Legal Note

リーガルノート

2020.09.11

2020-5-1 新型コロナウイルス感染症と本年度の定時株主総会の対応

M&P Legal Note 2020 No.5-1

新型コロナウイルス感染症と本年度の定時株主総会の対応

2020年4月22日
松田綜合法律事務所
コーポレートチーム

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1 はじめに

*本ニュースレターは2020年4月21日現在の情報に基づいております。

現在,新型コロナウイルス感染症に関して,新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されています。また,各都道府県においては,外出自粛要請が出されると共に,「密閉・密集・密接」を避けるよう要請されています。

現時点においては,緊急事態宣言や外出自粛要請の期間は5月6日までとされていますが,これらの期間が延長される可能性自体は否定できません。多くの会社は,定時株主総会を6月に開催しているところ,新型コロナウイルス感染症の状況は,株主総会の開催時期の有無に影響しかねず,また,十分なリハーサルができない会社も少なくないと想定されます。

そこで,本ニュースレターにおいては,新型コロナウイルス感染症のもとでの株主総会に関する論点をまとめさせて頂きます。

1.株主総会を6月に開催しなければならないか。

そもそも,3月決算の会社は,定時株主総会を6月に開催しなければならないのでしょうか。

会社法においては,定時株主総会の開催時期について「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」(同法296条1項)と定められているにすぎず,定時株主総会の開催時期について明文で定められているわけではありません。

他方で,3月決算の会社において,定時株主総会の開催時期が毎年6月に集中しているのは,会社法において,基準日と権利行使との間を3ヶ月以内に制限しているところ(同法124条2項),多くの会社において,定款において,定時株主総会の議決権の基準日を毎年3月31日とした上で,定時株主総会を事業年度終了後3ヶ月以内に招集する旨の定めをおいているからであると考えられます。

このような背景には,定時株主総会とは,事業年度における事業成績の決算をしてその結果を確定し,決算期時点で生じた剰余金をその時点における株主に配当する議案を承認するためのものであって,剰余金配当を受けるのは,毎年3月31日現在の株主であるべきだからである,と考えられていたことがあります 。

しかしながら,上記のような配当受け取るのが決算期時点の株主であるべき,との考え方が誤りであるとの指摘がなされており ,学説上は,株主総会を6月に開催しなければならないとする論理的根拠は薄くなっています。また,仮に定款において,定時株主総会の開催時期に関する定めがある場合でも,天災等の特異な事情があり定時株主総会を開催することが実務的に困難な時期まで,定時株主総会を開催することを求めるものではないと考えられます 。

このように,少なくとも会社法上は,定時株主総会を6月に開催する必要はないものと考えられます。

2.本年度の株主総会を6月に開催すべきか。

(1)はじめに

  上記のとおり,会社法上は,株主総会を6月に開催すべきことが定められているわけではないと考えられるところ,本年度の定時株主総会については,新型コロナウイルス感染症を踏まえた法制度の現状等を踏まえて,開催の時期を検討することになるかと思います。そこで,以下において,株主総会を6月に開催すべきかの判断を行うにあたっての法的論点等について整理をいたします。

(2)インターネットを利用した株主総会

 ① ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド

インターネットを利用することで,会社は株主の来場を低減することが可能となります。現行法上,どのような態様であればインターネットを利用した株主総会を適法に開催できるのでしょうか。経済産業省は,令和2年2月26日,「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下,「経産省ガイド」といいます。)を公表し,インターネットを利用した株主総会に関する論点整理を行っています。

経産省ガイドにおいては,インターネットを利用した株主総会について,①バーチャルオンリー型株主総会,②ハイブリッド型バーチャル株主総会に類型化し,ハイブリッド参加型バーチャル株主総会について,ⅰ)ハイブリッド出席型バーチャル株主総会と,ⅱ)ハイブリッド参加型バーチャル株主総会に更に分けて検討をしています。

 ② バーチャルオンリー型株主総会

バーチャルオンリー型株主総会とは,リアル株主総会を開催することなく,取締役や株主等が,インターネット等の手段を用いて,株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会をいいます。このようなバーチャルオンリー型株主総会については,将来的には立法上の検討がなされる余地はあるものの,現行法においては,株主総会の招集にあたって株主総会の場所を定めなければならないとされていること(会社法298条1項1号)等から,現行法の解釈上は難しいと考えられます。

 ③ ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは,リアル株主総会の開催に加え,リアル株主総会の場所に在所しない株主が,インターネット等の手段を用いて,株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいいます 。

