Legal Note

リーガルノート

2020.09.11

2017-2-4 契約書作成の秘訣(前編)

M&P Legal Note 2017 No.2-4

契約書作成の秘訣(前編)

2017年2月28日
松田綜合法律事務所
弁護士 小倉佳乃

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第1 はじめに

このニュースレターを読まれている皆様は、契約書をご自身で作成されたり、作成に関与されたりしたご経験のある方がほとんどだと思います。特に、法人の取引であれば、日常的に契約書が作成されますので、法務部の方は契約書のリーガルチェックを日々されていることと思います。個人の方でも、アパートの賃貸借契約等で契約書を作成されたご経験があるのではないでしょうか。
ここでは、契約書はそもそも何のために作るのかという根本的・基礎的な点と、契約書の作成時に必要な作業等について、述べたいと思います。

第2 そもそも契約書は何のために作るのか?

まず前提として理解しておく必要があることは、契約書は契約とは別物である、ということです。契約は、原則として、当事者の意思が合致すれば、口頭でも成立し、これに当事者は拘束されます(一部の例外はありますが、ここでは省略します)。逆に、契約書があっても、契約自体が無効であれば、契約の効力は発生しません。

それでは、なぜ契約書という書面を作成するのでしょうか。

これについては、合意した内容を証拠化することが、最も重要な契約書の作成理由の一つといえます。当事者間の関係が良好で信頼し合っており、合意した内容について争いがない状態であれば、契約書がなくても問題なく取引が進むことも多いと思います。しかし、合意内容に争いが生じた場合、言った言わないの水掛け論が生じることが多々あります。あるいは、契約の途中でその当事者が変更された場合(例えば相続)、元の契約内容が当事者の記憶でしかわからない状態だと、困ったことになります。このような事態を避けるため、合意した内容を書面という客観的かつ事後的に検証可能なものに落とし込むことが重要になります。実際、契約についての紛争が裁判に持ち込まれた場合に、重要証拠として提出され、事実認定の際に重要視されるのが、契約書です。このように、契約書は、その契約自体の存在と内容を立証するための証拠資料として重要な役割を担っています。

合意内容の証拠化以外の点でも、以下のとおり、契約書を作成するメリットや機能は多くあります。

  • 法律と異なる特約をする

上記のとおり、当事者間の意思が合致していれば、契約自由の原則により、様々な内容の契約を締結することができます。法律に定めがある事項についても、一定の限界はありますが、それと異なる合意をすることも可能です。このように、法律と異なる内容の合意をする場合、契約書は、その存在と内容を記載することにより明示できるという機能があります。

  • 契約締結を慎重にさせる

口頭で契約をする場合には、契約内容が複雑であればあるほど、契約内容を正確に把握することが困難になりますし、契約の締結による利害得失について、冷静な判断を欠くおそれがあります。契約内容を文書で表現すると、契約全体の趣旨や部分的な利害得失を、正確かつ客観的に把握することが可能になりますので、その内容を慎重に検討して不利な契約の締結を回避したり、不利な条件を改めてから契約することが可能になります。

  • 履行を円滑にする(パフォーマンス・プランニング)

契約書には、当事者の権利義務関係をはじめとする合意内容を記載します。例えば、売買契約であれば、誰が、いつまでに、どのような支払方法で売買代金を支払うかといった義務の内容や履行方法について細かく記載することになります。このように、契約書は、それに権利義務関係を明記することにより、契約債務の履行を円滑に行えるようにするパフォーマンス・プランニングの機能があります。

  • 不測の事態への対策をする(リスク・マネジメント)

取引には、相手方が義務を履行してくれなかったり、契約の前提が崩れる事態が生じてしまったり等、不測の事態がつきものです。契約書には、このようなリスクについて、あらかじめ対処法やリスクの分配について決定して記載しておくことにより、リスク・マネジメントをするという機能があります。

第3 リスク・マネジメント

契約書には当事者の合意内容を記載することになりますが、弁護士が契約書のリーガルチェックの際にとりわけ神経をとがらせて検討しているのは、その契約書の内容が、不測の事態に対処できるものであるかという点です。
そこで、ここでは、契約書を作成するにあたり、どのようにしてリスク・マネジメントをしていくのか、その手法について述べます。

1 リスクのシミュレーション(リスクの想定)

最初の作業として、その取引において発生することが想定されるトラブルやリスクが何であるかということについてシミュレーションをします。この作業には臨床経験、ビジネスについての理解と洞察力、そして豊かな想像力が必要とされます。つまり、問題となっているビジネスの実態や仕組みを把握したうえで、どのような財やサービスが動き、それに対してどのような対価が動き、どのような得失が生まれるのかを把握していなければなりません。そのような理解なしには、どこで利害が対立し、トラブルになりうるのかを想定できないのです。

このようなシミュレーションは、取引類型によってはある程度容易にできることもあります。しかし、同じような類型の取引であっても、具体的な対象商品や自社・他社の資力、技術力、個性等の当該取引に特有の事情によってリスクやその蓋然性に違いが生じるため、個々の事情を考慮したシミュレーションをしなければならないことに注意が必要です。

2 リスクのアセスメント

リスクのシミュレーションをした後は、そのリスクが起こる蓋然性や、その深刻度についての見極めの作業を行います。これが、リスクのアセスメントです。ここでも、潜在的なトラブルやリスクの顕在化の可能性の度合いに関する予測能力が問われます。当該ビジネスの規模や、当事者にとってのそのビジネスの重要性、当事者のトラブル回避能力や処理能力の熟練度の度合い等について、洞察力が必要になります。無視できる程度のトラブルやリスクなのか、それとも放置できないほどの重大で深刻なトラブルやリスクなのかについて、判断が必要になります。

3 リスクの(狭義の)マネジメント(対処策の決定)

最後に、検討されたトラブルやリスクを、その蓋然性と深刻さの度合いに応じて、契約書の中でどのように対処するかとの対策決定をします。これをリスクの(狭義の)マネジメントといいます。契約書の中でリスクに対処する方法としては、例えば、契約の解除や損害賠償、免責等の条項を盛り込むことがよくあります。
ここでは、どこまでが相手方に対して譲れない問題として自己に有利な条項の維持を主張するか、逆に、無視・放置できる程度の問題として相手方に対して譲歩するかという決断の作業をすることになります。

 

 


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