M&P Legal Note 2017 No.3-1
民泊法案(住宅宿泊事業法案)の閣議決定
2017年3月31日
松田綜合法律事務所
弁護士 佐藤康之
第1 民泊法案の閣議決定
民泊に関しては、旅館業法違反の問題があり、さらには近隣住民とのトラブルが社会的な問題となっていましたが、一方で、外国人の訪日旅行客による民泊の利用は右肩上がりに増えている状況であるため、国による早急な対策が求められていました。
このような状況下で、政府は、2017年3月10日、民泊法案(正式名称は「住宅宿泊事業法案」といいます)を閣議決定しました。
所管である国土交通省によれば、民泊法案は、民泊サービスの提供に関して一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図ることを目的としたものとされています。
第2 民泊法案の概要
1 民泊事業についての制度創設
(1) 知事への届出義務
民泊事業(住宅に人を宿泊させる事業)を行おうとする者は、都道府県知事への届出が必要になります。
届出をすることによって、旅館業法の適用除外となりますが、届出をしないと旅館業法違反となる可能性があります。
(2) 年間提供日数の上限
民泊事業の年間提供日数は180日(泊)とするとされています。
なお、地域の実情を反映する仕組みとして、各地方自治体が条例で上限日数を下げることができるものとされています。
(3) 適正な遂行のための措置
民泊事業の適正な遂行のための措置として、衛生確保措置、騒音防止のための説明、苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け、標識の掲示等をすることが義務付けられます。
(4) 家主不在型は管理業者への委託義務
家主が不在の状態で民泊事業をする場合には、民泊管理業者に、衛生確保措置、騒音防止のための説明、苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備付け等の措置を委託することが義務付けられます。
2 民泊管理業の登録制度の創設
(1) 民泊管理業者の登録義務
民泊管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けることが必要となります。
登録を受けずに民泊管理業を営んだ者には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、またはこれを併科するものとされています。
(2) 民泊管理業者による書面交付義務
民泊管理業者は、委託者と管理受託契約を締結しようとするときは、契約内容について書面を交付して説明し、契約を締結したときも契約内容について書面を交付することが義務付けられます。
(3) 再委託の禁止
民泊管理業者は、委託された民泊管理業務の全部を他の者に再委託してはならないものとされています。
3 民泊仲介業の登録制度の創設
(1) 民泊仲介業者の登録義務
民泊仲介業(宿泊者と民泊事業者との間の宿泊契約の締結の仲介をする事業)を営もうとする場合には、観光庁長官の登録を受けることが必要になります。
(2) 民泊仲介業者による書面交付義務
民泊仲介業者は、民泊仲介契約を締結しようとするときは、宿泊者に対し契約内容について書面を交付して説明することが義務付けられます。
第3 今後の展望
1 新法成立等の見通し
政府によれば、民泊法案は今国会での成立を目指し、早ければ2018年1月にも施行するものとされています。
新法施行によって、旅館業法違反の問題はクリアされ、民泊事業者と民泊管理業者に一定の義務が課されることで、周辺トラブルへの対処もされ易くなることは期待できますが、民泊に関係する各主体にとってはなお検討すべき問題が残るでしょう。
2 区分所有マンションにおける問題
区分所有マンションの管理組合としては、新法によって周辺トラブル解決の責任が明確化されますが、一方で、標識の設置等によりそのマンションで民泊が営まれていることが公になり、そのことを好まない区分所有者もいるはずです。
一棟丸ごと投資用マンションとして分譲された建物であれば、民泊を活用することは収益を上げる手段の一つとして、その他の区分所有者も反対し難いでしょうが、実需をターゲットに分譲されたマンションや、実需と投資用が混在しているマンションにおいては、民泊事業を営みたい者と反対者との間で方針が割れ、管理組合として方針を定めていくことが難航することも予想されます。
国土交通省による現在のマンション標準管理規約は、専有部分の用途について、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」という記載例を示していますが、この記載では民泊の可否が明確ではないため、管理組合として方針が定まった場合は、管理規約の変更をする等して対応方針を明確化することが必要でしょう。
3 不動産管理会社としての対応
家主が不在の民泊事業では、民泊管理業者が管理をすることが義務付けられることで、不動産管理会社としては新たなビジネスチャンスが発生することになりますが、新たなビジネスであるだけに、それに伴うリスクも予測が困難です。
民泊新法施行後に、不動産管理会社がオーナーから民泊の管理を依頼される場合、新法の内容をよく理解して、民泊管理業者として必要な登録手続をするほか、新法が必要とする管理業務を含めた適切な管理契約を締結し、新法に従った管理契約の履行をすることが必須となります。
さらに、外国人を含む宿泊者への対応、周辺住民等からのクレーム対応、その他のトラブル対処については、これまでの不動産管理業にはない問題が多数含まれますので、リスクを予測してマニュアル化しておくことに加え、実際に民泊管理業を開始した後に生じた問題についてのノウハウを蓄積して対応の改善に繋げることも肝要です。
新法による民泊業界への影響は、法案の審議状況や政省令の内容によっても変わりますので、今後も引き続き動向に注視していくべきでしょう。
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