具体的には,リアル株主総会の開催場所と株主との間で,インターネットによる情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることを前提に,株主は遠方から出席をした上で,インターネット等の手段を通じて議決権を行使することになります。

現行法上も,株主総会議事録の記載事項として「当該場所に存しない・・・・・・株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。」(会社法施行規則72条3項1号)と定められており,バーチャル参加する株主も,株主総会に「出席」したものとして取り扱われることが明らかにされており,ハイブリッド出席型バーチャル株主総会が許容されているものと考えられます。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は,遠方株主の出席機会が拡大し,株主が複数の株主総会に出席することができ,また,株主総会での質疑等を踏まえた議決権の行使が可能となる等のメリットがあります。他方で,上記のとおり,株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが大前提となるため,システム環境の整備が不可欠になります。また,バーチャル出席の株主が増えた場合には,証券代行による集計システムとの連携等も必要となります。加えて,会社側において,サイバーセキュリティ対策を十分に実施することも必須となります。

また,万一,通信障害等が生じた結果,株主が審議又は決議に参加できない場合には,現行法のもとでは会社法831条1項の決議取消事由に該当すると解される可能性があります。

この点について,経産省ガイドは「会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知しており、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策をとっていた場合には、会社側の通信障害により株主が審議又は決議に参加できなかったとしても、決議取消事由には当たらないと解することも可能である」,「例えば、会社は通信障害の防止のため合理的な対策を講じていた場合であって、かつ、バーチャル出席株主は審議に参加できなかっただけで決議には(その時点までに通信が回復したため)参加できたか、又は、バーチャル出席株主は決議にも参加できなかったが、そのような株主が議決権を行使したとしても決議の結果は変わらなかったといえる場合は、手続違反の瑕疵は重要でなく、かつ、決議に影響がないものとして、取消しの請求は裁量棄却(法831条2項)される可能性が十分ある」としています。しかし,通信障害の程度やそれによって株主が被った不利益の程度によっては,やはり株主総会決議の取消しのリスクがあることは否定できません。このようなハイブリッド出席型バーチャル株主総会が促進されるためには,システムの構築がなされ,安定的なバーチャル出席が可能となるような環境整備を行っていくことが必要であると考えられます 。

 ④ ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは,リアル株主総会の開催に加え,リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が,株主総会への法律上の「出席」を伴わずに,インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいいます 。

具体的には,株主は,インターネットを通じて,特設されたWEBサイト等で配信される中継動画を傍聴した上で,株主総会に参加することが考えられます。ハイブリッド参加型バーチャル株主総会においては,株主は,リアル株主総会に出席していないため、質問(会社法314条)や動議(会社法304条等)を行うことはできません。他方で,株主は,経営者の声や会社の事業戦略を直接聞くことができるとのメリットがあります。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は,遠方株主の参加機会が拡大し,株主が複数の株主総会の傍聴が可能となるとのメリットがあります。また,ハイブリッド出席型バーチャル株主総会に比して,決議取消しリスクが限定的であるため,法的安定性が担保されます。

他方で,株主は,株主総会に「出席」した扱いとならないため,質問や動議の提出ができず,また,議決権行使も書面や電磁的方法により事前に行使をするか,代理人による議決権行使を行うことが必要となります。

法的安定性の観点からは,現時点においては,各会社において,まずは,ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の導入を検討されても良いかと考えられます。

 ⑤ その他

経産省ガイドに記載された方法のほか,会社の役員等についても,インターネットを通じて参加をする方法が考えられます 。

このような株主総会を開催するにあたっては,取締役等の株主総会への出席義務が問題となり得ます。この点,株主総会への取締役等の出席については明文で記載されているわけではありません。通説的見解は,取締役等の株主総会への出席を必要としています。これは取締役の説明義務等(会社法314条)から導かれているものと考えられます。

しかし,インターネットを通じた株主総会に出席することも取締役の「出席」にあたるものと解することは十分可能です 。また,取締役は,インターネットを通じて,株主からの質問等に対して,必要かつ適切な説明を行えば,「リアル」に出席をしなかったとしても説明義務を果たしたことになると考えられます。

なお,システム環境の整備やサイバーセキュリティ対策が必要なこと,通信障害等が生じた場合に,取締役や監査役の説明義務(会社法314条)違反となり,決議取消事由にあたるリスクがあるのは経産省ガイドに記載されたハイブリッド出席型バーチャル株主総会と同様です。

