Legal Note

リーガルノート

2020.09.11

2020-10-2 中国の社会信用システム構築

M&P Legal Note 2020 No.10-2

中国の社会信用システム構築

2020年8月4日
松田綜合法律事務所
中国弁護士 徐 瑞静

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第1 はじめ

できる限り、子供に良い学校に通わせ、良い教育を受けさせることが、世間一般の親の願いであることは否定できません。しかし、親が経済的に困窮している場合には、子供に費用の掛かる私立学校へ通学させることはできません。その点について、中国において、親が財産事件の被執行人で、経済的信用が失墜している場合には、非常に明瞭な現実となっています。蓋し、「最高人民法院の被執行人の高消費制限に関する若干規定」第3条により、父母が被執行人で消費制限措置を講じられた後は、通常の義務教育と高等教育の場合を除き、子供に学費の高額な私立学校に通わせることはできないと規定されているからです。ここで、「学費の高額な私立学校」というのは、二つの特徴があり、一つは、費用が普通の学校より高いこと、もう一つは、被執行人がこの費用を支払うということです。

上述の例に見られるような法律の強行的執行性を背景とする信用失墜執行案件は、中国政府が推進する「社会的信用システム構築」という政策の具体的な一例に過ぎません。近年、行政機関による連携奨励・懲戒制度の確立に伴い、中国における社会信用システム構築が変革された結果、国民における信用確保のためのコストが高くなっていることが看取されます。
以下においては、中国国家政策となっている「社会的信用システム」について説明します。

第2 国家による社会的信用システム構築の実施

1、社会的信用システム構築の綱要

2014年、中国政府は、「社会的信用システム建設計画要綱(2014―2020年)」を公布し、社会的信用システム構築を目標として、2020年までに社会的信用システムを構築し、法令、信用調査のネットワークを確立することにより、社会全体における信用及び評判を高め、信用を守ることを奨励し、信用を失うことを懲戒する仕組みを構造すること表明しました。

2、信賞必罰制度の確立

2019年、中国政府は、「社会的信用システムの整備を加速し、信用をベースとする新型監督管理メカニズムの構築に関する指導意見」を公布して、信用を分類し、国民の信用レベルに見合った行政サービスの供給を行うことを表明しました。例えば、信用力の高い企業に対しては、通常の生産・経営に影響を与えない範囲内において、ランダム抽出調査の頻度の比率を下げるとする一方、信用が失墜し、信用力の低い企業に対しては、その比率を高め、もって、法に基づき厳重に管理し、さらに、懲戒することとしています。

3、各行政機関による信用認定及び連携協力

(1)信用認定
以下の管轄行政機関は、それぞれ、次に掲げるリストないし信用評価基準に基づいて、企業の運営に対する監督・管理体制を執るものとされています。
・最高人民法院:信用失墜被執行人(企業を含む)リスト
・工商総局:企業経営異常・厳重違法信用失墜リスト
・税関総署:高級認証企業・信用失墜企業・信用情報異常企業リスト
・国家市場監督管理総局:企業製品出入国検査・検疫信用基準
・商務部:企業対外投資合作・貿易領域不良信用記録

(2)連携協力
各行政機関は、奨励・懲戒の方法により、社会的信用を監督管理します。例えば、国家工商管理総局が執行する企業年度報告公示制度について見れば、企業は、全国企業信用情報公示システムを通じて、規定期間内(毎年1月1日から6月30日まで)に工商管理局へ年度報告を提出します。社会に開示された年度報告は、株主・発起人の出資、企業の資産、納税、従業員の保険加入、対外担保などに及びます。

企業が年度報告期間内に年度報告情報を公示しない場合には、工商管理局が企業を経営異常名簿に記載します。また、3年以内に年度報告公示を履行した場合には、企業は正常記載状態への回復を申し立てることが認められますが、3年以上に亘って年度報告公示を履行しない場合には、工商管理局が当該企業を永久に厳重違法企業リスト「ブラックリスト」に記載します。つまり、ブラックリストに記載された企業は、市場から追い出されることになります。

