Legal Note

リーガルノート

2020.11.02

2020-12-3 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律のご紹介

M&P Legal Note 2020 No.12-3

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律のご紹介

2020年11月1日
松田綜合法律事務所
不動産チーム
弁護士 佐藤康之
弁護士 白井潤一

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第1 はじめに

我が国においてはマンション、アパート等の共同住宅や戸建て住宅を対象とした賃貸住宅が広く利用されています。不動産所有者(オーナー)が自主的に賃貸住宅を管理することもありますが、賃借人の募集や賃貸借契約の締結、物件の維持管理(修繕等)、原状回復等において専門的知識を要することから、不動産管理会社が賃貸住宅の管理業務を広く担っているのが現状です。

オーナーの高齢化や管理内容の複雑化等に伴い、不動産管理会社に対する管理委託が増加しており、また賃貸経営を事実上不動産管理会社に一任するサブリース方式を採用する際に不動産管理会社とオーナーあるいは不動産管理会社と入居者との間でトラブルになるケースも多いところ、不動産管理会社が賃貸住宅の管理業務を行うにあたり、これまでは行政に対する登録や許認可手続は義務付けられていませんでした(※1)。

こうした状況を受け、「①賃貸住宅管理業に係る登録制度」及び「②サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に係る措置」を新たに創設することにより、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図り、国民生活の安定向上及び国民経済の発展に寄与することを目的とした「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(令和2年法律第60号)(以下「賃貸住宅管理業法」といいます。)が本年(2020年)6月19日に公布されました。

そして、賃貸住宅管理業法のうち、「賃貸住宅管理業の登録」に関する部分を除いた、サブリース事業の適正化を図る規律については本年(2020年)12月15日より施行されることが決定しています(なお、賃貸住宅管理業の登録義務付けについては2021年6月までに施行されます)。

また、サブリース事業の適正化の具体的な方法については、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則」(国土交通省令第83号)に委ねられているところ、同規則は本年10月16日に公布され、賃貸住宅管理業法とともに本年12月15日に施行されることとなりました。

加えて、本年12月15日以降のサブリース事業の適正、円滑な実施に向け、国土交通省は必要書面の雛型を添付した「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」を公表しています。

そこで、本ニュースレターにおきましては、賃貸住宅管理業法及び同法施行規則に定めるサブリース事業の適正化のための必要措置を中心に、賃貸住宅管理業法をご説明いたします。

賃貸住宅の管理(特にサブリース事業の適正な実施)の一助となることができれば幸いです。

※1国土交通省の告示により創設された賃貸住宅管理業者登録制度は存在していたものの(告示公布:2011年9月30日、告示施行:同年12月1日)、賃貸住宅の管理業務の実施にあたり、登録は義務付けられていませんでした。

第2 賃貸住宅管理業法の概要

上記賃貸住宅管理業法の成立経緯に基づき、同法は大きく「①賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設」と「②サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に係る措置の創設」を2つの柱としています。

そもそも①賃貸住宅管理業とは、賃貸住宅(※2)の賃貸人から委託を受けて、次の業務(以下「管理業務」といいます。)を行う事業をいいます。

1委託対象の賃貸住宅の維持保全(住宅の居室及びその他の部分の点検、清掃その他の維持、及び修繕)を行う業務(維持保全に係る契約の締結の媒介、取次ぎ又は代理を行う業務を含む。)

2賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理業務(1号に掲げる業務と併せて行うものに限る。)

※2 賃貸住宅とは、賃貸の用に供する住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋の部分)をいい、旅館業法による許可対象施設や住宅宿泊事業法の届出対象施設(いわゆる民泊施設)等を除いた住宅をいいます。

すでにご説明したとおり、不動産管理会社が賃貸住宅の管理業務を行うにあたり以前は登録が義務付けられていませんでしたが、賃貸住宅管理業法により、賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けなければならず、また5年おきに登録を更新することが求められるようになりました。当該登録制度は、2021年6月までに開始されますので、しばらく猶予があります。

