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2020.09.11

2018-3-1 ウェブ上でのITサービス立ち上げの注意点④(資金決済法関連/為替取引に関して)

M&P Legal Note 2018 No.3-1

ウェブ上でのITサービス立ち上げの注意点④(資金決済法関連/為替取引に関して)

2018年4月2日
松田綜合法律事務所
弁護士 佐藤 智明

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第1 はじめに

前回は、“お金を送金する”ことに関して、法律や判例を踏まえて少し掘り下げましたが、今回は実際の具体的サービスや既存の決済方法などに焦点を当てていきたいと思います。

第2 具体的サービス

1 最近のニュース

送金に関する最近のニュースで、いわゆる投げ銭サービスと呼ばれる形態をとる「Osushi」というサービスが、その提供を開始するとほぼ同時にサービス提供を停止する、という事例がありました(2018年2月2日付 「ITmedia NEWS」。
URL:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1802/02/news090.html)。

投げ銭サービスとは、インターネット上で、特定のクリエイターやエンジニアなどの個人に向けて、お金を送金することができるサービスです。実際のサービスにおいては、お金の代わりに何らかの符合や表象などが用いられており、ユーザーがお金を送るという行為について、意識やハードルを低くする工夫がなされていたりします。Osushiも、そのような投げ銭サービスとして、ユーザーがブロガーなどの個人に向けて、お金を寄付できるサービスであり、個人間での送金することを可能とするものだったようです。このようなサービスは。実際にお金を送金するものである以上、為替取引に該当し、前回触れた資金移動業者に該当する可能性が高いといえます。

2 その他の話題のサービス

(1) 送金サービス

送金を行えるサービスには、現在、様々なものがあります。その中で話題になった個人間における送金サービスとして、AnyPay株式会社が提供している「paymo」(以下「ペイモ」)という割り勘アプリがあります。ペイモには、割り勘サービス以外に商品売買ができる機能もありますが、ここでは割り勘サービスの方に焦点を当ててみたいと思います。

また、個人間での送金や集金ができるサービスとしては、株式会社Kyashが提供している「Kyash」(以下「キャッシュ」)というサービスもあります。

(2) ペイモの位置づけ

ペイモは、ペイモのサービスに対応している飲食店等において、複数人で食事や飲み会をしたときに、友人との割り勘ができるサービスであり、次のような流れで個人間での決済、送金が行われます。

支払いを担当したユーザー(=「代表者」)が、店舗に対し全額の支払を行い、そこで割り勘対象となる会計のレシートを撮影したうえで1人あたりの支払額を入力し、割り勘を行う友人等(=「友人等」)に支払い依頼をすれば、その依頼を受けた友人等が各自の支払い分の支払いを行うことができる。その後、代表者は、友人等から支払われた金額について、現金として引き出すことも、別の支払いに利用することも可能となっています。

以上のような、お金の流れを見ると、判例の定義からすれば、資金移動業としての登録が必要な為替取引に一見該当するようにも思われます。

しかし、ペイモにおいては、以下のような整理が利用規約上もなされています。

①事業者が代表者から代理受領権を取得したうえで

②割り勘支払いの依頼分の金員を友人等から受領し

③そこで受領した金員を代表者に引き渡す、

このような立てつけの場合、いわばペイモの運営者事業者に支払われた②の時点で、割り勘支払いをしたユーザーの債務は完了しているため、ペイモでは送金サービスを行っているわけではない、と考えることも可能です。また、事業者は友人等から代表者への送金依頼を受けているわけでもありません。

つまり、ペイモは割り勘サービスについて、いわゆる“収納代行業者”として、上記のサービスを営んでいるということができるため、為替取引には該当しないものといえます。

(3) キャッシュの位置づけ

キャッシュは、株式会社KyashのHP上での説明によれば「コンビニやペイジー(銀行)経由でチャージを行うか、お持ちのクレジットカード・デビットカードを登録することで、誰にでもかんたんに送金」ができるサービスとされています。

具体的には、以下のような流れで個人間送金を実現しているようです。

①「kyash」と呼ばれる、支払手段として機能し、譲渡性のある“価値”を、購入したユーザーが

②その保有する“価値”を、他のユーザーに移転する

①のうち、支払手段として機能する部分は、いわゆる「前払式支払手段」に該当します(「前払式支払手段」については、前々回の「M&P Legal Note 2017 No.1-1ウェブ上でのITサービス立ち上げの注意点②(資金決済法関連/LINE Payを参考に)」もご参照ください。)。キャッシュは、この前払式支払手段を他人に譲渡することで、個人間における送金という目的を達成しようとするサービスといえます。

前払式支払手段においては、現金による払い戻しは原則として禁止されており、Kyashの払い戻しも禁止されているようです。

そのため、あくまでキャッシュは、前払式支払手段の譲渡がされているに過ぎず、譲渡を受けたユーザーにおいても現金で引き出すことは不可能であり、判例のいう為替取引の定義からは外れることとなります。

3 既存の決済方法等

(1) 収納代行、代金引換

上記のとおり、ペイモは、収納代行業者にあたるため、為替取引には該当しないとご説明しました。

この点に関して、平成13年判例の示した「隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」という、為替取引についての定義を踏まえた場合、収納代行や代金引換などのサービスについては、どのような位置づけや議論がされているかも簡単に触れたいと思います。

前回も少し触れましたが、平成13年判例だけを踏まえると、収納代行や代金引換などについても、規制対象と解釈することも不可能ではないと考えられます。

この点、金融庁が公表している「金融審議会金融分科会第二部会 決済に関するワーキング・グループ 報告」11頁以下においては、「サービスの提供者(債権者)への支払人(債務者)が行う支払の受取りであり、その後、収納代行業者が受け取った資金を債権者へ送付することは別の行為であって為替取引に該当しない」という意見や、「判例は広く為替取引をとらえており、収納代行サービス等が対象とならないとは解されないとの意見」など、いろいろな意見が出されており、必ずしも明確な切り分け方がされた見解は出されていません。

そのため、実際のサービスが為替取引に該当するか否かは、個別具体的に判断せざるを得ないものといえます。

(2) 考えられるメルクマール

上記の決済に関するワーキング・グループの報告内容における議論を見る限り、事業者の“受領権限”を軸にして、為替取引に該当するか否かの分岐点となるかのような議論がなされていると読み取れる部分があります。

そこでは、為替取引の規制が不要という考え方の文脈として、支払人保護の観点では、事業者に受領権限があることで支払人の二重払いの防止が図られることが多いことが挙げられ、受領権限を事業者に授与する依頼人保護の観点では、事業が破綻すると依頼人に資金が渡されない場合が生じ得るが、依頼人は、事業者の選択や契約解除等によって危険をコントロールしうるため、事業者に滞留する間の資金保全の必要性は高くないことなど、が挙げられています。

実際にも、上記のペイモを含めて、事業者に代理受領権限があるという立てつけで行われている送金サービスは数多くあります。そして、これらの送金サービスが、問題視されている例が、現状あまり見受けられないことを踏まえると、送金サービスが為替取引に該当するか否かを判断するにあたっては、受領権限が一つのメルクマールになると考えることができます。

第3 まとめ

以上、具体的なサービスなどを見ながら、為替取引として規制される範囲をイメージできるように説明をしてきました。

これまで触れてきたとおり、為替取引に該当すると、資金決済法や犯罪収益移転防止法など種々の規制がかかってきます。そのため、実際にサービスの仕組みを設計するにあたっては、規制に正面から向き合うのか、規制に抵触しない形でサービスを設計するのかなどを、しっかりと検討する必要があるでしょう。

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