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2020.09.11

2017-4-2 食品事業者の法務(2) ~メニュー偽装/誤表示と景品表示法~

M&P Legal Note 2017 No.4-2

食品事業者の法務(2) ~メニュー偽装/誤表示と景品表示法~

2017年4月30日
松田綜合法律事務所
弁護士 岩月泰頼

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第1 はじめに

平成26年7月に総務省統計局が実施した経済センサス-基礎調査によれば、平成26年7月時点の宿泊業・飲食サービス業は、全国で75万事業所を超えます。飲食店におけるメニューは、消費者の購入意欲を掻き立てる重要な情報ですが、他方、メニューの偽装/誤表示の事件も後を絶ちません。そこで、本稿では、宿泊業・飲食サービスにおけるメニュー偽装/誤表示と景品表示法について、事例で解説をします。

平成25年10月22日、株式会社阪急阪神ホテルズ(以下「阪急阪神ホテルズ」という。)は、社内調査に基づいて、グループ内の複数のホテルにおいてメニュー表記と異なる食材を提供していることを公表しました。このメニュー偽装問題に端を発し、全国各地のホテル、百貨店、レストランにおいても同様の食品偽装が発覚することとなり社会問題化しました。

そして、このような背景を受け、景品表示法にも課徴金制度が導入され、平成28年4月1日から施行されることとなりました。

第2 事案の概要

第三者委員会が提出した報告書によれば、阪急阪神ホテルズは、平成24年7月1日から平成25年7月4日までの間、下記一覧表のとおり、メニューなどの表示媒体に記載した表示内容とは異なる食べ物を提供し、メニュー偽装表示を行いました(一部)。

媒 体 表 示 提供物
メニュー 「有機野菜のプチサラダと前菜2種盛合せ」と表示 プチサラダに、有機農産物の定義に該当しない野菜
パンフレット 「芝海老とイカの炒め物」と表示 芝海老よりも安価なバナメイエビ
チラシ 「ビーフステーキ フライドポテト添」と表示 牛脂その他の添加物を注入した加工食肉製品
チラシ 「若鶏の照り焼き 九条ねぎのロティと共に」と表示 九条ねぎよりも安価で取引されている青ネギ・白ネギ
メニュー 「手作りチョコソースとあわせてどうぞ」と表示 市販の業務用チョコレートソースを使用

第3 景品表示法

消費者庁長官は、前記メニュー偽装が景品表示法第5条1項1号(実際は改正前の旧景品表示法を適用)に該当するとして、阪急阪神ホテルズに対し、同法第7条に基づいて措置命令を行いました。

1 景品表示法第5条1項1号

違法である、いわゆる「優良誤認」の条文の要件は以下となります。

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示・・・す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」表示をしてはならない。

2 「商品又は役務の品質、規格その他の内容」

上記の要件のうち、「商品又は役務の品質、規格その他の内容」について、品質と規格は、例示なので、商品又は役務の内容に関するものであれば幅広く対象となりうると解されています。また、「品質」とは、商品に関する成分や属性のことであり、「規格」とは、国、公的機関、民間団体等が定めた一定の要件を満たすことで自動的にまたは認証等を経て特定のマーク等でその旨を表示できるものをいうと解されています。そして、「その他の内容」には、品質や規格のように商品又は役務そのものに直接関わるものに限られず、品質や規格に間接的に影響を及ぼす、原産地、製造方法、考案者、受賞の有無、保証の有無、有効期限等も含まれると解されています。

上記一覧表のうち、番号1は、日本農林規格をクリアすることでJASマークを付けることができることから「規格」に関する表示、番号3は肉の「品質」に関する表示、番号2、4,5は品種や製造方法に関わることから「その他の内容」に関する表示といえます。

3 「実際のものよりも著しく優良であると示す」

次に、「実際のものよりも著しく優良であると示す」表示か否かは、表示を行う側である業界の慣行や表示を行う事業者の認識によって判断するのではなく、一般消費者の誤認を招くか否かという観点から判断されます。したがって、例え表示内容と実際のものが科学的に等価であるとか、いずれが優良か判断できない場合であっても、一般消費者にとって実際のものよりも著しく優良であると認識される表示が行われれば不当表示となります。「著しく」がどの程度をいうのかについては、数量的な多・少の問題ではなく、その誤認がなければ誘引されることがほとんどなかったであろうということが客観的に認められる程度の誇大表示を指す、と解されています[1]