企業からの年度報告書の記載に虚偽があった場合には、工商管理局からの行政処罰を受けることとなり、かつ、その処分の結果は、法定代表者や責任者の情報を含め、工商管理局から公安、税関、税務、外貨管理その他の行政機関へ知らされます。このように、各行政機関は情報を共有し、共同管理監督を施す仕組みが形成され、そのような管理監督のもとに、場合により、企業は、関連市場、業界、公共政策へ参入することを禁止されるか若しくは制限を受けることになります。

4、信用回復システム

2019年、中国政府は信用回復に関する法令の整備に注力することを表明し、それに呼応して、各行政機関は信用失墜企業の信用回復システムの確立に着手しました。例えば、国家税務総局においては、2020年1月1日より、以下のように、納税信用失墜企業に対する信用回復システムを施行しています。すなわち、国家税務総局は、情状が軽微で、社会に悪影響を与えていない納税信用失墜行為、及び、それに相応する回復条件を明確し、条件を満たす納税者に対して、納税信用の回復の申請を認めました。この納税信用の回復の手続は、「申請→受理→フィードバック→回復」の四つの手順に従い、まず、税務機関に納税信用回復申請を提出する納税者は「納税信用回復申請書」を記入し、信用失墜行為を是正することを承諾します。税務機関は納税信用回復申請を受理してから15日間以内に審査を行い、納税者に信用回復の結果をフィードバックします。納税信用の回復が完了してから、納税者は回復された納税信用レベルに応じて相応の税収政策とサービスを受けることになります。企業が以前に適用されていた税収政策とサービスには遡及されません。因みに、ブラックリストに記載された企業のペナルティが大きく、信用失墜記録の類型により、信用回復は不可(市場からの駆逐)とされるか、または、回復申請を認める法定期間に違いが生じることとされています。

第3 社会に由来する信用スコア――芝麻信用(Zhima Credit)の例

中国政府が強制執行案件、行政処罰を社会に開示する監督管理の施策により、社会的信用システムの構築を推進しているのに対して、市民は、商業化された社会的信用サービスの利用により、個人の信用がもたらす利便性を実現しています。

もとより、中国の信用スコアについては、統一された資料源と計算方法はなく、従って、プラットフォームとして、自社が保有するデータを利用して大まかに信用評価を行っていますが、例えば、モバイル決済会社であるアリペイの芝麻信用(Zhima Credit)は、自社保有のネット販売業務・金融商品・クラウドなどの業務システムにより、豊富なユーザーデータを保有していたため、これらのデータを活用して芝麻信用スコアを創りました。アリペイの芝麻信用は、ユーザーの信用歴(クレジット、取引履歴)、行為の偏向性(ショッピング、支払いの好みと頻度)、履行能力(サービスの利用と履行状況)、身分特徴(年齢、学歴、職業、購入履歴における個人情報の真実性)、人脈関係(交友関係、友人の身分・信用状況)からユーザーの個人的信用をスコアします。そして、スコア区分により、ユーザーはローンの借入金利、ビザ申請、保証金免除、無料利用などの異なる優遇サービスを受けられ、ユーザーの取引先や金融機関は、サービスを提供する際、ユーザーの信用スコアを参考として、その提供の内容を決定します。因みに、アリペイの芝麻信用スコアは、旅行、宿泊、金融、公共事業などの幅広い分野に跨って運用されています。

第4 最後に

先賢は、人間性について、対照的な善と悪の二つに類別しています。どちらが絶対的に正しいか、ここで明確に断言することは極めて困難ですが、少なくとも社会的信用というものは、何らかの可視化されたもの(例えば、素行行為、与信調査、評判など)に基づいて判断されることができます。中国における社会的信用システムは、デジタルネットワークを通じて、客観的かつ冷静な方法をもって、企業や個人の社会的信用をデータ化しており、それ相応の合理性を有するものと評価されるべきであると考えられます。

 


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