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この記事に記載されている情報は、依頼者及び関係当事者のための一般的な情報として作成されたものであり、教養及び参考情報の提供のみを目的とします。いかなる場合も当該情報について法律アドバイスとして依拠し又はそのように解釈されないよう、また、個別な事実関係に基づく日本法または現地法弁護士の具体的な法律アドバイスなしに行為されないようご留意下さい。

 

 

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