しかし、このような基準で「実際のものよりも著しく優良であると示す」表示か否かを判断するとしても、ある飲食物を購入するか否かの判断基準は個人差も大きくその判断には難しい側面があることは否めません。上記一覧表のうち、番号1~3については、メインの材料の規格・品種・製造方法を偽装しており一般消費者にとって誤認がなければ誘引されることがほとんどなかったと比較的言いやすいと認められます。しかし、番号4、5については、添え野菜の種類あるいはチョコレートソースの製造方法の誤認がなければ誘引されることがほとんどなかったとまでいえるのか疑問なしとしません。

4 措置命令

消費者庁長官は、平成25年12月19日、上記メニュー偽装表示について、景品表示法第5条1項1号に違反する不当な表示を行ったとして、阪急阪神ホテルズに、同法第7条に基づき、下記の命令をしました。

1 上記食品偽装表示を行っていたこと、当該表示は一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であると示すものであり景品表示法に違反するものであることを、速やかに一般消費者に周知徹底しなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ消費者庁長官の承認を受けなければならない。

2 上記料理又は同種料理の取引に関し、上記食品偽装表示と同様の表示が行われることを防止するために必要な措置を講じ、これを役員及び従業員に周知徹底しなければならない。

3 今後、上記料理又は同種料理の取引に関し、上記食品偽装表示と同様の表示を行うことにより、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示をしてはならない。

4 上記1の周知徹底及び上記2の措置について、速やかに文書をもって消費者庁長官に報告しなければならない。

第4 まとめ

メニューの偽装表示の動機は、主に、仕入れ価格を安価に抑え利益を確保することですが、当然ながら、これは消費者を騙すことになります。

上記事件を発端としてメニュー偽装は社会問題化し、零細企業から大手企業に至るまで、メニュー偽装/誤表示をしていたことが明るみに出ました。

このような行為が蔓延していた背景には、おそらく、安価であっても「食材が安全でおいしい」から問題ないという安易な気持ちがあったのではないかと推測します。前回のニュースレターで解説した「食品の『安全』と『安心』」のうち、「安心」に対する配慮が欠けていたように思えます。

消費者は、飲食店で料理を頼むとき、その料理がおいしいか否かをメニューでしか判断できません。おいしさだけでなく、好き嫌いやアレルギーの有無、体調に合うかなども判断します。

飲食店からすると、安価に仕入れた「安全」でおいしい料理を、謳い文句を付して提案しているつもりでも、程度によって、消費者は、唯一、料理の安全・安心を判断できる情報を偽られ、「安心」してその料理を食べる気持ちになれない場合があります。

食品の情報は、消費者にとって重要な情報であり、その内容を偽れば、これまで述べてきたように、景品表示法上の「優良誤認」に該当する場合がありますし、悪質な場合には、刑法上の詐欺罪や不正競争防止法違反となり刑事罰の対象になることもあります。

メニュー表示においても、あらゆる表示を求めることは行き過ぎですが、「安心」できる正確な表示が求められます。

[1] カンキョー事件(東京高判H14.6.7判タ1099号88頁)

旧景品表示法第4条1号の「著しく」の解釈について東京高裁は、以下のとおり判示した。

「およそ広告であって自己の商品等について大なり小なり賛辞を語らないものはほとんどなく、広告にある程度の誇張・誇大が含まれることはやむを得ないと社会一般に受け止められていて、一般消費者の側も商品選択の上でそのことを考慮に入れているが、その誇張・誇大の程度が一般に許容されている限度を超え、一般消費者に誤認を与える程度に至ると、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれが生ずる。そこで、旧景品表示法4条1号は『著しく優良であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示』を禁止したもので、ここにいう『著しく』とは、誇張・誇大の程度が社会一般に許容されている程度を超えていることを指しているものであり、誇張・誇大が社会一般に許容される程度を超えるものであるかどうかは、当該表示を誤認して顧客が誘引されるかどうかで判断され、その誤認がなければ顧客が誘引されることは通常ないであろうと認められる程度に達する誇大表示であれば『著しく優良であると一般消費者に誤認される』表示に当たると解される。」


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