なお、事業の規模が一定未満の場合には登録を要しませんが、本日(2020年10月30日)現在、登録を要しない事業規模について国土交通省は明らかにしていません(「200戸以上の賃貸住宅の管理については登録必要、200戸未満については登録不要とされる見込みである」旨の報道がなされていますが、確定しておらずご注意が必要です)。

第3 ①賃貸住宅管理業に係る登録制度

賃貸住宅管理業者(登録を受けて賃貸住宅管理業を営む者)として登録された場合には、主に以下の措置が必要となります。これまでの管理業務においても実施されていた項目も多いと考えられますが、賃貸住宅管理業法には違反時の罰則規定も規定されていますので、ご注意が必要です。なお、各制度の詳細については、今後施行される国土交通省令により具体的に定まることとなります。

ア 業務管理者の配置

営業所又は事務所ごとに、1名以上の賃貸住宅管理の知識・経験等を有する者を配置しなければならない

イ 管理受託契約締結前の書面交付による説明

委託者である賃貸人に対し、管理業務の具体的な内容・実施方法等について書面を交付して説明しなければならない

ウ 管理受託契約締結時の書面の交付

委託者である賃貸人に対し、管理業務の対象物件、実施方法、契約期間、報酬等について記載した書面を交付しなければならない

エ 財産の分別管理

管理する賃料、敷金、共益費等の金銭について、自己の固有の財産等と分別して管理しなければならない

オ 定期報告

委託者である賃貸人に対し、業務の実施状況等につき定期的に報告しなければならない

第4 ②サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に係る措置の創設

賃貸住宅管理業法においては、第三者へ転貸する目的で不動産所有者(オーナー)から賃借し、実際に転貸する事業(サブリース事業)におけるいわゆるマスターリース契約を「特定賃貸借契約」と定義し、特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者(いわゆるサブリース業者)を「特定転貸事業者」としています。

なお、賃貸住宅管理業法施行規則により、

・賃貸人が個人である場合に当該賃貸人の親族が賃借人となるとき

・賃貸人が会社である場合に当該賃貸人の親会社又は子会社が賃借人となるとき

・賃貸人が登録投資法人や特定目的会社であるとき

・賃貸人が信託受託者である場合に賃借人が当該信託の委託者や受益者であるとき

等の場合には、特定賃貸借契約には該当しないとされています。

そして、すでにご説明したとおり、サブリース事業の適正化を図る規律については、本年(2020年)12月15日より施行されますので、同日までに下記各対応(大きく5項目)の準備が必要となります(国土交通省が「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」を公表し、具体例を交えて詳細に説明していますので、ぜひご参照ください)。

ア 誇大広告等の禁止

いわゆるマスターリース契約の締結を促す広告において、オーナーとなろうとする不動産所有者が賃貸事業の経験・専門知識が乏しいことを利用し、メリットのみを強調し、賃貸事業のリスクを小さく見せる表示等を行うことが後を絶ちません。

そのため、賃貸住宅管理業法は、特定転貸事業者(サブリース業者)又は勧誘者(※3)が、特定賃貸借契約(マスターリース契約)に基づいて特定転貸事業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の維持保全の実施方法、特定賃貸借契約の解除に関する事項等について、著しく事実に相違する表示又は実際のものよりも著しく優良あるいは有利であるような表示を行う行為(誇大広告及び虚偽広告等)を禁止しています。

イ 不当な勧誘等の禁止

特定転貸事業者による、誤った情報や不正確な情報を用いた勧誘や強引な勧誘等、相手方の意思決定を歪めるような勧誘、同様の方法により契約の解除を妨げる行為により、オーナーとなろうとする多くの不動産所有者が被害を受けています。

そこで、賃貸住宅管理業法においては、

・特定転貸事業者又は勧誘者(※3)が、特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

・特定転貸事業者又は勧誘者による特定賃貸借契約に関する行為であって、オーナー等の保護に欠ける行為

について禁止しています。

※3 勧誘者とは、特定転貸事業者と特定の関係性を有する者であって、当該特定転貸事業者の特定賃貸借契約の締結に向けた勧誘を行う者を指します。

ウ 重要事項説明

上述のとおり、オーナーとなろうとする者は、賃貸住宅を賃貸する事業の経験・専門知識に乏しい者が多く、特定転貸事業者との間の情報格差は著しいものがあります。

そこで、オーナーとなろうとする者が契約内容を正しく理解した上で、適切なリスク判断のもと、特定賃貸借契約を締結することができるよう、賃貸住宅管理業法は、特定転貸事業者に対し、契約締結前に、オーナーとなろうとする者に書面を交付し、説明することを義務づけています。