(3)決算及び監査

  新型コロナウイルス感染症の影響は,各会社において,決算及び監査の作業に大きな影響を与えるものと考えられます。そこで,以下においては,会社法上の決算及び監査の考え方について説明をすると共に,金融商品取引上及び証券取引所の開示等に関する現状について整理します。

① 会社法上の計算書類等の取扱い

会計監査人設置会社は,計算書類及び事業報告等並びに連結計算書類について,監査役及び会計監査人の監査を受けた上で,取締役の承認を受けなければなりません(同法436条2項・3項,444条4項・5項)。

監査を受けた計算書類,事業報告及び連結計算書類は,定時株主総会の招集の通知に際して,株主に対して提供する必要があります(同報437条,444条6項)。

また,計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書等は,定時株主総会の2週間前の日から会社の本店等に備置する必要があります(442条1項1号)。

このように,定時株主総会の開催にあたっては,決算が終了し,会社の計算書類等について監査を受けていることがその前提となります。しかし,新型コロナウイルス感染症の影響で,会社の決算や,監査役及び会計監査役による監査が遅延をする可能性があります。このように、会社の決算や計算書類等の監査が遅延する場合には,定時株主総会の開催の延期が検討されます。

② 決算短信の確定及び開示

東京証券取引所においては,決算短信について,遅くとも決算期末後45日以内に開示を行う必要があるとされています。また,開示時期が決算期末後50日を超える場合には,その理由等を開示することが必要であるとされています。しかし,今般,東京証券取引所は,「通期の決算内容及び四半期決算内容につきまして、今般の新型コロナウイルス感染症の影響により決算手続き等に遅延が生じ、速やかに決算内容等を確定することが困難となった場合には、「事業年度の末日から45日以内」などの時期にとらわれず、確定次第にご開示いただくことで差し支えありません。」とのことを公表いたしました 。

ただし,新型コロナウイルス感染症の影響により、大幅に決算内容等の確定時期が遅れることが見込まれる場合には、その旨(及び確定時期の見込みがある場合には、その時期)の適時開示を行うことが求められています。

③ 有価証券報告書の提出及び開示

上場会社は,事業年度終終了後3ヶ月以内に,有価証券報告書を提出する必要があります(金融商品取引法24条1項)。また,東京証券取引所においては,有価証券報告書の提出が1ヶ月以上遅延した場合には,上場廃止基準に該当することとなり,監理銘柄として指定されます(有価証券上場規程第601条1項10号,第610条)。

他方で,新型コロナウイルス感染症の影響を受けて,多くの企業において、決算業務や監査業務を例年どおりに進めることが困難となり,上記の提出期限の遵守が難しい状況にあります。

そこで,金融庁は,令和2年4月17日,企業内容等の開示に関する内閣府令等について改正し,同年4月20日から9月29日までの期間に提出期限が到来する有価証券報告書等の開示書類について,一律に9月30日までに提出期限を延長しました。

また,東京証券取引所においても,上記の有価証券上場規程について,本年9月末までに有価証券報告書等を提出しなかった場合に限って適用することを明らかにしています 。

(4)継続会によることの是非

金融庁は,令和2年4月3日に「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」(以下,「金融庁協議会」といいます。)を設置し,同月15日付けで「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」 と題する資料(以下,「金融庁協議会資料」といいます。)を公表しています。当該資料においては,「当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。」,「企業は、上記のとおり、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。」,「継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。」との提案をされています。金融庁協議会の提案は,定時株主総会を6月に開催しつつ,新型コロナウイルス感染症への安全を配慮しつつ,決算業務及び監査業務を行おうとする方策の1つにあたると思います。

他方で,ここで注意しなければならないのは,継続会の開催時期についてです。継続会(会社法317条)とは,株主総会において,議事に入ったものの,何らかの理由で審議が終了せず,審議未了のまま,総会を後日に継続して行う場合を言います。継続会については,先行の株主総会と同一の総会であり,継続会が先行する最初の株主総会の一部をなすものと解されています。そのため,総会としての連続性・同一性を認めるためには,両社の時間的間隔ができるだけ短いことが必要であると考えられています。通説的見解は,この時間的間隔について,先行株主総会に関して後から開催される株主総会が先行株主総会の継続会と認められるためには,両社の間が2週間以内であることが必要であると解しています 。上記の金融庁協議会資料文書は「当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。」と記載していますが,この「合理的な期間」は通説的見解に従えば,2週間程度と考えられ,これ以上の期間を空けた場合には,招集手続が行われないまま株主総会が行われたものとして,当該株主総会に招集手続の瑕疵があったと解される可能性があることに注意が必要です 。

