M&P Legal Note 2020 No.3-1
新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言と労務対応
2020年4月3日
松田綜合法律事務所
人事労務チーム
1 はじめに
先月のリーガルノートでは、当事務所へのご相談内容を基にして労務対応をQA形式でご説明致しました。現時点においても、新型コロナウイルスの感染は拡大し、いつ緊急事態宣言が出されてもおかしくはない状況にあり、いわゆるロックダウンが行われた場合にどう対応すべきかというご相談が増えてきております。
そこで、今回は、新型コロナウイルス感染拡大防止のためのロックダウンが行われた場合の労務対応について、ご説明します。
2 緊急事態宣言が出された場合のロックダウンについて
⑴ 法的整理
最近、ニュースで取り上げられている緊急事態宣言が出された場合のロックダウンですが、こちらについて、海外で行われているような、一切の外出が禁止されて自宅隔離となると思われている方も多いように思います。
しかしながら、これには誤解があります。
そもそも、緊急事態宣言とは、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」といいます。)第32条に定める新型インフルエンザ等緊急事態宣言(以下、「緊急事態宣言」といいます。)を指しています。この緊急事態宣言が出された場合には、都道府県知事は、住民に対し、新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができるものとされています(特措法第45条1項)。
こちらは、あくまで自粛協力要請であり、法的に一切の外出を禁止するものではありません。また、自粛協力要請の対象となる外出には「生活の維持に必要な外出」は除かれています。同法の逐条解説によると、「生活の維持に必要な外出」とは、医療機関への通院、食料の買い出し、職場への出勤などを指すとされておりますので[1]、緊急事態宣言が出されたとしても、労働者が就業場所に出勤することは可能です。
以上の通り、緊急事態宣言が出され、これに基づく措置が採られた場合であっても、法的に職場への出勤などが禁止されるわけではありません。
⑵ 休業手当支払の要否
緊急事態宣言が出された場合の措置についての法的整理は、上記の通りですので、そのような事態になっても労働者は出勤をすることが可能です。
そのため、緊急事態宣言及び外出自粛協力要請が出されたことを踏まえ、使用者が一時的な休業を行う場合、これは使用者自身の判断によるものですので、休業手当(労働基準法26条)として平均賃金の6割以上の支払は必要です。
⑶ 年次有給休暇の取得
使用者が一時的な休業を行う場合、上記の通り、休業手当の支払は必要ですが、労働者が希望した場合には、年次有給休暇を取得してもらい、通常の賃金を支払うという扱いも可能ではあります。ただ、年次有給休暇を取得することは、労働者の権利ですので、当然、使用者がこれを取得するように強制することはできません。
また、計画年休についての労使協定を締結している事業場の場合、その労使協定において、具体的な付与日を定めておらず、別途計画表によるとして計画表の作成時期手続きを労使協定中に定めているなど、機動的な規定になっている場合には、これに基づき年次有給休暇を取得させることは可能です。
ただ、そのような機動的な規定になっているケースは多くはないかと思いますので、①希望者には年次有給休暇を取得してもらって通常の賃金を支払い、②これを希望しない者や年次有給休暇が残っていない者については、休業手当を支払う、ということが、現実的な対応であると考えます。
3 雇用調整助成金について
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために休業をした、又は休業を予定している企業が増えている関係で、雇用調整助成金に特例措置が定められ、この受給に関するご相談が当事務所に多数寄せられています。
こちらの雇用調整助成金の受給のためには、事前に労使協定を締結しておく必要があります。厚労省のHP[2]に、「現在、事後提出の特例を講じており、書類の整備前に、休業等の実施が可能となっております。」との記載があることから、労使協定も事後的に締結すれば足りるとも誤解しがちですが、少なくとも、現時点においては、労使協定の事後的な締結は認められておりませんので、注意が必要です。
なお、このような状況ですので、随時、特例措置が拡大する可能性はあり、最新の情報は厚労省のHPや管轄のハローワークに確認をする必要がありますので、この点はご留意下さい。
追記(2020年4月14日)
2020年4月13日現在の新型コロナウイルス感染症対策としての雇用調整助成金及び特例措置の概要をまとめましたので、ご参照ください。
※新型コロナウイルス感染症対策としての雇用調整助成金及び特例措置の概要(PDF)
[1] 新型インフルエンザ等対策研究会「逐条解説 新型インフルエンザ等対策特別措置法」(中央法規、2013年)157頁から158頁。
[2] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
<新型コロナウィルスに関するリーガルノート>
- M&P Legal Note 2020 No.2-1 新型コロナウイルス対応に関する労務Q&A
- M&P Legal Note 2020 No.3-1 新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言と労務対応
- M&P Legal Note 2020 No.4-1 賃貸不動産(ビル、マンション等)で新型コロナウイルスの感染が確認された場合の法的対応
- M&P Legal Note 2020 No.5-1 新型コロナウイルス感染症と本年度の定時株主総会の対応
- M&P Legal Note 2020 No.6-1 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた農業協同組合(JA)の総会運営について
- M&P Legal Note 2020 No.8-1 新型コロナウイルス感染症を踏まえたM&A契約における対応(1)
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- M&P Legal Note 2020 No.8-3 中国における新型コロナウイルスに関わる法律問題(4)――最高人民法院の審判指針・その二――
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