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リーガルノート

2020.09.11

2018-7-1 園内事故と安全管理 ~平成29年園内事故統計版~

M&P Legal Note 2018 No.7-1

園内事故と安全管理 ~平成29年園内事故統計版~

2018年9月1日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月 泰頼

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1    はじめに

内閣府子ども・子育て本部が平成30年5月28日に「『平成29年教育・保育施設等における事故報告集計』の公表及び事故防止対策について」[i]を公表しましたので、園内事故に関する最近の傾向について解説いたします。

なお、園内事故の法的責任については、当職のニュースレター「保育施設における重大事故の法的責任と安全管理」(2015年4月6日)[ii]をご覧ください。

2    園内で発生した死亡事故の推移

教育・保育施設等での児童の死亡事故は、最近は、表1のとおり減少傾向にあります。

【表1.死亡事故の推移】

こども園 認可 認可外 保育

事業

合計
H25 4件 15件 19件
H26 5件 12件 17件
H27 1件 2件 10件 1件 14件
H28 0件 5件 7件 1件 13件
H29 1件 2件 1件 4件 8件

*保育事業…小規模/家庭的/病児保育事業

このように死亡件数が減っているのは、表2のとおり、睡眠中の死亡事故が大きく減少しているからです。特に、表3を見ると顕著ですが、睡眠中の死亡事故で「うつ伏せ寝」で発見された事例が大きく減少しており、あおむけ寝の徹底が死亡事故の減少に寄与していると考えられます。

【表2.死亡事故発生時の状況の推移】

睡眠中 プール

水遊

食事中 その他 合計
H25 16名 3名 19名
H26 11名 6名 17名
H27 10名 0名 1名 3件 14件
H28 10名 0名 0名 3名 13件
H29 5名 1名 0名 2名 8件

*H25とH26の統計では、「睡眠中」と「その他」の区分しかなく、プール事故や食事中の事故が発生していたのか不明である

【表3.睡眠中の死亡事故で「うつ伏せ寝の数」】

認可保育所 認可外保育所 合計
H25 2名 7名 9名
H26 0名 4名 4名
H27 0名 6名 6件
H28 2名 2名 4件
H29 0名 1名 1件

なお、表2のとおり、依然として睡眠中に死亡事故の多くが発生している事実に変わりはありません。保育従事者は、児童の午睡の時間帯について、デスクワークに充てられる時間という認識を改め、死亡事故が一番多く発生している時間帯であることを再認識すべきです。保育事業者も、職員採用・配置において、これら事実を十分に認識して運営していくべきでしょう。

平成30年2月に公表された「保育所保育指針解説」[iii]では、以下のとおり、睡眠中に実践すべき事項が定められています。

乳児の睡眠中の窒息リスクの除去としては、医学的な理由で医師からうつぶせ寝を勧められている場合以外は、子どもの顔が見える仰向けに寝かせることが重要である。睡眠前には口の中に異物等がないかを確認し、柔らかい布団やぬいぐるみ等を使用しない、またヒモ及びヒモ状のものをそばに置かないなど、安全な睡眠環境の確保を行う。また、定期的に子どもの状態を点検するなど、異常が発生した場合の早期 発見や重大事故の予防のための工夫が求められる。子どもを一人にしな いこと、寝かせ方に配慮すること、安全な睡眠環境を整えることは、窒息や誤飲、怪我などの事故を未然に防ぐことにつながる。

3    園内で発生した骨折事故の推移

次に、教育・保育施設等での児童の骨折事故は、以下のとおり、かなりの増加傾向にあります。

【表4.骨折事故の推移】

こども園 幼稚園 認可 認可外 保育

事業

合計
H25 104件 3件 107件
H26 124件 9件 133件
H27 13件 12件 266件 2件 0件 293件
H28 62件 17件 368件 6件 1件 454件
H29 69件 21件 587件 4件 5件 686件

*保育事業…小規模/家庭的/病児保育事業

骨折事故については、上記のとおり、毎年1.5倍ずつ増えているようにも見えますが、発生数が増えていると考えるよりも、事故の報告制度が整えられてきていることから、覚知件数が増えていると考えるべきでしょう。

表4を見ると、かなりの骨折事故が発生していることがわかります。例えば、認可保育所で見ますと、平成29年4月時点で23,410か所あり、平成29年内に骨折事故が587件発生していることから、1年でみると約40か所に1件の割合で骨折事故が発生していることになります。