そのため,金融庁協議会が提案するような方法をとることを検討する場合には,新型コロナウイルス感染症の状況に鑑み,継続会が定時株主総会に近接した時期に開催できるかを検討すべきでしょう。近接した時期に開催できない場合には,改めて株主総会を開催することが検討されるべきでしょう。

3.株主総会を6月に開催する場合の留意点

(1)はじめに

株主総会は,特定の会場において開催されるのが一般的であるため,閉鎖空間において近距離で多くの株主等が密集をすることになり,新型コロナウイルス感染症の感染を拡大させることになりかねません。そこで,株主総会を6月に開催する場合には,総会の運営において十分に注意が必要であると考えられます。

そこで,以下に,株主総会を6月に開催する場合の運営上の留意点について整理します 。

(2)株主総会への来場の自粛要請

まず,総会当日に多くの株主の出席が想定される会社や,会場に比して来場者が多い会社においては,株主に対して来場の自粛を要請することが考えられます 。具体的には,招集通知やホームページ等においては,高齢者や基礎疾患がある方等の来場にあたっての注意喚起等を行うことや,書面による議決権行使や電磁的方法による議決権行使(会社法298条1項3号・4号)等の方法を案内することも考えられます。また,万一,来場する株主については,マスクの着用等を行うよう,事前に要請すべきであると考えられます。

また,あらかじめ,ウェブサイト等において株主総会で利用する予定の資料等を掲載すること等も,株主総会への来場株主の減少に資するものと考えられます 。

加えて,例年,株主様へのお土産の配布や,株主との懇談会を開催している会社については,少なくとも本年度の株主総会に限ってはお土産を廃止し,懇談会を中止することも検討されるべきでしょう。

(3)開始時刻の変更,受付及び入場の制限

株主総会の開始時刻について,多くの会社は例年10時としています 。しかしながら,本年度の株主総会については,株主の移動に鑑み,開催時間を遅らせることを検討すべきでしょう。

株主総会の受付にあたっては,参加する株主に対して手洗いを推奨することのほか,アルコール消毒薬を設置し,又はマスクを準備した上でその着用を求めることが考えられます。サーモグラフィー等を用いて株主に検温をしてもらうことも検討に値するでしょう 。その他,受付事務も可能な限り簡略化すべきだと考えられます。

なお,法務省・経産省Q&Aは,「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において・・・・・・例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。」と記載しています。株主に対して入場の自粛を任意の態様で求めることは,株主の権利行使を制限しているとは言えず,決議の方法が著しく不公正(会社法831条1項1号)であるとは解されないものと考えられます。また,予め用意をしている会場に株主が入場しきれない場合には,第一会場の様子が画像及び音声で把握でき,質問等も可能とする第二会場に案内する等の対応をすることが考えられます 。各会社においては,予め入場できる株主の人数が少ないことをウェブサイト等に周知をする等の対応をした上で,株主の来場社数が多かった場合の対応方針を確認しておくべきでしょう。

(4)株主総会の会場設営

株主総会の会場においては,通常よりも株主間の席を2メートル以上離す等して,株主の席に余裕を持たせることが考えられます。また,会場内の空気がこもらないように,風通しを良くすること考えられます。

会場の係員等についてもマスクを着用させると共に,受付等を行う係員は株主との接触があるため手袋の着用等を検討すべきでしょう。また,総会当日に検温をして発熱等がある係員は欠席する等の対応を行う必要があるでしょう。株主総会を担当者の一部が欠席をすることを念頭において,会社においては準備をしておくべきだと考えられます。

来場者数が多い会社においては,医師等の医療関係者の待機を依頼することを検討されても良いでしょう。

(5)株主総会の運営

本年の株主総会は,例年以上に,効率的な総会運営を行い,長時間の総会とならないように心がけるべきでしょう。各会社においては,いま一度,総会運営が効率化できないか,シナリオを見直すべきでしょうか 。

加えて,各会社においては,通常の株主総会と異なる運営方針を行うことになることが多いものと考えられます。そこで,株主総会の冒頭で,議長から,本年の株主総会の概略について説明をするのが丁寧であると考えられます。

その他,本年度の株主総会においては,新型コロナウイルスの事業への影響等に関する質問がなされることが容易に想定されます。事務局において想定問答を予め準備する等して十分に準備をしておくべきでしょう。