なお、実際に説明する者の資格について、賃貸住宅管理業法に定めはありませんが、ガイドラインによれば、「一定の実務経験を有する者や賃貸不動産経営管理士など専門的な知識及び経験を有する者によって説明が行われることが望ましい」とされ、また説明のタイミング(時期)については、ガイドラインに「マスターリース契約の内容を十分に理解するための熟慮期間を与えることが必要である。そのため、マスターリース契約を締結するための重要な判断材料となる重要事項の説明から契約締結までに1週間程度の十分な期間をおくことが望ましい。」と具体的なスケジュールの記載がありますので、ご参考にしてください。

特定転貸事業者は、契約の相手方となろうとする者の承諾を得て、重要事項説明書に記載すべき事項を、書面ではなく電磁的方法(電子メール、WEB からのダウンロード、CD-ROMの交付等)により提供し、またテレビ会議を用いて説明することが可能となっています。

説明すべき重要事項とは、賃貸住宅管理業法施行規則に定められているところ、対象となる賃貸住宅、家賃の額、支払期日及び支払方法等の賃貸の条件、賃貸住宅の維持保全の実施方法、損害賠償額の予定又は違約金に関する事項、責任及び免責に関する事項、契約期間に関する事項等多岐に渡りますので、国土交通省が公表している重要事項説明書の雛型をぜひご参照し、漏れのないようご注意ください。

エ 特定賃貸借契約締結時の書面の交付

特定賃貸借契約は、家賃その他賃貸の条件、維持保全の実施方法や費用分担、契約期間、契約解除の条件等多岐にわたる複雑なものとなるため、契約締結後に契約内容や条件を確認できるよう、特定転貸事業者に対し、契約締結時に相手方に必要な事項を記載した書面を交付することを義務づけています。

なお、賃貸住宅管理業法及び同法施行規則に定める各事項が記載された契約書であれば、当該契約書をもってこの書面と扱うことができるところ、国土交通省が公表する特定賃貸借標準契約書には、各事項が漏れなく記載されているので、ご参考にしてください。

オ 特定転貸事業者の業務及び財産の状況を記載した書類の備え置き

特定転貸事業者に関する業務状況調書、賃借対照表及び損益計算書、又はこれらに代わる書面(貸借対照表、損益計算書などが包含される有価証券報告書又は商法上作成が義務付けられる商業帳簿等)を特定賃貸借契約に関する業務を行う営業所又は事業所に備え置き、特定賃貸借契約の相手方等の求めに応じ、閲覧させなければなりません。

第5 最後に

以上、本年(2020年)6月19日に公布された賃貸住宅管理業法をご説明いたしました。

繰り返しになりますが、同法のうち「②サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化に係る措置」につきましては本年(2020年)12月15日より施行されますので、国土交通省が公表しているガイドライン等を参考に、早急にご対応いただく必要がございます。

書面の記載内容等、個別のご相談につきましては、弊所不動産チームまでいただければと存じます。


この記事に関するお問い合わせ、ご照会は以下の連絡先までご連絡ください。

松田綜合法律事務所
不動産チーム
弁護士 佐藤康之
弁護士 白井潤一
info@jmatsuda-law.com

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電話:03-3272-0101 FAX:03-3272-0102

この記事に記載されている情報は、依頼者及び関係当事者のための一般的な情報として作成されたものであり、教養及び参考情報の提供のみを目的とします。いかなる場合も当該情報について法律アドバイスとして依拠し又はそのように解釈されないよう、また、個別な事実関係に基づく日本法または現地法弁護士の具体的な法律アドバイスなしに行為されないようご留意下さい。

 

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