骨折事故は、高所からの落下、衝突、転倒、挟み込みが主な原因です。普段から、児童の性格や特徴を見極め、場面に応じた事故を予想しながら、見守りをすることが重要となります。

4    安全管理

(1)リスクマネジメント

園内の安全管理を徹底するには、リスクマネジメント[iv]を十分に行うことが必須であり、これを実施することで重大事故を避けることができ、運悪く事故が発生した場合でも、刑事責任及び民事責任を最小限に抑えることができます。

どのような事故であれ、予想できない事故や不可避的な事故の法的責任は発生しません。そして、発生した事故が不可避的な事故であったことを保護者に納得してもらうためには、やはり普段からリスクマネジメントを実施していくことが有効です。

(2)安全管理対策

リスクマネジメントの一環としては、ヒヤリハット報告の徹底と利用、各施設における安全管理員会の設置、施設独自の安全管理マニュアルの作成、緊急事故対策訓練、過去の事故事例による定期研修などが有効です。

これらの具体的なリスクマジメントを地道に行い、「児童の安全と安心」に真正面から取り組むことで、初めて児童の安全・安心に取り組む文化・風土を培うことができるようになります。今まで大きな事故なく運営できたからという油断が一番怖いと思います。

行政やコンサルタントから提供を受けた安全管理マニュアルを施設に備え置いても、自ら進んで棚から取り出して読む職員は、ほとんどいないと思います。回覧に回してチェックさせても、分厚いマニュアルを本当に読んで身に着けたといえるでしょうか。

形式的な安全管理を整備した後は、いよいよ実質的な安全管理、すなわち児童の安全確保に向けた組織的な取り組みと役職員の意識・経験・知識の向上に取り組まなければなりません。

(3)緊急事故対応訓練と安全管理マニュアルの改訂

弊所では、安全管理のため、様々な取り組みのお手伝いをさせて頂いておりますが、その中でも、「緊急事故対応訓練」と「安全管理マニュアルの改訂」は、是非とも取り組んでいただきたい対策として、お勧めさせて頂いております。

保育・幼稚園関連のお手伝いをさせて頂くようになり、不思議に感じていましたが、どこの園でも、災害時の緊急避難は定期的に実施するのに、なぜか重大事故の訓練は全くされていません。災害よりも重大事故の方が起こり得るのに、命にもかかわる事態であるのに。

この緊急事故対応訓練は、事故のシミュレーションであり、実際に起こりうる事故を想定して、職員間において、職員連携、119番通報、心肺蘇生、AED、他の園児の対応、保護者対応などを練習するものです。

この緊急事故対応訓練を企画・実施・反省をすることで、いかに役職員が重大事故に対応できていないかが身に染みて理解できますし(おそらく、119番通報では、園の住所や目印も言えないと思います。)、その後の対策も具体的に採ることができます。

そして、この訓練をすれば、自園の安全管理マニュアルがいかに実際の使用に耐えないものであるかが認識できるかと思います。

そこで、職員自ら、安全管理マニュアルのうち、自園では適当ではない部分を適宜改訂していくことで、安全管理を実質的に身に着けることができます。

筆者は、園に行って安全管理マニュアルを見させて頂く場合、まず改訂履歴を確認します。改訂履歴が多ければ多い程、そのマニュアルは実践的なものであり、職員たちが本気で考えて身に着けていることが容易に想像できるからです。

5    小括

今回は、内閣府子ども・子育て本部の事故統計が公表されたことに伴い、保育事故全般について解説しました。紙面の関係で安全管理のさわりの部分しか解説できませんでしたが、弊所で発刊した下記書籍に具体的に記載してありますので、是非、ご参考にしてください。

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著者:岩月泰頼・菅原清暁/編著
判型:A5判
ページ数:252頁
発刊年月:2018年4月
定価:2,484円 (税込)
ISBN/ISSN:978-4-8178-4469-9

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[i] http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/pdf/h29-jiko_taisaku.pdf#search=’%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%99%E5%B9%B4+%E4%BF%9D%E8%82%B2+%E4%BA%8B%E6%95%85+%E7%B5%B1%E8%A8%88′

[ii] https://jmatsuda-law.com/info/dl/news/2015_02_03.pdf

[iii] https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000202211.pdf#search=’%E4%BF%9D%E8%82%B2%E6%8C%87%E9%87%9D’

[iv] リスクマネジメント:①リスクの把握、②リスクの分析・評価、③対策の実行、④リスクの再評価を行うことであり、園内でのヒヤリハットの把握、事故事例の収集・分析、対策の実施と保育者の指導等を具体的に行っていく必要がある。

 


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