(6)異常な症状が認められる株主,マスク不着用株主への対応

株主総会の会場においては,一定以上の発熱が確認される株主,頻繁に咳き込むなど外形上明らかに異常な症状が認められる株主,あるいはマスクを着用しない株主への対応が検討されます。会社法は,議長に,株主総会の秩序を維持し,議事を整理すべき権限を認め(会社法315条1項),命令に従わない者等については退場を命ずることができるとされています(同条2項)。このような株主への対応として,このような議長の秩序維持権を行使することが考えられますが,どの範囲で行使をすべきが問題となります。

この点,一律に入場制限や退場等を求めることは,株主の株主総会に参加する権利を制限することとなりかねず,議長の秩序維持権の裁量を逸脱したものとして,決議方法が著しく不公正(会社法831条1項1号)であると解されるリスクがあります。そこで,このような株主については,①入場を控えるよう要請し,②要請に応じない場合には,一定の区画に着席するよう求め,③それにも応じない場合には,入場の制限ないし退場を求める,と段階を踏んで対応をすることが考えられます 。各会社においては,このような株主が来場等をした場合の対応方針やフローを事前に定めておくことが重要です

4.定時株主総会を7月以降に開催する場合の留意点

(1)定時株主総会を6月に開催しなかった場合

 ① 取締役の任期

定時株主総会を6月に開催しなかった場合に,役員の任期をどのように考えれば良いでしょうか。

会社法においては,役員の任期「取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」(同法332条1項本文),「監査役の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」(同法336条1項)などと定められており,通常,会社の定款においても同様の定めがおかれています。ここでは,取締役や監査役等の役員の任期が終了する年度である場合において定時株主総会を6月に開催しなかった場合に役員の任期をどのように考えるか,「定時株主総会の終結の時」の意義が問題となります。

この点,通説は,定時株主総会が定款に定められた時期までに開催されなかった場合には,株主総会が本来開催されるべき時期の経過によって当然に満了するものと考えられています 。このような通説的見解を前提とすれば,定時株主総会が六月に開催されない場合には,本来開催されるべき時期が経過したものとして,取締役や監査役の任期が満了することになります。なお,取締役や監査役の任期が満了した結果,法律又は定款で定めた会社の役員の員数が欠けることになった場合には,任期の満了により退任した役員は,次の役員が就任するまで,なお,役員としての権義務を有することになります(これらの役員を一般に,権利義務役員と呼びます。会社法346条1項)。

他方で,このような通説的見解を前提とした場合であっても,天変地異等により,定款の定めた時期に定時株主総会が招集できない場合にまで,上記のように解するのは妥当でないとも考えられます。また,取締役の任期を制限するのは,取締役の地位の安定によって生ずる沈滞又は専横の弊を防止する趣旨にあると解されるところ ,このような趣旨は,天変地異等の場合には必ずしも妥当しません。この点,法務省は,新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合において,「改選期にある役員(任期の末日が定時株主総会の終結の時までとされている取締役,会計参与及び監査役)及び会計監査人の任期については,定時株主総会を開催することができない状況が解消された後合理的な期間内に開催された定時株主総会の終結の時までとなるものと考えられます。」,「当初予定していた時期(6月末)に定時株主総会を開催することができず,令和2年7月20日に開催した場合,当該定時株主総会において再任した役員についてする役員の変更の登記の登記原因は,「令和2年7月20日重任」となると考えられます。」との見解を表明しています 。

 ② 決算及び監査等

決算及び計算書類等の監査並びに開示書類の取扱いについては,上記2(3)で記載をしたとおりです。会社としては,これらの書類等について,法令等に基づき,手続を行うことになります。

(2)株主総会を開催するための手続

株主総会を7月以降に開催する場合には,新たに議決権行使のための基準日を設定し,公告を行う必要があります(会社法124条3項)。また,剰余金の配当について,定款に定めた基準日とは異なる日を配当の基準日とすることになるため,改めて剰余金の配当に関する基準簿を定め,公告する必要があります 。また,上場会社においては,このような基準日を設定した場合には,その旨の開示をする必要があります。このように,7月以降に株主総会を開催する場合には,改めて基準日を設定することになることから, 当初の定時株主総会の株主構成とは異なることになります。

その他,各会社においては,7月以降に株主総会を開催する場合には,臨時株主総会を開催するのと同様の手続によって行うことになります。

 

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