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2020.09.11

2018-1-1 ウェブ上でのITサービス立ち上げの注意点②(資金決済法関連/LINE Payを参考に)

M&P Legal Note 2018 No.1-1

ウェブ上でのITサービス立ち上げの注意点②(資金決済法関連/LINE Payを参考に)

2018年2月1日
松田綜合法律事務所
弁護士 佐藤 智明

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第1  資金決済法について

前回(「ウェブ上でのIT サービス立ち上 げの注意点①」)示した以下の法律のうち、今回は、資金決済法とこれに関する話題に触れたいと思います。

  • 消費者契約法
  • 不当景品類及び不当表示防止法(「景表法」)
  • 特定商取引に関する法律(「特商法」)
  • 個人情報保護法
  • 資金決済法

1 資金決済法の概要

資金決済法で、規制されている類型は、大きく分けて以下の2つがあります。

1つ目は、前払式支払手段と呼ばれるものです。詳細は後述しますが、簡単にいうとお金を予め支払って購入した何らかの証票等をもって、サービスや商品の購入に充てることができるものをいいます。例えば、電子マネーや有償で購入できるポイント、商品券、プリベイドカードなどがこれにあたります。

2つ目は、資金移動です。これは、銀行以外の者が為替取引(この意義については後述します)を行うことについて規制しているものです。

2 具体的なサービスの状況

様々な商材が取引されているウェブ上でのITサービスにおいては、そのニーズに合わせて様々な送金・決済手段が用いられています。

資金決済法の規制対象になると資産保全義務等が課されることになるため、その適用の有無は会社にとっては、重要な関心事といえるでしょう。近年は様々なスキームが考案されており、各種ビジネス書などでも多くのスキームが紹介されています。今回は、資金決済法の解説をするうえで、同法の適用を正面から受けているサービスである「LINE Pay」を例に説明をしたいと思います。

LINE Payは、ホームページによると「LINE(iPhone/Android)を通じてユーザー間での送金や、提携サービス・店舗での決済を簡単・便利に行うことができるモバイル送金・決済サービス」とされています(2014年12月16日付ニュース)。LINE Payには様々な機能がありますが、今回、以下の機能に絞り、資金決済法との関係性を説明します。

① LINE Payにお金をチャージすることができる機能(「チャージ機能」)

② チャージにより表示された金額相当額で買い物に利用することができる機能(「決済機能」)

③ 「友だち」に送金をすることができる機能(「送金機能」)

第2 資金決済法が規制する類型

第1で述べたとおり、資金決済法で規制されている主たる類型として、前払式支払手段と資金移動があります。

以下では、それぞれの規制対象となるのはどのようなケースかを説明しながらLINE Payのサービスがどちらの規制に該当するのかに触れ、そのうえでそれぞれの規制内容を簡単にご説明したいと思います。

1 前払式支払手段

  • 適用対象

前払式支払手段とは、次の3つの条件を備えるものをいうとされています(高橋康文編著『逐条解説資金決済法〔増補版〕』65頁以下)。

  • 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)
  • 金銭・数量等に応ずる対価を得て発行される証憑等、番号、記号その他のものであること(対価発行)
  • 代価の弁済等に使用されること(権利行使)

1点目の価値の保存については、「金額等」とあるように金額で表示される場合と、物品の数量で表示される場合(ビール券、ガソリン券など)があります。

2点目の対価発行でいうところの「対価」は、典型的には現金ですが、それに限られず財産的価値があるものはすべて含まれます。例えば、この要件を充足する有償で発行されたポイントがあるとした場合、このポイント交換で発行される電子マネーがあれば、直接的にはお金の入金がないものの対価を得て発行されているといえます。ただし、ECサイトなどでよく見られる、サービス利用のおまけとして付与されるポイントなどは、発行と対価との間に直接的な対価性がないため、この条件からは外れます。

3点目の権利行使は、対価を得て発行された財産的価値を商品役務の支払い等に使用することを意味します。

この前払式支払手段には、「第三者型」と「自家型」という2種類があります。両者の違いは、保存された財産的価値の使用範囲です。使用範囲が、発行者(または発行者と密接な関連性を有する者)からの商品・役務の購入等の範囲に限られていれば、それは自家型に該当します。自家型の前払式支払手段の場合には、基準日(毎年3月31日と9月30日)において、その未使用残高が1000万円を超えるときのみ、資金決済法の適用対象となります。第三者型とは、自家型以外のものをいいます。

第三者型前払式支払手段を発行する業務を行うためには、所管の財務局長の登録が必要となり、自家型前払式支払手段を発行するもののうち未使用残高が1000万円を超えているときは、財務局長等への届出が必要となります。

  • LINE Payの該当性

LINE Payの①チャージ機能と②決済機能は、チャージしたことで表示されるLINE Pay上の価値を、コンビニやスーパー、インターネットショッピング、飲食店など様々な場面で使用することができるものです(これらの店舗等を「加盟店」といいます)。そのため、LINE Payは、第三者型前払式支払手段ということになります。

  • 適用除外

発行される財産的価値の有効期間が6か月内に限定されている場合、資金決済法の適用が除外されます。そのため、有効期間を6か月内とする形でのサービスを設計することも考えられます。ただし、iOS上のアプリなどでこの種のサービスを提供する場合は、「App Store審査ガイドライン」において、有効期限を設定することができない旨定められていることに注意が必要です。

  • 登録業者への主な規制内容

前払式支払手段発行にあたっては、利用者が前払式支払手段発行者に対して信用を供与することとなることから、利用者を保護する必要性があるため、法は前払式支払手段発行に対して、情報提供義務を課しています。

また、前払式支払手段発行者には、資産保全義務が課されています。具体的には、基準日における未使用残高が1000万円を超えるときは、その2分の1位の額以上の資産を供託等によって保全することが義務付けられています。保全の方法としては、供託のほか、銀行などの金融機関との間で発行保証金保全契約を締結することなどにより、これを行います。

また、出資法の預り金規制や、後述する為替取引の観点から、前払式支払手段の払い戻しは原則として禁止されています。

2 資金移動業とは

  •  適用対象

銀行等以外の者が為替取引を業として行う場合が、資金移動業に該当します。

判例によれば、為替取引とは、「隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」とされています(最決平成13年3月12日刑集55巻2号97頁)。

  • LINE Payの該当性

LINE Payの③送金機能は、サービスに加入しているユーザー等との間で、直接現金を輸送せずに、資金を移動する仕組みを利用して財産的価値の移転を行っているため、為替取引に該当することになります。

  • 規制内容

資金移動業として営むことができるのは、100万円以下の取引に限定されています。

資金移動業者の資産保全義務としては、送金途中の滞留している資金と同額(100%)以上の資産保全が義務付けられています。

また、前払式支払手段と同じように情報提供義務が課されるほか、資金移動業者は犯罪収益移転防止法上の特定事業者として本人確認義務や疑わしい取引の届出義務等が課されています。

第3 まとめ

今回触れたのは前払式支払手段と資金移動業ですが、資金決済法では、仮想通貨についても規制しています。仮想通貨は、社会的関心度も高い分野ですが、法律上は規制が始まったばかりの分野であり規制範囲や規制内容についても、まだまだ議論の余地がありうるところです。

 

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